十九話 生存報告
水都市スネピハの入り口百水門。
その向かいの丘に建てられた立派とは言い難い簡易テント、それが今のスネピハ本陣だ。
丘下には、四区衛兵長ムニエラと四区衛兵長補佐コトリバチが率先して、
多くの都民を避難誘導していた。
「みんな、あわてないでだいじょうぶでありますっ!」
「さあ、こちらの列に並んでくださいっ!」
朔桜の献身的な治療の甲斐あり、都民全員が自分の足で己の命を運ぶ。
聖女様こと、並木朔桜はノアと一緒にオーガ殲滅攻衛部隊のところへ向かう。
途中、防壁を作るキリエとイツツにも無事を伝えてきた。
前線に向かうと弓を片手に巨大なオーガと戦う綺麗な金髪がなびく。
矢でオーガを貫き一息つくと同時に、一際目立つ桜髪に気づいた。
亡霊でも見たかの様に、大きく目を見開き一足で跳んでくる。
「さ、朔桜、ただいま戻りましたっ!」
かしこまって敬礼すると、シンシアは笑顔で迎え、抱擁した。
暖かい温もり。そして、甘い香りがふわりと香る。
「無事で良かったわ。お帰りなさい、朔桜」
レオとキーフも朔桜の存在に気づき、二人も安堵する。
目的の一つは達成した。
後は、精霊王アーガハイドを倒し、スネピハを取り戻すだけ。
「ふふ、これはまた、可愛らしい女の子が増えたね」
遠目で朔桜を見たシュトロンは微笑み、オーガの群れを一閃。
その光景を見て、朔桜は首を傾げる。
「あれ? シャーロンさん? こっちに合流してたんですか?」
「シャーロン? 彼はシュトロンよ?」
「あ、え? あれ?」
首を傾げる朔桜。
それを余所に建物の陰から突如、オーガが現れて二人の不意を衝く。
「危ねぇぞおめえら!!」
ザギバが焦って忠告するが、二人は一切警戒していない。むしろ余裕すら感じられた。
「ちぃ!」
ザギバがカバーしようとした瞬間、オーガの首が刎ね飛んだ。
「やっぱ、ノアはこっちの方が向いてるかな~」
ノアの雨の羽衣が一太刀。
オーガの巨体は血飛沫を上げ、地面に倒れ込む。
「やるじゃねえか、お嬢ちゃん」
「えへへ~おじさんもいい反応してたよ」
「おじっ……おりゃーまだ二十六だ!!」
ザギバは年齢の事で声を荒らげながらノアと口論を始めた。
朔桜はオーガが消えた跡から粛々と宝具にエナを吸収させる。
だが、その量は極わずかだ。
「はぁ……。思ったより貯まらない……」
全然貯まる気配のないエナに落ち込む朔桜。
そんな事はお構いなしに途切れる気配なく次から次へとオーガは迫り来る。
シンシアは静かに弓を構えた。
「エナジードが必要なの?」
「はい……四区の人を治療してたら、貯めてたエナ全部使っちゃって……」
「四区の人達はどうなったの?」
「もう殆どの人がスネピハの外に避難していると思います」
「そう、良かった……! じゃあもう少しだけ、ここに居てくれるかしら?」
「えっ?」
朔桜の言葉と同時に矢を放つ。
眩く輝いた矢は小さな星々を零し、オーガの群れで弾ける。
たった一瞬で百体近い大群を一掃。
「私たちがエナジードを稼いであげる。みんな! へばってないわよね? まだまだやれるかしら?」
響くシンシアの声を聞いて、血の気の多き猛者たちは笑みを溢す。
「もちろんっすよ! まだまだ行くぜ、相棒!」
「無論だ。相棒!」
「美しい者のためならいくらでもこの剣を振ろう!」
「あたりめぇよ!」
「はい、はい! ノアも! ノアも参加するー!」
「じゃあ、そろそろ本気で殲滅して本陣に戻りましょう!」
シンシアの掛け声で六人は一斉に飛び出した。




