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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
四章 輪廻凱旋! 都市奪還作戦
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二十八話 敵討

三区衛兵長モルボは激闘の末、見事あの強力な肉塊を単身で倒した。

あちこち打たれて痣にはなっていたが、命に別状はない。

戦いの騒ぎを聞きつけ、キーフ、キリエ、イツツ、多くの衛兵たちがレオたちのもとに集う。

一同は周囲の惨状を見て唖然とする。


「仕方ねえだろ、あれを相手にするには王猿にならなきゃ無理ってもんだ」


戦いが終わり、早々に元の姿に戻ったモルボは文句を言いながらいそいそと服を着ていた。

全身変身するには多くのエナジードを消費し、尚且つ、疲れるらしい。

落ち着いた頃、レオは以前にあの肉塊をシネト村で見た事を話し、情報を全員と共有する。


「そんなやべぇ奴だったのか……」


「そうっすよ、あの光撃たれてたら死んでたっすよ」


自分がした危険な行いを振り返り、顔を青ざめるモルボ。


「でも、モルボさん。あんたのおかげで奴の弱点が分かった」


「弱点?」


「あの閃光を撃たれる前に倒せば、そんなに脅威じゃない!」


レオの話に皆は落胆する。

身近なキーフやキリエはレオの言葉に頭を抱えた。


「あれ、俺なんか変な事言った?」


「お前さんはぁ、バカなのか?」


「いや、賢い方だと自分では思ってますが……」


「もういい、レオ。口を開くな……」


「恥ずかしいから静かにしてて。。。」


二人は肩を落としレオに黙るように伝えた。


「それで、あの肉塊はどこから湧いてでたんだ?」


「さあな。気づいたら目の前におった」


キーフがモルボに尋ねるも首を傾げる。

レオに視線を映し答えを促すもレオも首を傾げた。


「突然目の前に出たってか?」


「俺にはそう見えたぜ。気づいた時にはもう目の前にいたんだ」


「そんなバカな話があるか。あの質量が突然現れたってか?」


「いや、いや、マジなんだって!」


レオとキーフが言い争っていると一人の衛兵が挙手し口を挟む。


「あの、俺見ました。一瞬だけど」


それはレオが間一髪で助けたあの衛兵。


「本当か!? ありゃどこから湧いたんだ!?」


「モルボ衛兵長を襲っていた桃色の……鞭みたいなものです」


「桃色の鞭。。。?」


キリエが問うと思い出すようにゆっくり話を続ける。


「はい、あの壊れた家の中から数本の桃色の鞭が出てきて、モルボ衛兵長を襲ったんです。

その後、突然根元が膨れ上がり、アレを排出したように見えました」


「桃色の鞭……排出……ってまさか!」


キーフには心当たりがあった。

それはレオ、キリエも同様。

三人は顔を見合わせる。


「たぶん、それは複製結合バルスピーチだ」


「バルスピーチ!? 精霊女王の忘れ形見ですか!?」


衛兵たちが突如騒がしくなる。

驚く者、不安がる者、恐れる者、絶望する者。

そんな衛兵たちをモルボが一喝し、再び静寂に戻す。


「部下たちが話の腰を折った。すまんな、続けてくれ」


手でキーフに話の続きを催促する。


「俺たちは以前見たんだ。奴が湖から現れた後、醜く巨大な肉塊が同じ場所から飛び出してきた。

シンシアはあの肉塊からネオパンサー二千体分の力を感じると言っていた」


「うほっ! あの肉塊はバルスピーチが能力の《結合》で作ったって事か?」


「断言はできないが、それが一番現実的な推論かもしれん」


「でも、今回の奴は以前の奴よりは弱いと思うぜ。

シネト村の時ほどの肌がヒリつくようなヤバさは感じなかった」


レオは以前、あの肉塊にたった一人で立ち向かった。

その時は完全に死を覚悟したが、今回はその限りではなかった。

それはレオ自身がポテの鍛錬所で強くなったからか、敵が以前よりも弱かったかは現状、定かではない。

だが、その返答は突如現れた存在が回答を下す。


「肯定。此度はオーガ五百の駄作。以前作られた失敗作の遥か格下ナリ」


周囲で一番背の高い家屋の上に立つ回答者。

太陽に背を向け影が長く伸びる。

キーフは逆光の中、腕で影を作り、目を細めて見上げる。

人語を話す四足の獣。凛として佇まうその姿。

そして先端が五つに別れた大きな翼のようなもの。

その忌々しいシルエットに見覚えがあった。


「て……てめえ……はっ!」


大きく目を見開いて、驚きを隠せない。

そしてすぐに憎しみの目へと変わり、相手を睨み付ける。

忘れる事はない。

あの大きく歪な翼のような手。

異彩を放つ機械の体。

真っ白い瞳に黄土色の肉体。

無造作に広がった立派な金の鬣たてがみ。

一瞬でも気を抜いたらならば、あっという間に命を奪われるその圧倒的な能力を持つ憎き親仇。

“精天機獣”午の刻(サァジタリス)が一同を見下ろす。


「なんで……なんで、てめえが生きてやがるッ!!」


大声を荒らげるキーフ。

弟子たちは警戒し、直ちに戦闘体勢を取る。

午の刻はそれに興味を持ち、軽やかに地面へ降りてキーフと目線を合わせる。


「疑問。何故、我が死なねばならぬ」


「お前はシンシアに目玉ぶち抜かれて、跡形もなく消し飛んだはずだろうがッ!」


「戯言。この我が精霊人に――」


熱くなっているキーフとは対照的に、

午の刻は少し考えた後、現状を冷静に読み解く。

一同の真に驚く顔。それが冗談で言っているのではないと気付く。


「驚愕。精霊人がアレを……だが、解釈を(たが)えている」


「なんだとッ!!」


「訂正。貴様の言う、消し飛んだのは……我が複製体」


「複製体? 何を言って…………っ!」


その言葉の意味を理解し、キーフは絶望する。

一同も話の途中柄、複製体と言う言葉の意味を容易に理解できた。


「回答。我は原点。本体。オリジナル。“精天機獣” 午の刻(サァジタリス)

貴様が消滅したと言うのは“喰者(フルーヅ)”バルスピーチによる複製体ナリ」


絶望を突きつけられ一同は言葉が出ない。

都民を殺戮(さつりく)し、レオたちの育て親に等しいポテを殺したのは複製体。

脅威的能力を持ち、桁外れた強さを持つ同一の存在がもう一体いたなど笑い話にもならない。


憤慨(ふんがい)。先の話、我が複製体が消し飛んだと。

我が劣化品でありはするが……些か不快」


静かに手を翳すその動作。

キーフは午の刻が何をするか瞬時に判断した。


「全員、散れ――――ッ!!」」


キーフの枯れるような叫び声に、一同はただ事でないと察し、すぐさま飛び退き地面に伏せる。

大きな手の先から空気が歪み、空気砲が放たれたように真っ直ぐ進む。

その場から逃げ遅れた衛兵数人が風船のように膨れ上がり、弾け飛んで血飛沫を散らす。

もう人の形をとどめていない無惨な亡骸へと変わる。

その奥の家屋数棟は次々と弾け飛び、扇状に数メートルが細かい瓦礫に変わった。

全員はその様子を見てすぐに声が出ない。


圧倒的な絶望感。


身体の機能を支配する恐怖が後から一気に襲ってくる。


仇討(かたきうち)。精霊人よ、覚悟せよ」


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