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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
四章 輪廻凱旋! 都市奪還作戦
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三十八話 三難去って大災難

三区衛兵長モルボは数十名の生き残った衛兵を引き連れ、

街の路地を縫うようにして“精天機獣”(せいてんきじゅう)午の刻(サァジタリス)から上手く逃走する事ができた。

一刻も早く、午の刻を足止めしているレオたちに援軍を送らなければと急いで本部へ向かう。

本部にはあの精霊王を葬ったシンシアと聖女と呼ばれ、癒しの宝具【(エレクトロ)電池(チャージャー)】を所持する朔桜が控えている。ついでに二区衛兵長サビーも。

緩やかな傾斜を駆け下りると異様な気配を感じ、モルボが手で後続の衛兵を制す。


「止まれっ!」


念入りに安全確認したはずの路地。なんの変哲もない路地。

そんな道から這い出てきたのは、巨大な塊。


「おいおいおいおい! 冗談だろっ」


モルボは自分の目を疑うもそこに確かに存在するのはあの歪な肉塊だった。

それも一体じゃない。塊が複数動いている。その数三体。

一同は蛇に睨まれた蛙のように微動だにせず、その場で息を潜める。

モルボの能力《王猿(おうざる)》を使い、やっとの思いで一体を倒す事の出来た相手が三体だ。

一人で肉塊を三体も相手にするには荷が重い。

かといって、衛兵の持つ剣や槍程度の武器じゃ、かすり傷に至らせる事すら出来ない。

現状、圧倒的な戦力差がある。勝ち目は皆無と言っていいだろう。

ゆっくりと蠢く肉塊はモルボたちを視認し、殺す対象として定めた。

不気味な肉体を膨らませ、眩い三つの閃光が一同の影を伸ばす。


「ちっきしょう! 俺が道を作る! お前さんらは本部に急げっ!

そしてこう伝えろ。貴橋の前に精天機獣あり。増援求むと」


「そんなっ! 衛兵長はどうするんですか!?」


「俺はここでこいつらを片づける!」


「一人でなんて無茶ですよ!!」


「うほっ! この状況じゃ、その無茶を通すしかねぇだろ!!」


モルボは服を脱ぎ去り、腰に大きな布を巻いて叫びをあげた。

身体はみるみるうちに黒い毛に覆われ、数倍の大きさに変わりあっという間に巨大なゴリラに変身。

狭い路地を出て大通りに移動する。

肉塊もモルボを追ってゆっくりと動く。

建物から一体目が姿を現した。先手必勝。

閃光を放たれる前に猛突進を繰り出す。

まず頭突きで一体をひっくり返し、両腕のラリアットで二体の肉塊を突き倒した。

派手にひっくり返った三体は、同時に三つの巨大な閃光を上空に放つ。


「今だ! 行け!!」


合図とともに衛兵たちは路地から百水門に駆けてゆく。

モルボの咄嗟の判断で閃光をなんとか上空に逸らせたが、もしも閃光を放たれていたら一同含め、

路地は跡形も無く消し飛び、スネピハで一番広い大通りになっていただろう。


「頼むぜ。お前さんら……」


部下を見送るモルボの隙を突いて、肉塊は触手のような歪な塊を巨体に張り巡らし自由を奪った。


「随分と……ハードなプレイじゃねぇか」


固く絡み付いた触手は五体を裂こうと四方に強く引っ張る。

関節の隙間に食い込むように肉を押し潰してゆく。

余裕を見せていたモルボの表情は苦痛に歪む。


「ぐっ……でもなぁっ! 俺の趣味じゃあねえ!!」


一息で絡みついた触手を力づくで引き千切る。

巨大な右腕を肉塊の口らしき穴に突っ込み、乱暴にかき混ぜた。

闇雲な悪足搔き。手探りの攻撃。

だが、肉を抉り回すと太い血管のようなものが手に引っかかった。


「どりゃ!!!!」


それを勢いよく引き千切ると大量の血が噴き出す。

飛沫をあげて激しくのたうち回る肉塊が地面を揺らす。

出血でどんどんと肉の色が青白くなっているのが見て分かる。

やがて暴れる事すらやめた肉塊は息絶え、エナとなって消え去った。


「なるほどな」


モルボは光明を見出す。

肉塊の奥、深い中心部に太い管が隠れていた。

どうやらこれが肉塊の血管。いわゆる急所らしい。


「おうおう。運良く本当の弱点ってやつ見つけちまったな! こりゃ俺一人でも勝ち目はあるぜ!」


モルボは抑え込んでいた残り二体の肉塊に両手を突っ込み、まさぐる。


「うほおおおおおおおおおおお!!」


雄叫びをあげ、同様に動脈を引き千切った。


残り二体の肉塊もあっけなくエナへと還す。


「うほおおおおおおおお!!!!」


胸を激しく叩き、自身を鼓舞して叫ぶ。

勝利の歓喜に湧き、最高潮に盛り上がる。

まさか一精霊人があんな格上の相手三体を倒すなど全くの予想外の出来事。

その出来事に当の本人すらも驚いていた。


「うほっ! 俺は最高にツイてるかもしれねぇ!」


自分に誇らしい自信を持ったそんな時だった。


「驚愕。まさか精霊人如きがアレを倒すか」


背後から聞こえる特徴的な喋り方。

言葉から感じる重苦しい威圧感。

その正体は見るまでもなく、モルボにはその正体に予想がついた。


「名案。少し遊んでやろう」


どこからともなく現れた言葉を話す蒼い牛。

その特徴的な機体を確認するとモルボの予想は確定へと固まった。

自分の不運を呪い、深い深い溜息を漏らす。


「うほっ……。前言撤回。最っ高にツイてないな……」


せっかくの窮地をくぐり抜けてこれとはあまりに酷い仕打ちだと


モルボは追加の溜息をついた。

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