二十一話 午の刻
二区衛兵長サビーの援軍要請で、一番最初に駆けつけたキーフ。
八回目の加足を使い、以前よりも格段に早くなっていた。
「新手。弱者ナリ」
「あぁん? 殺るかぁ?」
頭を突き出し、上下に何度も振り、鋭い目でメンチを切る。
挑発に乗って戦いそうになるが、
抱えた瀕死のポテを見て、優先順位を思い出す。
「いけねぇな。てめぇの相手は俺じゃねぇ」
キーフは一足で駆け、午の刻の横をあっという間に素通りする。
しかし、午の刻も易々と見逃してはくれない。
「鈍足。」
嘲笑い口角を上げる。
次の瞬間、午の刻は自身の蹄を弾き、キーフの真上に影を落とす。
キーフが上を見上げると、午の刻は両手を広げ、鳥のように飛行していた。
「ちっ! 化け物んがっ!」
反射的に迎え撃とうとするが、身体を覆うほどの巨大な白い手が翳される。
このまま近距離で衝撃波を受ければ、二人は確実に死に至るだろう。
「加足!!!!!!!!!」
キーフの声と同時に、午の刻は躊躇なく衝撃波を放つ。
消し飛んだ地面は捲れ上がり、道の真ん中には巨大なクレーターが出来上がる。
だが、土の他にはないも無い。
「驚愕。あの距離、あの速度でかわしたとは」
反射的に危機を感じたキーフは、咄嗟の判断で加足を使い、脚力を強化。
スピードを一段階上げ、なんとか攻撃をかわしていた。
手の距離が近かったのが幸いし、攻撃が広がり、逃げ場が無くなる前に
奇跡的に避ける事が出来たのだ。
だが、次はそうは上手くいかない。
二度目の奇跡が起きる、そんな甘い相手ではない。
「なんだってんだッ。あの速さはぁ!」
「権能。我が力は≪弾≫。この手、足に触れたモノ全てを弾く」
「じゃあなにか? 触れた物質全てを弾き飛ばせるって事か?」
「肯定。原子単位で我の望む尺度で弾く事が可能」
攻撃、守備、移動、全てに使える万能な能力。
それを持つうえ、軟な攻撃では傷一つとして付かない強靭な機体を持つ。
“精天機獣”午の刻。
「だ、そうだ。悔しいがあれの相手は俺には無理そうだ。後は頼む」
キーフは拳を上に真っ直ぐ上げ、交代の合図を出すと、森の奥から矢が風を切り、
木の枝を縫うようにかわして標的に迫る。
矢の音にいち早く気づいた午の刻は、片手で無数の矢を弾き払う。
落された矢は金属、柄、羽全て黒塗りにされている奇襲用。
それを音だけで反応するほどの反射力をも持つようだ。
「じゃあ、これならどうかしら。星々は世界を渡る!」
落ち着いた声色で冷静に弓を射る。
次元を超え、突如現れた矢は、午の刻に気づかせる事もなく、白い左目に突き刺さった。
突然の激痛に驚き、前足を上げてばたつかせる午の刻。
けたたましい叫び声が森中に響く。
「今よ! キーフ!」
生まれた隙を見逃さず、キーフを上手くその場から離脱させた。
「小癪。」
午の刻は聞こえた声の方へ無数の≪弾≫を放った。
空気が弾け、葉が弾け、枝が弾け、木が弾け、林が弾け、森が弾けた。
午の刻から扇状に広がって、五十メートルほどが一瞬で消し飛んだ。
木々の残骸が無残に散らばる。
「随分と荒々しい攻撃ね」
無事健在の木の葉の陰から長い髪をたなびかせ、しなやかに飛び出したのは綺麗な金髪のエルフ。
エルフの女王にして、過去に精霊王を討った《星奏調律》の弓使い。シンシア・クリスティリア。
彼女は母天体に矢を番え、午の刻に向かって構える。
「あなたの相手は、この私よ」
午の刻への宣戦布告として
彼女は星のようにキラキラと輝く光の矢を
背筋を伸ばして真っ直ぐに、冷静に、午の刻へと向かって放ったのだった。




