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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
四章 輪廻凱旋! 都市奪還作戦
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五十話 窮地

三区の中部。

精天機獣(せいてんきじゅう)丑の刻(アバラン)と戦い力尽きた三区衛兵長モルボは

意識を失うように眠りについた。

それ傍で見届けた金髪のエルフは細く長い手で弓矢を構える。


「精天機獣。次はこの私が相手になるわ」


凛と立つのは、エルフの女王シンシア。

数時間前、“精天機獣”午の刻(サァジタリス)を葬った星詠みの精霊使い。


「回想。……あの時、森で我が王を捕らえた不敬な女か。貴様の行い、万死に値するぞ」


その言葉でシンシアも思い出す。


「貴方、大三角形(トライア)の封印を壊した精天機獣ね。あの時の借り返させてもらうわ」


一触即発寸前のところで後方から数十名の衛兵長が駆けつけた。

その中には桜色髪の少女、並木朔桜の姿もある。

先頭の衛兵が負傷したモルボに気が付く。


「衛兵長!」


大声を上げ、慌ててモルボに駆け寄る。

口に耳を傾け呼吸を確認。

どうやらまだ息はしているようだ。

だが、出血が酷い。瀕死と言ってもいい。

このままだと数分も生きる事は出来ないだろう。


「聖女様どうか! どうか、衛兵長をお救いくださいっ!!」


縋るような目で朔桜を見る。

朔桜は静かに胸元のペンダントを握った。

今対峙しているのも、ポテを殺したのも精天機獣だ。

悲しみ、憤り、不安、恐れたくさんの感情が入り混じり、整理しきれていない。

今朔桜の宝具【(エレクトロ)電池(チャージャー)】にモルボを救える分のエナはある。

だが、エナは傷の完治一回分ほど。

この戦いで誰かが致命傷を負ってしまえば治す術はなくなる。

目の前の命を救うか。有事の際のために残すか。

朔桜に今後に関わる重大な選択が問われる事になるのだが、彼女は迷う事をしなかった。


「シンシアさん、勝てるって信じていいですか?」


突然シンシアに向き合い真剣な眼差しで問う。

まるでもう答えは決まっているかのような口調だった。

その問いにシンシアは口角を上げて堂々と返す。


「ええ! 信じて!」


その返事の直後、暖かな光がモルボを包む。

朔桜はシンシアを信じ、雷電池の全てをエナを使用してモルボの命を救った。


「今後の事は今後考えるっ! 私は今、私が救える人を救う!」


朔桜の意志は、決意はブレていない。

愚直で誠実な真っ直ぐな意志。

だが、同時に回復の手段は無くなった。

万が一、シンシアが負ければ、この場全員が死ぬ。

午の刻との戦いでエナが消耗しているハンデがある中、

準備運動を済ませ、万全な丑の刻と戦わなければならない。


「異変。あの女を見ていると機体から殺意が溢れ出る!」


丑の刻は高速で飛び出し、朔桜を狙う。

シンシアはその動きを見逃さず捉えていた。


星槍(せいそう)!」


放たれた矢じりからは小さな星々が舞う。

一閃の矢が狙うは腹部の宝石。


「邪魔。」


丑の刻は身軽に跳び、矢をかわして

シンシアに狙いを変える。


「こいつ! 午の刻よりも速い!」


目の前に振り翳される大きな拳。

後方に回転して飛んで寸前のところでかわす。

だが、攻撃は止まらない。

追い打ちをかけ畳み込んでくる。

シンシアには盾に使えるような武器も、回避を援助できるような武器もない。

だが、手を使って防ぐ事は決してしない。

両手は弓矢を使うために絶対に負傷するわけにはいかないからだ。

丑の刻の攻撃を持前の回避力でかわす他にない。


「優先。先に貴様から殺してやる」


シンシアはその言葉を鼻で笑う。


「殺すなんて、その遅い拳を当ててから言ってもらえるかしら?」


挑発でムキになった丑の刻は攻撃の手数を増やす。

最初と比べて倍の手数。


「くっ……」


シンシアは苦戦。

攻撃をかわす事に全気力を回す。

動きのパターンを覚えてきたところで丑の刻の秘策。

あの長く伸びる蒼尾が槍のようにシンシアの腹部を狙う。


「甘いわ」


ノアの不意を衝いた秘策の一撃もシンシアには通用しない。

逆に尾を掴まれ、華奢な身体から想像も出来ない力で空中に振り回される。

伸びきった尾が遠心力を更に強め、勢いに乗せ丑の刻は硬い地面に激しく叩き付けられた。

通りの地面は大破。


「都の人ごめんなさい! 通り壊しちゃった」


「気にしないでください!」


「街はいくらでも直せます!」


衛兵は口を揃えてシンシアのフォローをする。


「よかった。じゃあ、もう少しだけ壊しちゃうけど許してね」


「え?」


さり気なく言ったシンシアの言葉。

衛兵頭の上に?が浮かぶ。

だが、脳内で復唱し理解した頃にはもう

シンシアは弓を構え、矢を番えていた。


崩し(バース)


星の矢が地面に触れた途端、地面が吹き飛び大爆発。

圧倒的な威力で街は一瞬で更地と化した。

土埃が晴れて勝敗の確認をする。

しかし、丑の刻の姿は見えない。

死んだ時に宙に舞うエナも出ていなかった。


「まずい!」


シンシア逃した事を察し、周囲を見渡すも、どこにも姿はない。


「どこ! どこへ行ったの!」


「回答。」


「え?」


朔桜の真後ろから低い声が鳴る。

シンシアが気づいた時にはもう遅い。

丑の刻の複製体が精霊王から受けた命令。

それは朔桜を玉座まで生きて連れ戻す事。

しかし、身体は朔桜を殺そうと動く。


「制御。不能。」


命令違反だと脳で理解していても、天使の機体が丑の刻の意志とは関係なく、朔桜を殺そうとする。


「あ……死ぬ」


そんな彼女の窮地を救ったのは一人の男の

強烈で爆裂なタックルだった。


「――――っ!」


丑の刻は声にならない声を上げ、家屋二、三件真っ直ぐ貫いて四件目の頑丈な外壁に埋もれた。


「大丈夫か?」


黒い布が大きくたなびく。

朔桜の窮地に颯爽と駆けつけたのはロード・フォン・ディオス――――ではなく、

鳥のような金の仮面を付けた背の高い黒マントの男。


「お嬢さん、もう安心だゾ!」


朔桜はポカンとした顔で口を開けている。

そして、ひと時の間。


「誰ーーーーーーーーー!?!?!?!?」


朔桜の叫びがスネピハに響いた。

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