五十五話 雷光開幕
スネピハに急ぐ最中、魔導具『黒鏡』を使って朔桜に連絡を取ろうと試みるが
かからない。同様にノアも出ない。
「あいつら……」
黒鏡を強く握り締める。
苛立ちともどかしさで壊してしまう前に黒鴉の衣にしまった。
「居場所は掴めたか?」
新たに金で雇った傭兵のカシャが結果を聞いてくる。
「いいや、分からん。だが精霊王の近くに居るだろう」
爆速で鬱蒼と茂った森の上を飛ばしていると
遠くに巨大な門のようのものが無数に並んでいるのが確認できた。
巨大な湖の大半をドでかい壁で囲んだ湖上の街。
「あれが水都市スネピハか?」
俺はカシャに確認する。
「そうだゾ! 見るのは初めてか?」
「俺は精霊界出身じゃないからな」
「あぁ、メサもそんな事を言っていた」
「この精霊界の精霊人とは違う。あいつも俺と同じ魔界の魔人だ」
「魔界か。別の世界、すごく興味があるゾ! 良いところか?」
声は弾み、期待している様子が窺える。
だが、あそこはそんないいところじゃない。
「精霊界よりも衣食住は遥かに発展している。だが、毎日、毎日同族同士で争いの絶えない最悪の世界だよ」
質素ながら広く穏やかな精霊界や、人が多く技術の高い人間界の方が数千倍良い世界だ。
誰が好き好んであんな殺伐としたいつ死んでもおかしくない世界に住んでられるか。
「そうか。精霊界よりも大変そうだな」
雑談をしていたら王城らしきものが見えてきた。
あの一番高い城がきな臭い。
バカな王ってもんは大体ああゆうところに居るって相場が決まっている。
「城の平坦なところに着地する。着地後俺は精霊、精霊獣共をド派手にぶち殺し、精霊王も殺す。
お前は隠密に朔桜を探せ。
覚えているだろ、最初に俺と戦った時、地べたに寝てた桜髪の女だ」
「私は忘れっぽくてな! 全て忘れたゾ!」
吞気に笑ってやがる。
傭兵として本当に大丈夫かこいつ。
「鳥頭、よく覚えとけ。いいか? 桜髪のトロそうな女だ。
そいつだけは、お前が何度死のうが何としても守れ」
「はは! 一回までしか死ねないゾ! だが、了解した!」
親指を立て力強く反応した。
「後、お前エナの探知は出来るか?」
「細かい探知は出来ないが、弱い強いを判断する程度なら出来るゾ!」
「上等だ。見つけ次第、朔桜を連れて城外で一番でかいエナのところへ向かえ。
そこには金髪エルフの弓使いがいるはずだ。そいつと合流してここまで戻ってこい」
「まずは城外のデカいエナのところに行けばいいんだな! 了解だゾ!」
カシャは弾丸のように飛び出していく。
「ん?」
あいつ今何か言ってたような気がするが、着地と同時に姿は消えていた。随分と機敏な野郎だ。
頭より肉体にステータスを振り過ぎたタイプだな。
まあいい。今の轟音で雑魚共が俺の侵入に気づいたみたいだ。
こっちは精霊王と戦う前にボーナスタイムで消費したエナを回復させてもらうとしよう。
周囲に群がって来る精霊共を紫雷で一掃。
爆雷で精霊獣共を消し飛ばし、精霊王が居そうな場所を探る。
目に留まったのは中庭の階段の先にある分厚く大きい堅牢な扉。
木製ながらもその豪華な装飾に目がいく。
「妥当にあの辺か」
俺が真っ直ぐ足を進めると雑魚共が進行を邪魔する。
「消え果てろ」
電撃を振り撒き有象無象を蹴散らす。
微々たるエナを吸収し、階段を無視して一足で扉の前まで跳ぶ。
ドアを足で蹴り破ると割れたステンドグラスの前にある玉座でふんぞり返る標的、
精霊王アーガハイドと見知らぬ白髪の女がレイピアを持って対峙していた。
貴公子のような品の良い服に軽微な鎧。
エナは大したもんはない。
「新手!?」
振り返り俺の顔を見ると、すぐさま敵意を剥き出す。
女の意識が逸れた瞬間、精霊王は女と俺にまとめて光を放つ。
「風衝」
全く危機感の無い女を横に吹き飛ばし、俺は軽快に光をかわす。
アーガハイドは驚く様子も、悔しがる様子もなく、表情は一切変わらない。つまらない男だ。
まあ、そんな事はどうでもいい。
まず気になるのは、朔桜が居ない事だ。
そして、俺の伏雷神ライトニングが切り落とした奴の腕が治っている事だ。
「ご自慢の右腕はくっついたようで何よりだ。で? 朔桜はどこだ?」
「知らぬ」
そこ言葉に頭が熱くなる。
「てめぇが連れ去ったんだろ。とっとと出せ!」
右手から稲妻が迸る。
うっかりと感情が出過ぎた。
冷静を欠くな。平常心だ。平常心。
稲妻を消し、いつでも奴と戦える臨戦態勢を取る。
精霊王の言葉を待ったが、先に声を出したのは吹き飛ばした女の方だった。
「朔桜……? 貴方、もしかして朔桜の仲間なの!?」
以外な言葉に意表を衝かれる。
「お前、朔桜を知っているのか?」
「朔桜とは精天機獣を一緒に倒した仲よ」
聞き慣れない単語が出たがそんなものはどうでもいい。
「あいつは無事か? 何処に居る?」
「彼女とは四区の避難所で別れたわ。恐らく無事なはずだけど……」
確証が持てないという言い方だ。
まあ、城に居ない事が分かっただけでも十分だ。
これで存分に暴れられる。
「情報助かった。お前は早くこの城から逃げろ」
「何をっ! 私はそいつを倒さなければならない!
その責任があるの! 貴方こそ早く逃げなさい!」
俺は女の言葉を無視し、爆雷で精霊王ごと玉座を消し飛ばす。
「なっ!」
女には俺の爆雷が見えなかったらしい。
やはりその程度の精霊人。戦力にすらならないレベルだ。
煙が晴れると精霊王は素手で俺の爆雷を防いでいた。
まあ、アレで死なれても興が冷める。
「短時間で少しは成長したようだ」
随分と上からな物言いだ。
まだ自分の方が上だと思っている事に腹が立つ。
「その身体にたっぷりと味合わせてやるよ。俺の雷の味をな」
「ほざけ」
女騎士を余所に
精霊王の光と俺の雷撃が交じり合う。
王室は目映い雷光に包まれた。




