五十一話 圧倒、唖然。
アシンメトリーの金仮面が美しく光る。
隆起した筋肉は自我を持った生物のように鼓動し、マントが大きく風になびく。
「カシャ、参・上!」
突如現れた暑苦しい筋肉は、勝手にポージングを決めだす始末。
「カシャ……その名どこかで……あ、金有場のロードが仕留め損ねた相手!」
シンシアはすぐに敵意を向けた。
朔桜に危険が及ばぬようカシャとの間合いを測る。
「うわぁ~ムキムキペンギンだぁ」
そんな中、朔桜は初めて動物園でペンギンを見た時のような反応で
吞気にカシャの動きを観察していた。
「朔桜、早くこっちに来なさい! そいつも敵よ!」
「え? でも、今助けてくれたんじゃ……」
確認するかのようにカシャの様子を窺う。
しかし期待した反応とは全く別のものだった。
「朔桜……? おおっ! 桜髪のトロそうな女! 見つけたぞゾ! 雇い主が探しているゾ!」
「さ……桜髪のトロそうな女ぁ!? シンシアさんこいつは敵です! 倒しましょう!!」
指を何度も差し敵だと認定する。
「待って朔桜、落ち着いて! どう、どう。
その振り上げた拳をおろして。 今雇い主って、それって誰の事?」
今にも突撃しそうな朔桜を抱え、
カシャから情報を聞き出す。
「それは――――」
カシャの背後から丑の刻が拳を振るう。
「報復。」
不意打ちにものともせず、機敏な身のこなしで背後も見ずに拳をかわす。
「まず最初にこいつを倒さなければ、落ち着いて話せなそうだ」
バキバキと両指を鳴らしたカシャ。
強く拳を握り、そのまま精天機獣の硬い機体に打ち込む。
「コウテイパンチ!」
「無力。精霊人の拳などで――――」
高を括る丑の刻。
その完美品の天使の機体をカシャの拳がいとも容易く砕いた。
「嘘ぉっ! 精天機獣の機体を拳で!?」
シンシアは衝撃の光景に目を見開く。
「はは! 造作もないゾ!」
余裕があるカシャはさらに追い打ちをかける。
「フンボルトキック!」
放った普通の蹴り。だが、その破壊力は尋常じゃない。
丑の刻は咄嗟に腕で防ぐが機体は大破。
片腕がへし折れる。
「異常。天使の機体を細木のように! このっ……化け物め!」
逃げ腰の丑の刻は早々に背を向けて閃光のような速度で逃げ出す。
だが、逃走を黙って許すカシャではない。
「シュレーターダッシュ!」
綺麗な姿勢で走り出し、あっという間に丑の刻に追いつく。
「怪物。」
「マカロニタックル!」
勢いを殺さず、猛速で丑の刻の背に肩から飛び込む。
丑の刻は前に吹き飛んで動きが止まった。
息を荒らげ堂々と立つカシャを見上げる。
「異能。貴様のその能力はなんだ……」
「生身だゾ!」
チョップが丑の刻の首を一瞬で飛ばす。
「何、あの圧倒的な力……素直に引くわ」
シンシアは呆れ顔でその様子を見るしかない。
「あはは……あ、そうだ! ペンギンさん! お腹の宝石を壊して! それが精天機獣の心臓みたいなモノだから!」
朔桜は口に手を添えて大声でカシャに弱点を伝える。
「了解だゾ! トロい女!」
「シンシアさん! 今! 今、諸共に倒して!」
朔桜が憤慨している最中、
カシャは大振りの蹴りで丑の刻の核を破壊。
あの精天機獣最強と言われた丑の刻の複製体は、あっけなくエナとなり散る。
カシャは僅かに出たエナを吸収し、堂々と二人のもとに帰還した。
「あの相手を瞬殺って……貴方、本当に金有場? 普通に精霊界でも指折る程に強いんじゃ……」
「そこまで言われると光栄だゾ。痛い思いをした甲斐があったってもんだ」
「聞きたい事は何個かあるけど、とりあえず貴方は味方って事でいいのよね?」
「いいゾ!」
「ほんと~?」
朔桜はジト目で睨む。
初対面でトロい女と言われたのを相当根に持っているようだ。
「間違いなく味方だゾ!」
シンシアはそれを聞いてホッと胸を撫で下ろす。
これ程の相手と戦うとなると周りを気にしていられない。
守りより攻撃が得意なシンシアには荷が重い戦いになる事は必至だった。
それが味方となれば、かなり心強い戦力だ。
「じゃあ、早速だけれど。あの人を運んでもらえるかしら?」
「お安い御用だゾ!」
カシャは負傷した三区衛兵長モルボを背負う。
「それじゃ、このままレオたちを助けに行きましょう。衛兵さん、案内してくれるかしら」
「はい! こちらです!」
衛兵たちは良い返事をしてレオたちが午の刻と戦っているであろう貴橋まで駆け出す。
朔桜はまだ頬を膨らましカシャを可愛らしく睨んでいる。
「もう、朔桜も早く! モタモタしてると精霊獣に食べられるわよ」
「う! まっ待って~~」
情けない声を漏らし、朔桜はシンシアの後を追った。




