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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
四章 輪廻凱旋! 都市奪還作戦
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五十七話 理解者

二区では激しい戦いの喧騒(けんそう)が響く。

奇襲してきた精霊は見えている限りで三千強。

前衛にいるオーガが大半。ちらほらと精霊獣もいる。

後衛には精霊術を使う精霊が、次々と遠距離攻撃を仕掛けてくる。


「うぉおおおりゃ!!!」


衛兵総長ザギバは先頭で大斧を振り回し、オーガを両断してゆく。


「全員ヤバくなったら素直に引け! 陣形は崩すなよ! 無理せず後続に任せろ!

弓兵は後方の精霊を頼む! 俺達じゃ手出しできねぇ!」


衛兵たちは大きな返事を返す。

衛兵数人程度では勝ち目の無いはずのオーガを相手にしても、対等以上に戦えている。

これはザギバの指揮と衛兵の団結があってこそだ。

シンシアは弓矢で後方の精霊を次々と適格に射抜いて確実に数を減らしてゆく。

自警団長シュトロンは自身の剣術で右側を、五区衛兵長ランデュネンは能力《重鎮の核(グラビトン)》で左側を単身で制圧していく。


「すげぇ……」


レオはキリエがアースウォールで造った即席の陣地内でその戦いを見守り

その勇猛な戦いぶりに感心した声を漏らす。

そこに次々と戦いで傷ついた負傷兵が運び込まれて来ていた。

レオはその様子をただ見ている事しかできず歯がゆい思いをしていた。


「お兄ちゃんは行かないの。。。?」


「俺はここでお前たちを守る」


キーフはレオとキリエの近くでずっと待機していた。

有事の際には、いつでも参戦できるように万全の状態を保っている。


「あれ? そうえば、俺達を助けてくれたあの筋肉のすげぇカシャって人は?」


レオがレオが助けた衛兵に聞く。


「本当だ。いませんね……いつの間に――――」


「上だ!!」


突如、一人の負傷兵が大声を上げた。


「上?」


カシャがいるのかとレオが空を見上げる。

衛兵の指さす先には大量の鳥が群れを成し、空を覆う。

身体の二倍はある大きな翼に猛禽類のような鋭い顔つき、

肉が軽々と切り裂く鋭い爪を持った精霊獣ガルダだ。

そして、ガルダに乗った多くの精霊、精霊獣が上空から降下してくる。


「降下兵だ!! 来るぞ!」


陣形の内側を衝く空からの降下兵。

内側から攻撃されれば、前線は挟み撃ちにあい指揮系統が混乱。統率が乱れるのは必然。

後衛も負傷者を守る戦いを強いられる事になる。

精霊獣が一斉に降り注ぐ間際。

一本の矢が中心部に放たれた。


崩壊(ゼータバース)


小言のように静かに呟くと、矢は空を弾き、周囲を赤黒く染め、無数の命と煌々と輝く星々を散らせた。

眼の良いシンシアは遠目から空襲に気が付き、いち早く後方に戻っていたのだ。

千近くの生命が一瞬でエナと変わる。無慈悲なる一掃。崩壊の矢。

多くの命を救ったと同時に多くの命を奪い去った。


「化け物……」


あまりに一瞬の消滅に、一人の衛兵が恐怖に(おのの)く。

自分がふと思いを口にした事に気づき、急いで両手で口を閉ざす。

しかし、その一言は、心の中で思い留めていた者達に恐怖を伝染させる。

シンシアを見る衛兵の目が変わってゆく。

圧倒的な力は人々を尊敬させる一方、恐怖させる。

もともと精霊人の中でも異形種と忌み嫌われてきたエルフだ。

一般の衛兵からは尊敬よりも嫌悪が勝ってしまう。恐怖が勝ってしまう。


「あれが異形種の力……」


「精霊王と変わらないじゃないか……」


衛兵から次々とそんな声が漏れ出す。

どんどんと空気がシンシアを恐れていく。

彼女を孤立させてゆく。


「ふっざけんな!!」


そんな空気を大声で払拭したのはレオだった。


「俺達を、お前らを守ってくれたんだぞ? なのに、何でそんな事が言えんだよ!!

俺もお前らも見た目も強さも違えど精霊人だ。彼女だって同じだろ!!

見た目も強さも違えど精霊人だ!!」


レオの一喝で衛兵は目を逸らす。

悪いとは思いつつ、恐れはまだ抱いている。


「お前らみたいな同族に疎まれながらも、

たった一人で千年以上もこの世界と精霊人を救ってくれてんだよ!!

文句も言わず、愛想も尽かさず、守ってくれてんだよ!! 一人で戦ってきたんだよ!!

なのになんでてめぇらはそうなんだよ! 自分の器で理解できない力を排他的にすんだよ!!

優れてんなら助けてもらえばいい、(すが)ればいい。劣っているなら助ければいい、救えばいい。

借りを返し、返される。そうやって共存するのが精霊人ってもんじゃねぇのか……よ……」


レオは熱弁した直後、レオは気を失うようにして倒れる。

それを颯爽と優しく受け止めたのはシンシアだった。

その瞳は潤み、大量の涙が溜まっていた。


「レオッ……ありがとう」


やがて、大量の涙が溢れ出す。


シンシアの千二百年かけた孤独な旅の果て。


やってきた行いと信念が、確かに一人の少年に伝わったのだと。


彼女は心の底から喜び。


心の底から報われた瞬間だった。

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