三十六話 精天機獣の真相
慎ましやかに正座した“精天機獣” 未の刻は開始の咳払いをした。
「開始。まず最初に話さねばならないのは、“精天機獣”とは何か。
他の精天機獣とは既に相まみえたご様子。
皆様、存在周知のうえで語らせていただきます。
では、まず我々“精天機獣”とは
能力を持った精霊獣。頑丈な天使の機体。
言語を話せる精霊人。それを束ねる核となる宝石。
四つを素材に“喰者” 複製結合 バルスピーチの中で結合させ
造り出された合成体なのです」
「精霊人を素材にだって……!?」
「それじゃあお前は……」
「明察。はい。精霊王と言語を交わすため、素材に使われた精霊人です」
重々しい空気が流れる。
まさか精天機獣に精霊人が素材として使われているなんて
ザギバとシュトロンは想像もしていなかったからだ。
「はい! 質問!」
ノアが手を上げそのまま問う。
「精霊獣と精霊人は分かるけど、天使の機体って何ですかー?」
「回答。天使の機体とは、その名の通り天使の身体。
特殊な白い金属で造られており、その硬度はこの精霊界の物質では太刀打ちできない程に硬い。天使の残骸との事」
「追加で二つ質問だ。そもそもその天使……ってのはなんだ?
それにこの世界の物質で太刀打ちできないってのにお前の機体には何故、傷がある?」
ザギバが疑問をぶつけるも未の刻は首を横に振る。
「不明。そこの話に関しては私は詳しい事を知りません。
この白い部分が易々と傷一つすら付けられない天使の機体という事だけ覚えてください」
「じゃあ僕からも質問いいかな? その核となる宝石を壊すとどうなるんだい?」
「明白。我々は身体を維持できなくなり自壊します。
核とは必ず天使の機体に付いているひし形の宝石の事。
私の場合は胸の中心ですが、機体により位置が違うと答えておきます」
「ありがとう、レディ。みんなは質問大丈夫かな?」
一同が頷くと未の刻は再び語りに戻る。
「継続。合成体はその個体により精霊獣、天使の機体、精霊人の割合いは様々です。
獣に寄るモノもいれば、天使に寄るモノもいる。もちろん精霊人にも。
私だと精霊獣2:天使の機体4:精霊人4ですね。
そして、“精天機獣”は 子 丑 寅 卯 辰 巳 午 未 申 酉 戌 亥の十二刻で構成されており、
巳と午で区切り上六順は無傷の天使機体。下六順は破損した天使の機体で造られています。
精霊人を殺す命令を受け精霊界の各地に散っているので、
今この水都市スネピハに来ているのは、丑の刻、午の刻、未の刻、酉の刻の四刻。
そして、バルスピーチにより複製体が造られているのは丑の刻と午の刻です」
「ちょっ! ちょっと待て!! 精天機獣の複製体だと!?」
「おじさん、唾飛んでるよ」
飛沫を盛大に飛ばすザギバを苦虫を噛み潰したような嫌な目で見るノア。
「今はそれどころじゃないだろ!」
「回答。時間の都合上能力の強い二刻の複製が優先された様子」
「じゃあ馬はもう一体、牛はまだ二体いるのか!?」
「肯定。酉の刻と午の刻は先刻討たれたと聞いたので、残りは午の刻の複製体、丑の刻、丑の刻の複製体の三刻です」
「おいおい……冗談じゃねえぞ……」
ザギバは衝撃の事実に脱力し、両手を後ろに着き虚ろに空を眺めだす。
「じゃあ、ノアの質問~! バルスピーチってのは精霊王も複製できるのぉ?」
ノアが安易に聞いた質問の答え次第で、スネピハの救いは途絶えるとザギバは正気に戻り、シュトロンは静かに息を呑む。
「回答。幸いにも精霊王ほど大きなエナジードを持つモノは複製に数百年ほど要するらしく
現状では用意できていないと思います」
「そっか! じゃあさ、複製体を複製ってできるの?」
「回答。可能には可能ですが、劣化します。力にして七~八割。そして複製体のエナの量はオリジナルの一割ほどしかありません。精霊術を使用するモノの複製は実戦では使いものにならないと思われます」
「なるほどね。シネト村のネオパンサーもここのオーガの大群もエナがゴミほど少なかったのはそういう事だね」
「僕も質問だ。最初の本題に戻るけど、どうしてレディは精霊王を裏切ったんだい?」
確信的質問。
これが一番の起点、根本の話だ。
「回答。私たちは身体に精霊獣が混ざっている事により、精霊王の能力《王の号令》には絶対に逆らえません。
殺せと命令されれば、精霊人も厭わず殺し、死ねと言われれば迷わず自らの命を絶つでしょう。
それが怖いのです。たった一言で自分の意志と自他の命を奪えるのが。
精霊王に造られてからもうこういう運命なのだと諦めていました。
でも、私にとって唯一の小さない希望が現れた。
精霊王を一度葬ったエルフの女王シンシア・クリスティリア。
彼女なら精霊王をもう一度葬れるはずです!
それを信じたい。その可能性に縋りたいのです!」
「シンシアお姉さんなら森で精霊王に一対一で負けちゃったよ?」
「承知。丑の刻から聞きました。
でも、勝てる可能性はまだ十分にあります。
精霊王は今、右腕を失っています!
治癒のために連れてこられた桜髪の少女が
恐れ知らずにも腕を外に放り投げたのです」
「あははww」
ノアは朔桜からその話を聞いていたので盛大に笑う。
「好機。あの右腕が無ければ精霊王の能力《生命の拒散》は使えない。
この可能性に私の自由を賭けたい!
どうか! どうか私も貴方たちの仲間に加えてください!!
お願い致します!!!」
深々と頭を下げる未の刻。
三人は顔を見合わせる。
全員笑みを浮かべている。
借りを返せる笑み。
スネピハを救える可能性を知った笑み。
女性を救える笑み。
どうやら意見は同じようだ。
「顔を上げな」
ザギバが代表して彼女に手を伸ばして答える。
「もちろん協――――」
答えを出すその瞬間、超重力が座り込んだ全員を押し潰す。
「お前は……死ぬべきじゃが!!!」
先に答えを下したのは、先程まで瓦礫の山に埋まっていた
五区衛兵ランデュネンだった。




