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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
四章 輪廻凱旋! 都市奪還作戦
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六十二話 無力

轟音と光。そして衝撃。

一気に押し寄せた強烈な爆風が吹き荒れる。


「くっ! 何がどうなってる!? ランデュネンは、シンシアは!?」


状況が分からない衛兵総長ザギバは、自警団長シュトロンに判断を仰ぐ。


「…………」


シュトロンは背を向けたまま言葉を返さない。

ただ、呆然と立ち竦んでいるだけだ。


「おい、シュトロン!」


「……た」


ボソッと小さな声を漏らす。


「なんだって?」


ザギバが歩み寄り近づきシュトロンの顔を窺う。

その表情は悲壮と驚愕。そして、絶望。

目を大きく開き、瞳孔も開いていたまま唇を震わせている。


「五区衛兵長ランデュネンは……死んだ……」


「なっ!! ……おい冗談だろ……」


「冗談なもんか……一瞬だ。気が付いたら、五区衛兵長の首が落ちていた。

五区の衛兵も全滅だ……」


「そんなバカな! 冗談は――――」


「冗談なもんかっ!!! 現実だっ!!」


シュトロンが感情を露わにして叫ぶ。

その気迫でザギバは知る。

十八の時入隊し、同期として競い合った対等な友人にして

対等なライバルであったランデュネンは本当に死んだのだと。

そして五区調査作戦で苦労して助け出した衛兵の命が、数秒足らずで全滅したのだと。

その心情は計り知れない。


「くそっ! シンシア。シンシアはどうした。家屋の上に居たのは見えたぞ!」


「分からない。凄い速さで二区の中心の方へ走って行ったのは見えた。丁度、あの爆心地の辺りだ」


シュトロンが街が消し飛んだ荒野を指さすと同時に絶句する。

ザギバがその指先を辿ろうと指先を見ると上下に激しく震えていた。


「シュトロン?」


顔を覗き込むとまるで世界の終わりを見ているかのような表情。

視線の先を見ると、遅れて気が付いたザギバもその姿を捉えた。

そこにポツンと何かが立っている。


「――――」


ザギバも言葉を失う。

二足で歩く背の低い生命体。

身体には傷一つない完全な肉体を有している。

衛兵の着ていた服であろうボロボロの茶色い布切れを腰に巻き、何か長いモノを咥えていた。

それは白くしなやかな右腕。

見るからに女性の手だ。

腕には皮できつく縛られた跡が残されている。

それと一致するのはすぐに浮かんだ。


「シン……シア……」


そう。生物はシンシアの腕を貪り食っていた。

まるで買い食いをしているかのように、腕を野菜スティックのようにボリボリと噛み砕いてゆく。

目に映る情報で、二人は戦いの結果を理解し戦慄する。

生物が掌を呑み込むと同時に、感情を爆発させた一人の男が駆け出した。


「薔薇の瞬き!!!!」


シュトロンの精霊装備 鞭剣(べんけん)『才色兼備』が鞭のように伸び、生物の周囲を取り囲み、逃げ場を奪う。


「散れッ!!」


鞭剣は一気に収縮。360度から鋭い剣が生物を襲う。

並の生命ならバラバラの肉片に変わる。

だが、この生物は並じゃない。異常にして異端。

身は傷一つ付いていない。

生物は動じもせず、ただその事柄を見送っている。

もう終わりかと言わんばかりにシュトロンの顔を見た。


「バカ……な……。これじゃまるで……」


その強度はまるで精天機獣(せいてんきじゅう)の誇る“天使の機体”そのままだと。

そして悟った。この生物は“生き物”としての格が違うと。

この生物はバルスピーチに複製結合されたどの生物よりも強いと。

生物の腕の一振りで鞭剣はキリキリと悲鳴を上げた。

引き千切られる寸前。一か八かと喉元で鞭剣を引き切断を計る。

が、それは無駄な事。

自由を取り戻した生物は、自由を拘束したシュトロンの命を狙う。

指を綺麗に揃え、鋭い手刀が振るわれるその間際。


「うおおおおおりゃ!!!」


二人の間に大斧が振り下ろされる。

生物は余裕で回避し、後方に退く。

シュトロンの窮地を救ったのは二格、三格と下の男。

衛兵総長ザギバだった。


「やめるんだ、衛兵総長! 君では手も足も――――」


「んなもん分かってらぁ!! だが、お前が死ぬのを突っ立って見てるわけにはいかねぇだろうが!!」


「衛兵総長……」


「理性飛ばして弾丸みたいに飛んで行きやがって! 冷静になれ! シンシアはあの勇者カウルと並ぶ英雄だぞ!

あんなワケの分からないもんに負けるわけねぇ! 腕一本くらいくれてやったんだろう!」


ザギバは見た情報を前向きに捉え、シュトロンと自分自身に言い聞かせた。

生物は二人の力量を見分で測る。


「ア――――」


弱者だと判断すると一瞬にして二人に迫った。


「っ――――」


シュトロンは咄嗟にザギバの前に出て両手を大きく広げる。

ほんの小さな抵抗。

ザギバはシュトロンの凛々しい表情がスローで目に映った。

走馬灯のような不思議な感覚。

しかし、現実は残酷だ。

彼の漢気も虚しく、二人して死ぬのだと脳が理解していた。

二人は死を覚悟する。だが、そんな簡単に死ぬ事は許されなかった。


伸びた脚が空間が揺れるような衝撃波を放ち、爆裂の一撃が生物の顔に打ち込まれた。

生物はロケットの如く吹き飛び、数百メートル離れた地面に激突するとボールのようにバンバンと地面を跳ねる。

勢いが落ちた終盤、ゴロゴロと地面を転がり大きめの石片にぶつかり止まった。


「俺が相手する」


「君は……」


シュトロンはその顔を見て驚く。


「お前……無茶だ! 助けてくれたのには礼を言うが、アレの相手は無理だ!」


ザギバは彼を死なせまいと説得する。

遥かな格上と何度も対峙し、死線をくぐり抜けてきた甲斐あり、危機感知のレベルが向上していた。

あの生物には勝機を感じない。束になって戦っても完全な負け戦だと理解している。


「奴は化け物だ。衛兵総長の言う通り、ここは退くしかない!」


「何処へ? 橋はもう破壊され、退路は断たれた」


「危険を承知で海に飛び降りるしかない!

ここに残るよりか遥かにマシだ!」


「そんなんじゃ負傷者は間違いなく死ぬ。

だからここでこいつを倒すしか後ろの奴を生かす方法はねぇ」


シュトロンの言葉を無視して前に歩き出す。

ゴツいグリーブが荒々しく雷を迸らせる。

つま先を地面に数回突くと自身の太ももを叩く。


「仕方ない……僕たちも――――」


シュトロンが微力ながら戦力になろうと数歩前に出ると太い腕がそれを制す。


「あんたらは全員に退避指示を。俺の連れを何がなんでも避難させてくれ」


「君は何をさっきと言ってる事が――――」


「あいつはランデュネンとシンシアも倒した相手だ。死ぬ覚悟はあるのか?」


「ある」


返事は即答だった。

ザギバはその意を酌み、背を向け後方に進みだす。


「……分かった。じゃあお前に任せる」


漢は静かに頷く。


「衛兵総長!!」


シュトロンは何を言っているんだと声を荒らげるが、

ザギバは彼の言葉の意味と覚悟を理解し、言いたい事を全て呑み込み下がる。


「シュトロン行くぞ。より多くの衛兵にここの現状を伝えるのが、今の俺達の役目だ」


多くの命を救うためにザギバは苦渋の選択で戻る事を決めた。


「死ぬなよ」


ザギバは一言だけ言い残し後方に駆け出す。

シュトロンも後ろ髪を惹かれながらも退く決断を下した。

同時に生物は起き上がり五体の感覚を確かめると、自分を蹴り飛ばした存在を認識。


「ア――――」


次の対象として狙いを定めた。


「お前を後ろに行かせるわけにはいかねぇ。俺の大切なもんが控えてんだ。さあ、来やがれ!!」


静かに右ひざを腰の高さまで曲げ、キーフは戦闘態勢で迎え撃つのだった。


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