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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
四章 輪廻凱旋! 都市奪還作戦
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三十九話 意地

肉塊三体を退けて一難去ったと思いきや、休む間もなく現れた未知の身体の精霊獣。

これはあれだ。午の刻とやらと同じ白い身体。

つーことはこいつ精天機獣ってやつか。

俺は奴が仕掛けて来る前に先んじて飛び出した。

身体は俺の方がデカい。

精天機獣の身体に弱点の宝石があるのなら一発でそこを砕けばいいだけの話。

俺は全力を込めた拳を振り下ろす。

地面は大破し、周囲に瓦礫が飛び散る。


「うほっ! やったか!?」


拳を上げて確認するが、瓦礫の残骸しか残っていない。


「き……消えた? どこだ!?」


周囲を見回すも、その姿は何処にもない。


「把握。貴様の力量はその域か」


声が聞こえたと同時に、無数の強い衝撃が身体を打つ。

鉛玉を打ち込まれたような痛み。

攻撃は背を貫通はしていないものの、受けた場所は小さな穴が開いて流血している。

身体の中に異物が残っている感覚はない。

銃弾や石などではないみたいだ。

生身の身体で今のを受けていれば、体積が小さい分致命傷になっていただろう。


「努力。精々我を楽しませよ」


またどこからか声が聞こえてくる。

どうやらあいつは遊んでいるらしい。

それなら好都合。油断している今が俺が奴に勝てる唯一の好機。

まず奴の攻撃方法を判明させない事には対抗の手段がない。

遠距離から攻撃する能力か? それとも姿を消す能力か?

うほっ、ダメだ。まったく見当がつかん!

頭で考えるのは苦手だ!

とりあえず動いてから考える!


「うほおおおおおおおおおおおおお!!」


一心不乱に腕を振り回し、周囲の建物を破壊していく。

家の持ち主には悪いが、奴がどこかに隠れているかもしれないから致し方ない。

すまない魚屋のジミー。

すまない八百屋のワンソン。

それにその他たくさんの家主たち。

スネピハを取り返したら謝ろう。


「無駄。」


無数の想像を絶する痛みが身体中を打つ。

さっきの攻撃の比ではない。その数十倍の威力。

両肩、両足、左脇腹、右掌は肉が抉れ、風穴が空く。

出血の量も冗談ではない。

滝のようにダバダバと流れ出る。命の危険を感じる。


「うほっ……こりゃヤバい……」


俺はいつの間にかうつ伏せで倒れていた。

どうやら行き当たりばったりでどうにかなるようなそんな次元の相手ではないらしい。

意識が朦朧とする中である事に気が付く。

さっきガムシャラに暴れた時、建物を壊して出た土埃。

その煙を裂くように何かが動き回る軌道が見える。


「うほっ……なるほど……。

透明になる能力でも、遠距離からの攻撃でもなく、

俺の目に追えないほど速く動いてたって訳か……」


「名答。だが、遅い。終わりだ」


空気の流れが変わった。

冷たい殺意がこっちに向けられているというのが野生の勘で分かる。

身体は感覚がほとんどなく、どんどんと体温が下がっていくのが肌に感じた。

いい大人が子供たちに逃がしてもらってこのざまとは情けない。

せめて、一矢報いたい。

動いているのか分からない冷たい腕を前に突き出し地面を引っ搔いて土埃を撒く。


憐情(れんじょう)。潔く散ればよいものを」


精天機獣が真っ直ぐこっちに歩いて来る足音。

さすがにこの視界の悪さでは高速で飛んでは来ないらしい。

悪足搔きが時間稼ぎと目暗まし程度にはなった。

勝負は一撃。

足音が目の前に迫った時だ。

最後の力を振り絞り、全体重を乗せて今出せる最大の一撃を叩きこむ。

全神経を耳に回す。


後、十五歩。

まだだ。悟られるな。


後、十二歩。

体勢を起こす準備はいい。


後、九歩。

感覚は無いが恐らく、身体は起こせた。


後、五歩。

両手を握り合わせ、背中に仰け反らせる。

反動を利用して全体重を乗せる準備だ。


後………いや。

もう、奴は目の前にいる。

どうやら感覚がまともに機能していなかったらしい。


労苦(ろうく)。もう十分に力は溜まった。果てよ」


身軽で小さな身体は眼前まで飛び上がり、小さな拳を振りかざす。

俺は死を受け入れ、抵抗を諦める――――。


なんて、できねぇ。

後ろに下げた両手を一気に振り下ろす。

みっともなく力の抜けた苦し紛れの抵抗だ。

勝ち目のない一矢報いるためだけの攻撃。

両手もろとも顔を吹き飛ばされるのを覚悟したが、俺が殺されることはなかった。

なぜだが、目の前に居た精天機獣の姿はなく、遠くへと退避していたからだ。

俺の力のない攻撃なんてあんな遠くにかわすような大それた一撃ではないのだが。

奴が力量を見誤ったのか。それとも慎重な性格なのか。

ただ、数秒だけ俺の寿命が延びた。

一矢報いる事すらも叶わないらしい。

力の差とはここまで顕著に出るのか。

あぁ、世界は広いな。

安心からか、絶望からか。

視界は徐々に暗くなり、意識が遠のく。

俺はここで退場。

気掛かりの多い人生だったな。


「……ご苦労様。……おやすみなさい」


かすかに聞こえた声は


俺を安らかな眠りへといざなってくれた――――。


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