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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
四章 輪廻凱旋! 都市奪還作戦
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五十三話 メサ再び

ジメジメと薄暗い森の中。

あれから二六回。いや、二十七回か? まあ、細かい事はいい。

それほど殺したにもかかわらず、誘香粘竜(ゆうかねんりゅう) ストロベリアルは健在だ。

甘ったるい匂いをまき散らし、この俺に勝てる訳もないのに果敢(かかん)に挑んで来やがる。

時より匂いに誘われてくる精霊や精霊獣を糧にしてエナを繋ぐ。

俺のエナの量は十分に余裕はある。


「爆雷!」


頭を弾き飛ばしてもすぐに再生。

五体を散らしても死にやしない。

下級の魔術では傷つける事すらできず、

中級の魔術では部位を欠かせる程度。

上級の魔術で半身を消し飛ばせる。

だが、どうも決め手には欠けるらしい。


「いい加減面倒だな」


俺にはこんな得体の知れない生物と遊んでいる時間は無い。

八雷神で跡形も無く消し飛ばそうとした時、

背後の森の奥から異様な気配を感じた。

気配は二つ。このエナには覚えがある。

二体とも以前会った事がある。


「爆雷」


背後に目も向けず、手だけを後ろに伸ばし

問答無用で爆雷を放つ。

当たりはしたが、どうやら耐えられたようだ。

土埃が舞い敵の姿が視認できない。


「まったく。気が早いよ。普通声を掛ける前に攻撃してくるかい?」


つい最近聞いた事がある声。

もう一方は声を出していない。


「こっちは絶賛戦闘中なんだ。お前らに構う時間も暇もない」


「そうかい、カシャ。彼と話す時間が欲しい。アレを相手していてくれるかな?」


「分かったゾ!」


土埃から弾丸の如く飛び出してきたのは、以前戦った筋肉ペンギン野郎だ。

その身一つでストロベリアルを圧倒。強さも速さも数段増してやがる。


「これで少し話しができるね」


「断る。こっちは急いでんだ」


好都合だ。ストロベリアルはあのペンギンに押し付けて俺はとっとと行かせてもらう。


「随分と急いでいるね。あの可愛らしい桜髪の子が攫われたからかい?」


「紫雷―咲花(さきはな)!!」


広範囲に広がる紫雷。

これなら姿が見えなくても身体から出る微弱な電気を捉えて当たるだろう。


「魔力に余裕が無いのに上級魔術とは、図星で怒っちゃったかな?」


無傷のうえ、涼しい顔で出てきたのは暗紅色の短髪。

筋肉ペンギンが出てきた時に大体確信していたが、

こいつは以前キジュ村で朔桜の宝具【(エレクトロ)電池(チャージャー)】の隠匿を解いた魔人。

メサ・イングレイザ。


「今日はあの陰険(いんけん)なお友達と一緒じゃないのか?」


皮肉を込めてあの影の存在を窺う。

あいつの侵食能力は不意を衝かれれば厄介だ。


「ああ、彼とは別行動さ。イレギュラーが起こってね。

このままだと計画がパーになっちゃうからさ。

悪いけど、気味に少し協力してほしくてね」


「断る」


「判断が早いなぁ。勿論、君にもメリットはあるよ」


メリット? 事と次第では協力するという手もある。

俺は顎で話を続けろと催促する。


「まず一つ目。その甘い香りの竜を倒してその魔力を君にあげよう。

二つ目。そこのカシャを貸そう。強力な戦力になるはずだ。

三つ目。君の力の限界を上げてあげよう。

どうだい? 驚くほどに好条件だろ?」


メサを指を一本一本立て条件を並べる。

確かに好条件ではある。だが、理解し難い。


「何が目的だ?」


率直に聞くと予想外の回答が返ってきた。


「君にやってほしいのは、精霊王の始末だ。

確実に死を確認するためにエナを吸収するところまでやってほしい」


「ふん、精霊神とやらの封印を解くのに邪魔だってか?」


「そうだね」


あっさりと認めやがった。

この情報は秘匿(ひとく)していたのではないらしい。

となると、故意に俺たちに伝わるようにヌエに話ていたのか。

やる事成す事何もかも気に食わねぇ野郎だ。


「彼は僕らにとって邪魔なんだ。

だから悪いけど、君になんとかしてもらおうかなってね。

どうかな?」


目的は一致しているが、何か癪だな。

決定的な何かを隠している。

本当の目的は別にあるのだろう。

だが、助けに行く時間が惜しい。

ここは受け入れた方が得だ。


「いいだろう。口車に乗ってやる」


「そうか!いい返事が聞けて嬉しいよ。

じゃあ、悪いけど、五秒待っててくれ。あの竜を消してくる」


「五秒って……おい!」


メサは俺の返事を待たず、体重が無いのかと思うほど軽やかに

そして静かにストロベリアルとカシャの戦闘の渦中に入っていく。


「もういいのか、雇い主」


「うん。話はついた。下がっていいよ」


メサは片手を伸ばす。


「《解放の黒揚羽(レリーズバタフライ)》」


《解放の黒揚羽》。あれが奴の能力だろう。

大量の黒い蝶が手から放たれ

巨大なストロベリアルを見えないくらいに囲んだ。


「さあ、これでゆっくりと話ができるね」


勝負はまだついていない。空中で黒い竜体が(うごめ)いている。

アレで何度も再生するストロベリアルを倒したようには見えないが

半信半疑で見ていると黒い蝶が次第に散り、大気に消えてゆく。

すると今さっきまで飛んでいた赤竜の姿はもう何処にもない。

残っているのは、宙を漂うストロベリアルの大量のエナだけだった。

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