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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
四章 輪廻凱旋! 都市奪還作戦
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二十五話 中間会議

晴れ澄んだ雲一つない青空の下。

スネピハ仮設本部のテント内には強者たちが集まる。

全員は中央に置かれた丸い机を囲み、顔を突き合わせていた。

各々の知り得た情報を共有し、これからに役立てるためだ。

空気は重い。服擦れすらも大きく聞こえる静寂。

衛兵総長ザギバに促された朔桜は精霊王に捕まり逃げた経緯を改めて説明。

一区衛兵長シャーロンの名前が出た時、

自警団長シュトロンは微かに目を大きく開いたが、

さして大きな反応をする事はなかった。

ポテの遺言通り、散った後のエナはペンダントに吸収して収めた。

だが、救う事の出来なかった責任を感じている様子だった。

シンシアは先の戦いにて無事午の刻を打ち果たし、帰還。

戦闘内容を細かに話し伝えた。

エナと矢を多く消費したが、シンシア自身に外傷はない。

午の刻のエナの量は極わずかで、消費分のエナを吸収する事はできなかった。

ノアはいつも通り。口角を上げ、身体を左右に振り机の下で足をバタバタしている。

だが、その瞳の奥には今までに無かった強さを感じる。

ポテの死をきっかけにノアの心情に何か変化をもたらしたのだろう。

レオ、キーフ、キリエ、イツツは育ての親に等しいポテの死をまじまじと痛感し、後悔と悲しみの渦に呑まれている。


「おめぇら! しゃんとしろ!」


静寂を破り大声で激励を飛ばしたのは衛兵総長ザギバ。

三区のオーガ殲滅作戦を完遂させ、無事に合流する事ができた。

机を叩き全員の視線を集めた。


「これは精霊王との戦争だ。敵が死ぬように味方も死ぬ。

殺し、殺されるそれが戦争だ。その覚悟がねぇなら降りろ」


正論を正面から叩き付ける。

しかし、弟子たちはその言葉でもピクリとも動かない。何も響かない。

心の一部をぽっかりと失い、まるで生きた人形のようだった。

それを見てザギバは溜息をつく。


「ダメだ。こいつらは使い物になんねぇ。

五区の調査は俺とシュトロン。それとこのお嬢ちゃんで行く」


ザギバが指定したのは、自警団長シュトロンとまさかのノア。


「僕はいいけど、こんなに小さなレディーも連れて行くのかい?」


「ああ、そこらの奴よりも強いし、使いものになる」


「うーん、面白そうだけど、ノアそろそろ限界が近いんだー」


その言葉で朔桜は思い出す。

ノアは電力で動いているため定期的なロードの給電がないと動く事が出来ない。

ロードと別れてからもう一日以上経過している。

宝具を使っていなくとも、派手に動けばそれだけ電力の消費も上がる。


「ノアちゃん、電力が……」


「うん。あと一時間ちょっとって感じかなぁー」


話を聞き、活動限界を察したシンシアが話に割り込む。


「私で良ければ、給電できるわよ」


「ほんと!? シンシアお姉さんちょーだーい」


ノアが人工宝具だと知らない衛兵長たちは会話の意味が分からず、不思議そうな顔をしている。

シンシアとノアは本部のテントから出て、人目の付かないところで給電を済ます。


「こそこそと、一体何をやってやがるんだ?」


「あはは~」


朔桜はザギバの追求を乾いた笑いで誤魔化す。

二人がテント内に戻ってくるとノアの顔はゆで卵のような艶々の肌になっていた。


「ロードくんより百倍美味しい電気だった~~。

今度からシンシアお姉さんから電気貰う~」


よく見るとノアはシンシアに腕を絡めべったりくっついている。

相当お気に召した様子だ。


「それで? 結局、お嬢ちゃんは来るのか? 来ないのか?」


椅子に座ったまま腕を組んだザギバがノアを横眼で見る。

ノアは迷った様子で朔桜の顔を窺う。


「私は……ここに残るよ。エナの貯蓄が無いと私、何も出来ないし……。

それにここにあるポテさんのエナはいざって時に大切に使いたいから。ノアちゃんは行ってきて」


存在を確かめるかのようにペンダントを両手で握り、ノアに笑顔を向ける。

だが、その笑顔を無理して作っているのは、その場の全員が気づいた。

鈍感なザギバですら気づくほどにぎこちない。


「じゃあ、私が朔桜と残るわ。精霊王との戦いに備えてエナジードを万全に溜めておきたいから」


その場の全員に聞こえるように澄んだ声で言い放つと

腕に絡んだノアにだけ聞こえるように任せてと呟く。

ノアは微笑み決意を示す。


「ノアも行くよ、おじさん!」


「おじさんじゃねぇ! まだ二十六だ!

じゃあ、お嬢ちゃんも出発の支度しな!」


「少しだけ待って」


ノアの表情は曇り、気まずそうに俯く。


「あの……朔ちゃん」


なにかを話したそうにしているが、なかなか言い出さない。


「どうしたの?」


心配して朔桜が目を向けると、ノアはバツが悪そうに目を逸らす。


「ノアちゃん?」


一度強く唇を噤み、決意を決め、小さな声を振り絞るようにして話す。


「あ、あのさ、教会でノアが言った事……気に……してる?」


自分の言葉が朔桜を追い詰めているのだと思い、ノアはシュンとしながら恐る恐る朔桜に問う。

その問いに朔桜は首をゆっくり傾げる。


「気にしてない……って言ったら嘘になるけど……。

ノアちゃんの考え、そして言った事は正しかった。

もう少し先の事を考えてエナを使い、人を助けるべきだったと反省してる。

でも、傷ついた人たちを助けた事、後悔してない。

私の救える人は目先の人から救いたいという考えは間違っているとは思わないから」


ハッキリと自分の意志を伝えた朔桜の目は真っ直ぐ前を向いていた。


「私の言っているのは綺麗事だって分かっているよ。

でも、その綺麗事を、私は私の意志で通したい。

ポテさんを救う事ができなかったのは、私が招いた結果。

それは私自身がここでしっかりと受け止める。

そして、前を向いて私が出来る事を、出来る限りする!」


自分の胸を拳で叩く朔桜。

そのあまりに強い意志、信念を聞き、

ザギバはゴツくて大きな手で鼓膜が驚くほどの大きな拍手をした。


「嬢ちゃん、あんた立派だ。名前、聞いてなかったな」


「朔桜です。並木朔桜」


「朔桜か。覚えておくぜ!」


「僕もその志に感銘を受けましたっ!」


目を輝かせ、握手を求めるシュトロン。

朔桜は引き気味に苦笑いして手を差し出す。

ブンブンと手を振られて困る朔桜を見てノアはやっと笑みをこぼした。

場の空気が変わったと思いきや、弟子たちの表情は今だに暗い。

そう簡単に気持ちの切り替えが出来ないのだろう。


決まった配属はこうだ。

五区奪還作戦にザギバ、シュトロン、ノア

三区安全確認に三区衛兵長モルボ、レオ、キーフ、キリエ、イツツ

避難民誘導に四区衛兵長ムニエラ、補佐コトリバチ

本部待機に朔桜、シンシア、サビーとなった。


「じゃあ、行ってくる。ここは任せたぞ。行くぜ。お嬢ちゃん、シュトロン」


「お嬢ちゃんじゃなくてノアでいいよー」


「分かった、じゃあ行くぜ。ノア、シュトロン」


「はーい! じゃ、行ってきまーす」


「行って来るね。皆の無事を祈るよ」


ザギバはシュトロンとノアを連れ、五区へと向かった。


「うほっ、じゃあ俺たちも行くぞ。気合い入れてけ」


三区衛兵長モルボと共に脱力したままのレオたちは静かにその後ろを付いて行った。

その様子を見てシンシアは一抹の不安が(よぎ)る。


「大丈夫かしら、レオたち……」


朔桜も彼らの様子が気になっていた。


「心配、ですよね……」


「あのうわの空の状態で、行かせるべきではなかったかも知れないわね……」


シンシアは自分の甘い判断を悔いた時だった。


「彼らには行ってもらわねば、私が困る……」


ボソッと聞き取りづらい籠った声でサビーが呟く。


「何か言ったかしら?」


シンシアは鋭い目でサビーを睨む。


「い、いえ。なんでもありませんよ」


朔桜には聞き取れなかったが、サビーの言葉はシンシアの耳にハッキリと聞こえていた。


シンシアはサビーに疑念を持ちながらも、三人は本部テントで皆の帰りを願うのだった。


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