四十八話 退場
静かな殺意が三人に向けられる。
冷静で冷酷な明確なる殺意。
「攪乱。放て!」
丑の刻は手を翳し振り下ろすと
再び閃光が放たれる。
「広重力帯!」
五区衛兵長ランデュネンが閃光を潰すと同時に
丑の刻も仕掛ける。
「(奴は万能距離で能力を使えるランデュネンから狙うはず)」
無防備なランデュネンを守るようにザギバが糧斧を構えて防御態勢に入った。
しかし、丑の刻が狙ったのは孤立した自警団長シュトロン。
「狙いは僕か!」
「確実。一体ずつ仕留める」
シュトロンもランデュネンを狙うと想定しており、完全に意表突かれた。
猛攻をかわすが、先ほどの疲労も溜まっていて動きにキレがない。
「(集中しろ、動きを読め。ミスをしたら終わりだ)」
全神経を集中させ、完全完璧に回避しなければ即死。
だが、そんな超集中はいつまでも続きはしない。
「ランデュネン! 援護を!」
「わぁっとる」
ザギバに急かさせながらもランデュネンは丑の刻に狙いを定めようとするが、
二人の距離が近くなかなか狙う事ができない。
家々の立ち並ぶ通りに追い詰められたシュトロンは
家屋の木片に足を取られ、背中から宙に浮く。
「っ!」
バランスが崩れたと同時にシュトロンは機敏に鞭剣を振る。
重心の崩れを丑の刻は逃さない。
「確殺。」
覆い被さるように大きな機体が迫り来る。
「五区衛兵長!! 今だ!!」
シュトロンの合図と同時に彼の身体は真横に飛ぶ。
バランスを崩したフリをして鞭剣を横の地面に伸ばし、地面へと突き刺していた。
身体の浮いたシュトロンが剣を縮めれば、それは移動手段へと変わる。
まんまと意表を衝かれたのは丑の刻だったのだ。
「広重力帯!」
すかさず広範囲の重鎮の核を打つ。
しかし、持ち合わせた自慢の速度で丑の刻は間一髪でかわす。
「優先。その力は万が一の脅威となりえる」
深紅の眼には鋭く、明確な殺意が籠っていた。
「衛兵総長!! 五区衛兵長を守れぇぇぇぇぇぇ!!!」
シュトロンは大声で指示を出す。
全力で駆け寄り糧斧を構えるザギバ。
目の前から飛んできたのは巨大な塊。
「おいおい!!」
その正体は並々に並んだ家屋。
基礎基盤から持ち上げ、的当てのような気軽さで大きな家を放り投げる。
「邪魔じゃ! 重鎮の核!」
前に立つザギバを押し退け、飛び出したランデュネンは
能力で飛んでくる家屋を次々と押し潰してゆく。
「ダメだ! 五区衛兵長! 奴の狙いは君だ!! ザギバ後ろに戻れ!」
「じゃかあしい! 全て落として元を叩けばええんじゃが!」
シュトロンの忠告を無視し続け、二十軒近くの家を退けた。その時。
投げられ、浮いた家屋を一瞬で焼き尽くす程の静かな閃光が二人を襲う。
「広重力帯!」
肉塊の放つ先程の熱閃。
数千度の塊を重力で完全に押し潰し、沈黙させたと同時に瞳に映るは丑の刻の姿。
「単能。死ね」
その言葉を聞いてランデュネンは笑う。
「それはそっちの方だよ」
柔らかな口調で返したランデュネンの足元から
尖った布が飛び出し、丑の刻の腹部を貫いた。
逃す事のない決められた一撃。
最初から練られていた一撃。
それはもちろん、精天機獣の心臓に等しい宝石の破損と繋がる。
「貴……様。」
「あの一撃は効いたよー。気失いそうになっちゃったし。
でも、まあ――――敗者は早々に消えて♡」
微笑んだランデュネンは無慈悲に宝石を切り刻む。
それと同刻。
“精天機獣”丑の刻のオリジナルは大量のエナと散り、完全に沈黙した。




