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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
四章 輪廻凱旋! 都市奪還作戦
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三十二話 亀裂

物陰から現れたのは血に塗れたオーガ。

普段の退紅色ではない。少し青みがかっている。


「こいつぁ……ブラッドオーガ……」


衛兵総長ザギバが驚くと、シュトロンは蒼剣を抜いて身構える。


「今までのオーガと色が違うねー」


「ああ、ありゃ普通のオーガよりもタチが悪いぞ。

精霊人のエナジード多く吸収した分、色素が青く変化する変異種。

いわゆる人喰いオーガだ」


「青鬼ってやつ?」


「オニ? その言葉の意味は良く分からんが、

今まで狩ってきたオーガよりも強い事は間違いない」


「へぇ~、ノアが試してみてもいい?」


「油断するなよ、腕力は数倍あるはずだ。掴まれでもしたら……」


ザギバが忠告する前にノアは駆け出していた。

近くに寄ってジロジロと観察する。


「ふ~ん、湖の村で見た顔三つの犬と同じくらいかな~」


ブラッドオーガは品定めする視線を不快に感じたのか突如、重い拳を振り下ろす。

その一撃で地面は大破。地面は深く陥没し、近くの家が傾斜に飲まれて崩れゆく。

跳んでかわしたノアは空中で考え事をしていた。

器用にも飛び散った瓦礫を足場にして空中を渡り歩く。


「威力はそこそこ……っと。

でも、ロードくんに変身する程でもないかな~」


瓦礫の落下間際、くるりと一回転し、見事に着地を決める。

そんな人型のノアを見て、ブラッドオーガは食べ物と認識した様だ。

青く濁った目の色を変えて襲い掛かる。


「勝てないよ、だって――――レベルが違うもん」


その刹那、ブラッドオーガは真っ二つに裂けた。

大量の血が噴き出し周囲を赤く染める。

まさに一刀両断。その刃はあまりに速く、衛兵たちにも斬られたブラッドオーガでさえ見えなかった。


「えっと、何が起きたのかな?」


シュトロンは困惑している。

ザギバも頭を左手で抱えている。

ノアの圧倒的な力を目の当たりにして自分の想定を超えていると再認識した。


「ノアはエナを吸えないから、おじさんあげるよ」


「そうか? じゃあ有難く頂戴するぜ」


ザギバはノアが瞬殺したブラッドオーガのエナを大きな斧に吸収。

退紅色のオーガは極少の魔力だが、ブラッドオーガは精霊人を喰らった分エナが多い。


「おじさんはエナを吸わないんだね」


「俺は精霊術を使えないからな。こいつに吸わせたほうが合理的だ。

ていうか! 俺はまだ、おじさんじゃねえ!」


ノアとザギバが言い争っている様子を見て、衛兵たちは緊張の糸が切れたように笑う。

そんな和やかな空気も束の間。


「待って、また何か来るよ」


いち早く気配に気づいたノアの言葉に、一同は再び緊張した空気に戻り、警戒して身構える。

瓦礫の角から現れたのは一人の男だった。

後ろに尖った黒い髪。

額には大きなシミ。

口の周りには白と黒の短い無精髭。

スネピハ衛兵の銀鎧を着て腕には腕章を着けていた。


「おぉ……生きていたのか! ランデュネン!」


ザギバが出したその名はスネピハ五区衛兵長の名だ。


「騒がしいと思ったら……随分と遅い到着じゃが!」


男は怒った様子でこちらに歩いて来る。


「遅れてすまない。こちらも色々とあったんだ」


「とりあえず、ここで話すにゃ、なにかと目立つじゃが。避難所まで来い」


ランデュネンは一同を率いて進む。

しかし、ノアだけは不信感を持っていた。

雨の羽衣を長く伸ばし、ザギバの耳元へひそひそと話しながら進む。


「あの人本当に信用できるの? 何か怪しくない?」


「どこにそう感じる?」


「うーん、なんか……雰囲気?」


ザギバは噴き出し、豪快に笑う。


「どうしたじゃが?」


ランデュネンは振り返り足を止める。


「いやぁ、なんでもない」


「ならいいじゃが……あまり騒ぐなよ」


何事も無かったようにすぐに歩みを進めた。

ノアは溜息をつく。


「あんな大声出したらバレちゃうでしょ!」


「いや悪い、ランデュネンは前からあんな感じだ。

それにあの変な口癖もな」


ザギバはまったく疑っている様子はない。


「あいつが敵に寝返ってて、騙し討ちされても、ノア知らないからね」


「それは万一にもありえない」


ザギバはハッキリと言い切った。


「ふーん、どーしてそう言いきれるの?」


「俺がもう二度と、誰一人として殺させないからだ」


「そ」


ノアはあっさりと納得して、それ以降は無駄な言葉を発しなかった。


「着いたじゃが」


一時間ほど歩いて到着したのは、水都市スネピハを象徴とする二つの塔の一つ。

百五十メートルある巨大な円柱の青塔の真下だった。


「なるほど」


ザギバは一人で納得している。

ランデュネンは持っていた鍵で人一人が入れるドアを開けた。


「ザギバは最後尾でマスターキーを使って戸締りじゃが」


「あいよ」


ザギバは顎でノアに先に行けと促す。

ノアは渋々先頭で中に入る。

ドアの中は登りと下りの螺旋階段。

通路は狭く、すれ違い歩く事も出来ない。

一定の間隔で精霊光(せいれいこう)があり、足場はしっかりと見える。

ランデュネンは何も言わず黙って下ってゆく。

一同はそれに付いて五分ほど下り、広い空間に出た。


「着いたじゃが。ここが我らの一時避難所じゃが」


薄暗い空間にちらほらと生存者の姿が見られる。

(やつ)れている様子。

ぞろぞろと入って来る一同に目を向けるが目は死んだまま。

表情すら変えない。

だが、最後尾の男が入ると生存者の目の色が変わる。


「ま……まさか……!」


「衛兵総長さま……?」


「衛兵総長ザギバ様だ!!」


都民は一気に湧き上がる。

まだ救われていないのに、もう救われ安全圏に入れたかの喜びようだ。

それだけ衛兵総長が信用されているという事が分かる。


「皆、一度落ち着けぇ! 俺が来たからには全員ここから避難させてやる!

だが、五区の情報が足りねえ! 何でもいい。皆が知ってる事を教えてくれ!」


衛兵が都民から小さな手がかりを集めている間に

ノア、ザギバ、シュトロン、ランデュネンは四人で状況を共有する。


「王が討たれたじゃがっ!!」


ランデュネンは鬼の形相でザギバの胸ぐらを掴む。


「ランデュネンさん!」


シュトロンと止めようとするもザギバは手で制す。


「貴様がおってなんてざまじゃが!!」


怒りの籠った重い拳がザギバの頬を打つ。

ザギバは地面を流れるように吹き飛んだ。


「なんてことを!」


シュトロンの怒りはランデュネンに向けられた。


「止めろ、シュトロン。いいんだ。俺が不甲斐ねぇばっかりに王は死んだんだ……」


「それでおめおめと生き長らえおって! 恥を知れ!!」


横たわるザギバに(またが)り、再び拳を上げるランデュネンの腕を掴んだのは、ノアの雨の羽衣だった。


「もういいでしょ。話を進めようよ」


「なんじゃこのガキは。誰のガキじゃが!」


「ギャーギャーうるさいなぁ。もう死んじゃったんだから、誰かを責めても生き返らないよ」


「このガキャ! 少し灸を据えてやらんとならんのぉ!」


ランデュネンがノアに向け手を翳すとノアは突如、地面に叩き付けられた。


「っ!」


身体が鉛のように重くなり、地面に吸い付けられているみたいに身動きが全く出来ない。


「ちっとは反省したかガキ!」


その言葉でノアのスイッチが入った。

あのロードを追い詰めた実力のノアの本気モード。

ランデュネンの手を掴んでいる雨の羽衣の先端は自在に動かせるままだ。

掴んでいた手を離し、柔らかい布から鋭い刃へ変化。

後は簡単。誰も視認出来ない速さで首を落とすだけ。

躊躇も迷いもない。後先を考えるよりも前に刃を振り下ろしていた。

しかし、その刃が首を跳ねるよりも前に一本の剣がランデュネンを突き飛ばした。

途端にノアの重かった身体は嘘のように元に戻る。


「僕の……僕の目の前で女性に手を上げたな。それは万死に値するぞ!!」


剣を向けたのはいつもの冷静さを失い、獣のような鋭い目をしたシュトロンだった。

今にも喉元に喰いかかろうとせんばかりの殺気を放っている。


「どいつもこいつも……厳しい躾が必要じゃが!」


殺伐とした空気に衛兵と都民は怯えて息を呑む。


「お前らぁ都民の前だぞ!! 止めろぉ!!!! 」


閉じた空間でザギバの怒号が響く。

周囲の目を見て、ランデュネンは背を向ける。


「ふん、ちゃんと連れを教育しとかんかいダボが!」


捨て台詞を吐いて階段の上へと消えて行った。


シュトロンも構えた精霊装備鞭剣『才色兼備(さいしょくけんび)』を下げた。


「みっともない姿を見せたね。レディ怪我はないかい?」


そう言って倒れたノアに手を差し伸べる。


「うん、シュトロンありがと」


ノアは素直にその手を取りお礼を言う。

事が大きくならず、ザギバは安心と不安の混ざった溜息をついた。

なんとか同族同士の殺し合いは避ける事はできたが、皆の心には一抹の不安が残った。


――――――――――――――――――――――――――――――


ノアは本気であいつの首を撥ね飛ばして殺すつもりだったのに。

あの瞬間ばかりは、ノアの攻撃よりもシュトロンの剣の方が断然、早かった。

そのせいで殺しそびれちゃったけど……ま、いいや。


今回はおじさんの顔を立てて殺さないけど、次は覚悟してほしいな。


ノア、許さないから。

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