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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
四章 輪廻凱旋! 都市奪還作戦
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二十二話 揺らぐ信念

現在、衛兵総長ザギバ、三区衛兵長モルボ、自警団長シュトロンが三区でオーガ殲滅作戦を継続中。

既にオーガはあらかた片付き、残りは数十体ほどまで減っていた。

数分後には三区にも安寧が戻るだろう。

それも前衛の部隊が頑張った功績である。


そんな中、森の馬車道をキーフは全力で走っていた。

瀕死のポテから大量の血が流れ出て止まらない。

焦るキーフだが、二区衛兵長サビーの要請で駆けつけ、スネピハ百水門の前で待機していた朔桜、ノア、レオ、キリエ、イツツと合流。


「回復を頼む!」


息を切らしたキーフがポテを地面に寝かす。

ポテの惨状に気づいた朔桜は、即座に治療を開始。

一同は治療の様子を固唾を呑んで見守る。

サンデルへの道では、シンシアと午の刻の戦いの振動の余波と轟音が響く。


「だめ、だめだめっ! エナが足りない! この傷は……治せ……ない……」


ペンダントの淡い光とともに出血はなんとか止まった。

しかし、ポテの命は風前の灯火。

オーガを倒し、多少のエナを吸収する事ができたが、手足は吹き飛び、

大量に血を流したポテを完治させるには到底至らない。

朔桜は自分の判断の甘さを酷く痛感する。

ノアの言った通り。大切な時に、その力を使えない無力さ。

見知った人が、目の前で熱を生命を奪われていく絶望感。

目に入る多くの人々を助けて進んだ。

だが、情と信念で動いた結末がこの惨状だ。


「私がエナを使い切っちゃったから……。ごめんなさいっ……ごめんなさいっ……」


朔桜の信じた真っ直ぐな信念が揺らぎかける。

その時だった。


「大丈夫じゃよ……。お主は多くの都民を救った……。それは、とてもとても立派な事じゃ。

誇りはすれど、後悔は不要。こんな老い()れのために自分の正しく美しい行いを悔やまんでくれ……」


ポテは朔桜に優しく微笑む。

ポテの言葉に朔桜の中では色んな感情が交差する。

目尻から溢れた涙が頬を伝う。


「ポテ……さん……」


綺麗で小さな手がポテに優しく触れる。


「師匠! まだ諦めちゃダメだっ! 単純な話、元凶を今すぐぶっ飛ばしてエナジードを回収すればいいんだろ!?」


大きな声を上げ、レオは拳を握り締めて、歯を強く食いしばる。

今にも走り出しそうなレオの肩を、キーフが押さえつけるように掴んだ。


「お前が行っても瞬殺される。アレを相手にするのは、お前じゃ無理だっ! 今はシンシアを信じろっ!」


レオは激しく肩を動かし、キーフの手を振り払う。

その表情は激しい怒りに満ちていた。

キーフに向けた怒りではない。

恩師が目の前で死にそうになっているにもかかわらず、

何も出来ない自分への激しい怒り。

そして、不甲斐ない自分を悔いる。

怒りと後悔の感情が込み上げて入り混じる。


「悠長にしてたら、師匠は死んじまう!!」


険悪な空気が場を包む。

静かな空気の中、キリエはそれまで閉ざしていた口を開き、一つの提案をする。


「私たちのエナジードを朔桜ちゃんの宝具に移すって無理なんですか。。。?」


「どう……だろう……」


今まで朔桜は試してみた事はない。

だが、やってみる価値はあった。


「試してみてもいいですか?」


朔桜は頷いてペンダントを外す。

チェーンの部分を持ちレオへと現在、衛兵総長ザギバ、三区衛兵長モルボ、自警団長シュトロンが三区でオーガ殲滅作戦を継続中。

既にオーガはあらかた片付き、残りは数十体ほどまで減っていた。

数分後には三区にも安寧が戻るだろう。

それも前衛の部隊が頑張った功績である。


そんな中、森の馬車道をキーフは全力で走っていた。

瀕死のポテから大量の血が流れ出て止まらない。

焦るキーフだが、二区衛兵長サビーの要請で駆けつけ、スネピハ百水門の前で待機していた朔桜、ノア、レオ、キリエ、イツツと合流。


「回復を頼む!」


息を切らしたキーフがポテを地面に寝かす。

ポテの惨状に気づいた朔桜は、即座に治療を開始。

一同は治療の様子を固唾を呑んで見守る。

サンデルへの道では、シンシアと午の刻の戦いの振動の余波と轟音が響く。


「だめ、だめだめっ! エナが足りない! この傷は……治せ……ない……」


ペンダントの淡い光とともに出血はなんとか止まった。

しかし、ポテの命は風前の灯火。

オーガを倒し、多少のエナを吸収する事ができたが、手足は吹き飛び、

大量に血を流したポテを完治させるには到底至らない。

朔桜は自分の判断の甘さを酷く痛感する。

ノアの言った通り。大切な時に、その力を使えない無力さ。

見知った人が、目の前で熱を生命を奪われていく絶望感。

目に入る多くの人々を助けて進んだ。

だが、情と信念で動いた結末がこの惨状だ。


「私がエナを使い切っちゃったから……。ごめんなさいっ……ごめんなさいっ……」


朔桜の信じた真っ直ぐな信念が揺らぎかける。

その時だった。


「大丈夫じゃよ……。お主は多くの都民を救った……。それは、とてもとても立派な事じゃ。

誇りはすれど、後悔は不要。こんな老い()れのために自分の正しく美しい行いを悔やまんでくれ……」


ポテは朔桜に優しく微笑む。

ポテの言葉に朔桜の中では色んな感情が交差する。

目尻から溢れた涙が頬を伝う。


「ポテ……さん……」


綺麗で小さな手がポテに優しく触れる。


「師匠! まだ諦めちゃダメだっ! 単純な話、元凶を今すぐぶっ飛ばしてエナジードを回収すればいいんだろ!?」


大きな声を上げ、レオは拳を握り締めて、歯を強く食いしばる。

今にも走り出しそうなレオの肩を、キーフが押さえつけるように掴んだ。


「お前が行っても瞬殺される。アレを相手にするのは、お前じゃ無理だっ! 今はシンシアを信じろっ!」


レオは激しく肩を動かし、キーフの手を振り払う。

その表情は激しい怒りに満ちていた。

キーフに向けた怒りではない。

恩師が目の前で死にそうになっているにもかかわらず、

何も出来ない自分への激しい怒り。

そして、不甲斐ない自分を悔いる。

怒りと後悔の感情が込み上げて入り混じる。


「悠長にしてたら、師匠は死んじまう!!」


険悪な空気が場を包む。

静かな空気の中、キリエはそれまで閉ざしていた口を開き、一つの提案をする。


「私たちのエナジードを朔桜ちゃんの宝具に移すって無理なんですか。。。?」


「どう……だろう……」


今まで朔桜は試してみた事はない。

だが、やってみる価値はあった。


「試してみてもいいですか?」


朔桜は頷いてペンダントを外す。

チェーンの部分を持ち、レオへと向けた。

レオは(わら)にも(すが)る思いで、拳に全力のエナを込め、宝具に当てた。

息を呑み、一同はその様子を見守る。

可能性を求める。救いを求める。

しかし、期待とは裏腹に現実は残酷だ。

エナがびた一文貯まる事はなく、希望が断たれた一同は静寂に呑まれた。

レオは崩れ落ちるように地面に膝を付き、深く項垂れる。

一刻、一刻とポテの身体は弱り、次第に透き通り変化していく。

手足の千切れた末端部分から、徐々にエナへと散りゆく。

それを止める事はもう誰にもできない。


「身体から部位を切り離せば、エナジードになるんだよな」


レオが静かにポツリと呟き、自分の右手で左の肩を強く掴む。

その行動の理由にいち早く気づき、キーフは声で制す。


「レオッ! 何をする気だっ!」


「俺の腕を離してエナジードにする。そうすれば師匠は助かる。

腕は宝具に十分エナジードが貯まったら、朔桜さんに治してもらえばいい」


その場に居た弟子全員が自身の一部を犠牲にしてでも

己が師を助けたいという気持ちを持っている。

しかし、朔桜は残酷な現実をハッキリと突きつけた。


「足りないよ。レオ君が今、腕を犠牲にしても全然足りない……。

皆が両手両足を出し合ったとしても、誰かが命を犠牲にしたとしても、

ポテさんを救う事は……出来ないんだよ……」


皆が薄々は理解しても口にする事を阻み、心の中で拒んでいた事を躊躇いも無く言い放つ。

一番言いにくい場面で、一番言いにくい事を朔桜は堂々と口にした。

そんな彼女瞳は涙でびしょびしょに濡れていた。

レオの頭の中は何かが弾けたかのように真っ白になる。

脳裏に朔桜の言葉の意味が一言ずつ響く。


そして、同時に全員は悟った。


ポテはもう、助からないのだと。

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