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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
四章 輪廻凱旋! 都市奪還作戦
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十四話 爆発オチなんて……

シャーロンに頭を割られた場所から一際大きな手を覗かせ、

その掌の中心には、黒いひし形の宝石が埋め込まれている。

腕が首のように動き、指が目のように辺りを見渡す。

もはや、その姿は大鳥ではなく、異形の化け物だ。


「不明。手ガ勝手二動ク……。桜髪ヲ、殺セト求メル……」


「私っ!?」


酉の刻の意志を反し、黒い両大翼の半面で、無数の手が勝手に朔桜の命を求め(うごめ)く。


「殲滅。精霊人ハ等シク殺ス。主人ハ我。我二従エ」


暴走した手を、自分の意志で無理やり抑え込む酉の刻(ハクザ)

大翼を使い、巨体は瞬時に飛び上がり翼を畳んだ。

それを見て危険を感じ取ったシャーロンは、朔桜を抱えて倉庫の端に駆け込む。

その瞬間、倉庫の中が大砲を撃ち込まれたのかと思うほどの衝撃が二人を襲う。

収納されていた品々が無残にも吹き飛び、宙を舞った。

二枚の扉は大破し、二人の足元にはタオルや(くし)などの生活用品が散らばる。


「きゃあ!? 何!?」


朔桜は突然の出来事に戸惑う。


「しっ! あれよ」


口に人差し指を当て、声を潜めるシャーロン。

身を屈めて指さす先には、黒い巨体が藻掻く。

大砲玉の如く勢いよく飛んできたは酉の刻。

翼を畳み、加速して、弾丸の如く飛んできた。


「失敗。」


二人は身を屈め、息を殺す。


「奇妙。マダ居ルハズ」


機械の手で周囲の硬い木箱をまるで紙の箱のように乱暴に押し潰す。


「狭い所じゃ不利だわ。ここを出ましょう……。ティア、お願い」


声を潜めたシャーロンの水精霊ティアリオーネが二人を囲み、壁際を蛇のように伝う。

静かに倉庫から抜け出し、十分に離れたところで二人を降ろした。

それは赤い屋根の倉庫前。近くには赤いコンテナがたくさん積んである。

二人は酉の刻の様子を窺う。

今だ青い屋根の倉庫の中では暴れ狂っているようだ。

それを好機とみたシャーロンは攻めに転じる。


「反撃よ、ティア!」


河の水を使い、近くに並んだ重量百キロを超える赤いコンテナを軽々と宙に持ち上げた。


「シュート!」


シャーロンが指を鳴らす。

ティアリオーネは水圧でコンテナを吹き飛ばし、酉の刻が入った倉庫に叩き込む。

酉の刻の鈍い声が聞こえた。

背後から鉄塊の一撃を喰らい、ひるんでいる様子。

追撃でもう二つ、赤いコンテナを投射。


「逃走。イツノ……間二」


大きな手が二人を捉える。

しかし、シャーロンの算段は既に整った。


「終わりよ! ティア!!」


ティアリオーネは頷くと、先ほど防いで体内に蓄積していた黒い閃光を放ち、赤いコンテナを貫く。


「伏せて!!」


シャーロンは朔桜を庇うように身を伏せ被せる。

瞬間、倉庫は大爆発。

爆風で倉庫の青い屋根が吹き飛び、上空を木の葉のように舞う。

倉庫は吹き飛び、爆炎に包まれている。


「結構あっけなかったわね」


「え……っと。……一体何が……?」


朔桜は状況が呑み込めず、目を丸くしていた。


「ああ、あの赤いコンテナにはね、沢山の火薬が入っていたのよ」


「火薬?」


「コンテナの色と屋根の色で物資分けされているの。

緑は食べ物。青は生活用品。赤は火薬。白は武器や防具ってね。

今のは、巨大な爆弾を三つ投げたようなものよ。流石に、あれを喰らったら一溜まりも――――」


ないはずと言う前に、焼け落ちた倉庫から黒鳥が飛び立つ。


「軽傷。実二、哀レナリ」


生身の身体や頭部、翼は所々焼け焦げているが、

酉の刻の腕は損傷どころか、傷一つ付いてはいない。


「報復。」


黒い閃光が二人の横の赤いコンテナを貫く。


「しまっ――――」


瞬間、大爆発。

辺りは爆炎に包まれる。


「確認。必須」


手を足のように使い、地面を砕きながら進行。

爆発で死んだのかエナを確認する。

周囲にエナは散っておらず、地面には大量の血が流れていた。


「深手。ダガ死ンデハイナイ。何処ダ」


周囲を窺う酉の刻。

その背後の河からシャーロンが飛沫を上げ、勢いよく飛び出す。

『夢御伽』に水精霊を宿らせ、長剣の刃を五倍ほどに伸ばした。


水廟(すいびょう)!」


振り下ろされた一撃。

しかし、それを機械の手で軽々と受け止めた。


「そんなっ!」


「無駄。ソノ程度デハ、我二傷ハ残セン」


手を振りほどき、一度、距離を放す。


「硬すぎるっ! あんなの……どうすれば……」


「無様。遊ビハ、終ワリダ」


羽ばたいた酉の刻は羽を散らし、それは一点へと収束。

創り出された巨大な黒い閃光の塊。

以前、シネト村に現れた肉塊の閃光と同等以上の力。

禍々しく巨大な力が二人を狙う。


「あんなの……防ぎようがないっ……!」


シャーロンの人生で一番の絶望。

圧倒的な恐怖。圧倒的な質量。圧倒的な力。

そして、再び酉の刻との力の差を思い知らされる。

精霊人と精霊獣。

そこには圧倒的な力の差があったのだと。

勝つなんて甚だしい事だったのだと。

自分がなりたかった英雄は、生まれてから既に英雄だったのだと。

シャーロンは、勝つ事を諦めた。


「ティア!! 朔桜ちゃんを連れて海底に逃げて!!」 


酉の刻を見据えたまま、背を向け話す。

これは決して後ろ向きな諦めではない。

未来への、前向きな諦めだ。

いつの日か。精霊王を倒す者が来る時を願う奇跡の種。それの存命を願いし言葉だ。

しかし、ティアリオーネは硬直して動かない。

身体を微かに震わせ、顔を横に振る。

主を見捨てて逃げろ。なんて命令を親和性の高い精霊がすんなり受け入れるわけがない。


「お願い!! 早くっ!!!」


決死の覚悟を背中で語る。

それを見届けた水精霊の瞳からは、大粒の水の涙が流れ落ちた。


「さようなら、ティア。今までありがとう……」


着々とエネルギーを溜めた黒閃光はどんどんその大きさを増す。

ティアリオーネは河に浮いた木舟に隠れていた朔桜を包み、海底へと逃げる。


「待って! ティアリオーネ!

シャーロンさんがっ! シャーロンさんっ!!」


悲痛な声は水の中に呑まれた。

朔桜が逃げた途端、酉の刻の背の腕が暴れ狂う。


「鎮静。桜髪モ、必ズ殺ス。鎮マレ天使タチ」


無理やりに抑制するが、手はそれに抗う。

それほどまで朔桜に対する執念が大きい。


「異常。早急二対処スル」


「行かせない。救われたこの身。全身全霊で!! 貴方を止める!!」


シャーロンは一本の剣を構える。精霊の居ない精霊装備。

もはや、ただの高価な長剣でしかない。

一区衛兵長といえども、精天機獣の前ではか弱い赤子に等しい。


褒称(ほうしょう)。人ノ身デ良クヤッタ。ダガ……、終焉(しゅうえん)。コノ、一撃デ散レ」


黒閃光を放つ寸前、辺りは黒と白の光に包まれた。

そのエネルギー量は区を一つ消し飛ばすほど。

終わりの刻が刻まれる。

その間際、突如として河沿いのクレーンが根元から爆発。

折れたクレーンは真っ直ぐ倒れ、酉の刻へ迫る。


「些細。」


酉の刻が背中の腕で受け止めようとする。


「このっ! バカロボ鳥ーーーーーーーーーー!!!!」


朔桜の大きな声が港に響く。

途端、声を聞いた機械の手は朔桜を見て暴走。

朔桜の方目掛けて腕が伸び受け止める手段を失う。


「不慮。」


酉の刻は巨大なクレーンに押し潰され、地面にめり込む。

体勢が崩れた事により黒閃光は霧散した。


「朔桜……ちゃん……」


「ティアリオーネ、シャーロンさんを助けたいなら、

赤いコンテナをじゃんじゃん投げちゃってっ!」


朔桜の指示に従い、潰された酉の刻に大量に火薬の入ったコンテナを次々と投げてゆく。


「朔桜ちゃん!! どうして逃げなかったのっ!?」


朔桜はシャーロンの目を真っ直ぐ見る。


「ここで逃げたら、シャーロンさんも、この区に残された人達もみんな酉の刻に殺されちゃいます!」


「……っ! でも、あんな化け物私たちにはどうやっても倒せない!

だから、私はのちの未来に託した! いずれあの化け物たちを倒す勇者様が現れる事を願って!」


「いいえ、違いますよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


その言葉を聞いてシャーロンは思考が止まる。

朔桜は見た。精霊王アーガハイドの恐ろしさを。圧倒的な力を。

それでもなお、あの精霊王に勝てると信じていた。

何度も死線を潜り抜けてきた旧女子高生だけの事はある。

境地を乗り越えてきた経験からすればシャーロンよりも上。

だからこそ、精霊王の《王の号令》に屈しない絆を持ち、

精霊術を使えるシャーロンの力をこんなところで失う訳にはいかない。

精霊王を倒すにはロードやシンシアだけでは無理だ。

朔桜はシャーロンの決死の覚悟である未来の勝利を踏みにじり、

()()()()()()()()()()()()()


「勝ちましょう。シャーロンさん。ここで酉の刻を倒す。その他の選択肢は無いです!!」


その言動、まさに頑固の化身。

その姿はまるであの自信に満ち満ちた鴉のような魔人を彷彿とさせる。

シャーロンは朔桜の強い言葉を聞いて、その眼を見て内を垣間見た。


「貴女は私なんかよりよっぽど強いのね……。

……ごめんなさい。目が覚めたわ。朔桜ちゃん、勝ちましょう」


朔桜は笑顔で返事する。


「そろそろ、起き上がりそうですよ」


潰されていた酉の刻は、無数の手を操り

クレーンをどかそうと動き出していた。


「ティア。ごめんなさい。今後二度と離れたりしない。

もう一度、いいえ。今後とも私に力を貸してっ!」


ティアリオーネはシャーロンに近づき頬を叩く。

その(のち)、柔らかい笑みを浮かべた。

これで許すという事なのだろう。


「ティア、お願い!」


体内に溜めた残りの閃光を全て放つ。


「これで終わって!!!」


十を超える火薬の入った大きなコンテナを閃光が貫くと、コンテナは大爆発。

それと同時に二人はティアリオーネの中に入り、水中に避難。

爆発に触発され、全ての赤いコンテナに引火し、更なる大爆発。

周囲の空気が一瞬で燃え尽き、吹き飛ぶ。

港の赤い屋根の倉庫一帯は消し飛び、土煙と火炎が舞う。

様子を窺い顔を出したシャーロン。

爆発で平らにならされた大地は炎に包まれていた。

火炎と陽炎で視界の悪い中、彼女の瞳に巨大な物体がゆらりと動く。


「嘘……でしょ……」


続けて朔桜も顔を出すと、目の前には絶望があった。


「そんな……ロード……。私、どうすればいいの……?」


二人の前には、灼熱の火炎に呑まれ、肉体の滅びた機械の大手。


伸びた二つの太い機械に付いた無数の手の機械の塊が佇む。


「笑止。」


酉の刻は、なお、無傷。


健在である。

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