五十九話 死の元凶
体長三メートルほどの巨体。
頭上からは無数の触手が蠢き
中心部の大きな目玉が不気味に動いた。
「あ、あれは……。。。!」
キリエの視線の先に目を向けたシンシアは
憎しみの籠った険しい表情で睨みを利かす。
「バルスピーチッ!」
“精霊女王の忘れ形見”“喰者”の一体。複製結合バルスピーチ。
シネト村の湖でシンシアの無数の光の矢を受け、沈んでいったが、やはりその身は健在。
シンシアから受けた傷は跡形も無い。生物を喰らい回復したのだろう。
「野郎! やはり居やがったか!」
キーフが歯を強く噛み締め、敵意を剥き出しにする。
バルスピーチは体内に取り込んだ生物を模倣し
複製を排出する能力《複製》により
以前寄ったシネト村周辺のオーガの集団も
村を襲ったネオパンサーの群れも
このスネピハを襲うオーガ全ての産みの親。
そして、もう一つの能力《結合》により
体内に取り込んだ生物を何体も結合し
村を一撃で消し飛ばす熱閃を放つ肉塊も
精霊人と天使の機体そして、精霊獣を結合させ“精天機獣”をも造り出した。
精霊人の敵。いわば、大量破壊と大量虐殺の元凶である。
バルスピーチは精霊王アーガハイドの命令で集まった精霊、精霊獣を
轢き潰し、エナを吸って力を更に増す。
「おいおい、あいつ同族を喰ってやがるぞ……」
衛兵総長ザギバもその光景に表情を歪ませた。
「アレは“精霊女王の忘れ形見”原生生物なんでただの餌だとしか思っていないわ。
私たち精霊人含めてね」
シンシアは冷静に弓に矢を番えて
バルスピーチの一挙手一投足を見逃すまいと意識を集中する。
力を得たバルスピーチは頭上から丸太のように太い触手を周囲に展開。
「みんな、気を付けて!!」
危機を察したシンシアが警告を叫んだその刹那。
バルスピーチの触手は地面に激しく叩き付けられた。
分厚く太い触手は薄い布のように潰れており
桃色の血が噴き出している。
何が起きたのか理解できないバルスピーチの目は激しく血走り暴れ狂っている。
「いてぇか? いてぇのぉ、バルスピーチ。
じゃが、民と王の痛みは苦しみはこの程度じゃ全然足りぬわぁ!!」」
一同から一歩前に出た五区衛兵長ランデュネン。
能力《重鎮の核》で
バルスピーチの触手の先端を超重力で潰し
根元までじわじわと苦しみを与えるかのように捩じり潰していく。
「五区の民の九割は貴様が作った木偶人形のせいで死んだんじゃが!!」
容赦の無いランデュネンの猛攻。
重力の攻撃に成す術の無いバルスピーチは
痛みに悶えながらも体内から全ての触手を全力展開。
その数は百本を超えていた。
産み出そうとしているのはシネト村で作り方を学んでいる肉塊百体。
ネオパンサー、オーガと徐々に複製結合のレベルを上げ肉塊を意のままに
複製出来るまでに至っていた。
放たれたが最後。スネピハは百の熱閃で焼き尽くされ人々は蹂躙されるのは必至である。
しかし、バルスピーチの思惑は叶わない。
「広重力帯!!」
ランデュネンは広範囲に及ぶ重力攻撃で全ての触手を閉じ
肉塊の吐き出し口を完全に封殺した。
ランデュネンは半分に潰れている巨大な桃に狙いを定める。
「狭重力帯!!」
狭い範囲に超重力を落とし、バルスピーチの鮮やかな巨体に無数の風穴が空く。
「もう旬は過ぎた。朽ちよ“喰者”」
美麗な桃の皮は無惨に抉れ、
大量のエナとなり朽ち果てたのだった。




