二十二話 揺らぐ信念
現在、衛兵総長ザギバ、三区衛兵長モルボ、自警団長シュトロンが三区でオーガ殲滅作戦を継続中。
既にオーガはあらかた片付き、残りは数十体ほどまで減っていた。
数分後には三区にも安寧が戻るだろう。
それも前衛の部隊が頑張った功績である。
そんな中、森の馬車道をキーフは全力で走っていた。
瀕死のポテから大量の血が流れ出て止まらない。
焦るキーフだが、二区衛兵長サビーの要請で駆けつけ、スネピハ百水門の前で待機していた朔桜、ノア、レオ、キリエ、イツツと合流。
「回復を頼む!」
息を切らしたキーフがポテを地面に寝かす。
ポテの惨状に気づいた朔桜は、即座に治療を開始。
一同は治療の様子を固唾を呑んで見守る。
サンデルへの道では、シンシアと午の刻の戦いの振動の余波と轟音が響く。
「だめ、だめだめっ! エナが足りない! この傷は……治せ……ない……」
ペンダントの淡い光とともに出血はなんとか止まった。
しかし、ポテの命は風前の灯火。
オーガを倒し、多少のエナを吸収する事ができたが、手足は吹き飛び、
大量に血を流したポテを完治させるには到底至らない。
朔桜は自分の判断の甘さを酷く痛感する。
ノアの言った通り。大切な時に、その力を使えない無力さ。
見知った人が、目の前で熱を生命を奪われていく絶望感。
目に入る多くの人々を助けて進んだ。
だが、情と信念で動いた結末がこの惨状だ。
「私がエナを使い切っちゃったから……。ごめんなさいっ……ごめんなさいっ……」
朔桜の信じた真っ直ぐな信念が揺らぎかける。
その時だった。
「大丈夫じゃよ……。お主は多くの都民を救った……。それは、とてもとても立派な事じゃ。
誇りはすれど、後悔は不要。こんな老い耄れのために自分の正しく美しい行いを悔やまんでくれ……」
ポテは朔桜に優しく微笑む。
ポテの言葉に朔桜の中では色んな感情が交差する。
目尻から溢れた涙が頬を伝う。
「ポテ……さん……」
綺麗で小さな手がポテに優しく触れる。
「師匠! まだ諦めちゃダメだっ! 単純な話、元凶を今すぐぶっ飛ばしてエナジードを回収すればいいんだろ!?」
大きな声を上げ、レオは拳を握り締めて、歯を強く食いしばる。
今にも走り出しそうなレオの肩を、キーフが押さえつけるように掴んだ。
「お前が行っても瞬殺される。アレを相手にするのは、お前じゃ無理だっ! 今はシンシアを信じろっ!」
レオは激しく肩を動かし、キーフの手を振り払う。
その表情は激しい怒りに満ちていた。
キーフに向けた怒りではない。
恩師が目の前で死にそうになっているにもかかわらず、
何も出来ない自分への激しい怒り。
そして、不甲斐ない自分を悔いる。
怒りと後悔の感情が込み上げて入り混じる。
「悠長にしてたら、師匠は死んじまう!!」
険悪な空気が場を包む。
静かな空気の中、キリエはそれまで閉ざしていた口を開き、一つの提案をする。
「私たちのエナジードを朔桜ちゃんの宝具に移すって無理なんですか。。。?」
「どう……だろう……」
今まで朔桜は試してみた事はない。
だが、やってみる価値はあった。
「試してみてもいいですか?」
朔桜は頷いてペンダントを外す。
チェーンの部分を持ちレオへと現在、衛兵総長ザギバ、三区衛兵長モルボ、自警団長シュトロンが三区でオーガ殲滅作戦を継続中。
既にオーガはあらかた片付き、残りは数十体ほどまで減っていた。
数分後には三区にも安寧が戻るだろう。
それも前衛の部隊が頑張った功績である。
そんな中、森の馬車道をキーフは全力で走っていた。
瀕死のポテから大量の血が流れ出て止まらない。
焦るキーフだが、二区衛兵長サビーの要請で駆けつけ、スネピハ百水門の前で待機していた朔桜、ノア、レオ、キリエ、イツツと合流。
「回復を頼む!」
息を切らしたキーフがポテを地面に寝かす。
ポテの惨状に気づいた朔桜は、即座に治療を開始。
一同は治療の様子を固唾を呑んで見守る。
サンデルへの道では、シンシアと午の刻の戦いの振動の余波と轟音が響く。
「だめ、だめだめっ! エナが足りない! この傷は……治せ……ない……」
ペンダントの淡い光とともに出血はなんとか止まった。
しかし、ポテの命は風前の灯火。
オーガを倒し、多少のエナを吸収する事ができたが、手足は吹き飛び、
大量に血を流したポテを完治させるには到底至らない。
朔桜は自分の判断の甘さを酷く痛感する。
ノアの言った通り。大切な時に、その力を使えない無力さ。
見知った人が、目の前で熱を生命を奪われていく絶望感。
目に入る多くの人々を助けて進んだ。
だが、情と信念で動いた結末がこの惨状だ。
「私がエナを使い切っちゃったから……。ごめんなさいっ……ごめんなさいっ……」
朔桜の信じた真っ直ぐな信念が揺らぎかける。
その時だった。
「大丈夫じゃよ……。お主は多くの都民を救った……。それは、とてもとても立派な事じゃ。
誇りはすれど、後悔は不要。こんな老い耄れのために自分の正しく美しい行いを悔やまんでくれ……」
ポテは朔桜に優しく微笑む。
ポテの言葉に朔桜の中では色んな感情が交差する。
目尻から溢れた涙が頬を伝う。
「ポテ……さん……」
綺麗で小さな手がポテに優しく触れる。
「師匠! まだ諦めちゃダメだっ! 単純な話、元凶を今すぐぶっ飛ばしてエナジードを回収すればいいんだろ!?」
大きな声を上げ、レオは拳を握り締めて、歯を強く食いしばる。
今にも走り出しそうなレオの肩を、キーフが押さえつけるように掴んだ。
「お前が行っても瞬殺される。アレを相手にするのは、お前じゃ無理だっ! 今はシンシアを信じろっ!」
レオは激しく肩を動かし、キーフの手を振り払う。
その表情は激しい怒りに満ちていた。
キーフに向けた怒りではない。
恩師が目の前で死にそうになっているにもかかわらず、
何も出来ない自分への激しい怒り。
そして、不甲斐ない自分を悔いる。
怒りと後悔の感情が込み上げて入り混じる。
「悠長にしてたら、師匠は死んじまう!!」
険悪な空気が場を包む。
静かな空気の中、キリエはそれまで閉ざしていた口を開き、一つの提案をする。
「私たちのエナジードを朔桜ちゃんの宝具に移すって無理なんですか。。。?」
「どう……だろう……」
今まで朔桜は試してみた事はない。
だが、やってみる価値はあった。
「試してみてもいいですか?」
朔桜は頷いてペンダントを外す。
チェーンの部分を持ち、レオへと向けた。
レオは藁にも縋る思いで、拳に全力のエナを込め、宝具に当てた。
息を呑み、一同はその様子を見守る。
可能性を求める。救いを求める。
しかし、期待とは裏腹に現実は残酷だ。
エナがびた一文貯まる事はなく、希望が断たれた一同は静寂に呑まれた。
レオは崩れ落ちるように地面に膝を付き、深く項垂れる。
一刻、一刻とポテの身体は弱り、次第に透き通り変化していく。
手足の千切れた末端部分から、徐々にエナへと散りゆく。
それを止める事はもう誰にもできない。
「身体から部位を切り離せば、エナジードになるんだよな」
レオが静かにポツリと呟き、自分の右手で左の肩を強く掴む。
その行動の理由にいち早く気づき、キーフは声で制す。
「レオッ! 何をする気だっ!」
「俺の腕を離してエナジードにする。そうすれば師匠は助かる。
腕は宝具に十分エナジードが貯まったら、朔桜さんに治してもらえばいい」
その場に居た弟子全員が自身の一部を犠牲にしてでも
己が師を助けたいという気持ちを持っている。
しかし、朔桜は残酷な現実をハッキリと突きつけた。
「足りないよ。レオ君が今、腕を犠牲にしても全然足りない……。
皆が両手両足を出し合ったとしても、誰かが命を犠牲にしたとしても、
ポテさんを救う事は……出来ないんだよ……」
皆が薄々は理解しても口にする事を阻み、心の中で拒んでいた事を躊躇いも無く言い放つ。
一番言いにくい場面で、一番言いにくい事を朔桜は堂々と口にした。
そんな彼女瞳は涙でびしょびしょに濡れていた。
レオの頭の中は何かが弾けたかのように真っ白になる。
脳裏に朔桜の言葉の意味が一言ずつ響く。
そして、同時に全員は悟った。
ポテはもう、助からないのだと。




