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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
四章 輪廻凱旋! 都市奪還作戦
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十三話 酉の刻

姿勢を低く保ち、足場を蹴る。

長い髪をたなびかせ、弾丸のように飛び出す。初速は上々。

コンテナの山を足場に、高く、高く、飛び上がり、空を優雅に舞う。

そして、制空権を握る、巨大な黒鳥。

その首元に私の自慢の精霊装備、長剣『夢御伽(ゆめおとぎ)』を突き立てた。

固い手応え。だが、刃がまるで刺さらない。

違和感を感じ、重力に任せて黒鳥との距離を取る。

コンテナを蹴り、落下の勢いを殺して着地。

黒鳥の様子を窺うも、まったくの無傷のようだ。

違和感を感じた首を注視する。

覆われていた毛だけが裂け、肉皮ではない、白い金属が露見していた。

剣の刃では、貫く事叶わないか。


「確か、貴様の背中は、機械とかいう金属の手が無数に生えているのだったな。

なら、首が金属でもおかしくはないか……」


一人でに納得していると、

ふいに疑問を投げかけてくる。


「驚愕。」


どこからか聞こえた低い声の主に周囲を警戒する。


「何者っ!?」


しかし、この場には私、朔桜ちゃん、そして黒鳥しかいない。


「眼前。」


その声の主は巨大な黒鳥。

口を動かさず、念話のように辺りに言語を撒く。


「貴様、喋れるのか!?」


「無論。我は“精天機獣(せいてんきじゅう)酉の刻(とりのこく)

精霊王に造られし、酉の刻(ハクザ)ナリ」


「残念だけど、名を覚える気はない。

再び相まみえる事は、決して無いのだから」


「賛同。精霊人は漏れず、我らの糧である」


羽ばたきとともに、多くの黒羽を散らし黒い閃光がこちらに集まる。

だが、焦りはない。

私にはそれだけ剣術に自信があった。

冷静に。冷淡に。ただ、剣とその身心にだけ、気を巡らせる。

剣を高速で振り、一閃、一閃を適格に弾き飛ばし、捌き切る。


「軽いわ」


涼しい顔で立つ私を見て、酉の刻は激しい動きで感情を露わにした。

羽を四方に散乱させる。

まずい。完全に囲まれた。

咄嗟に避けようとするが、時すでに遅し。


「終戦。」


酉の刻の言葉を合図に、羽は黒光へと変化し襲いくる絶望的な状況。

しかし、私は一人ではない。


「まだよ、来て! ティアリオーネ!」


水が周囲を揺蕩(たゆた)い、四方八方の攻撃を防ぐ。

閃光を吸収して、体内に溜め込む。

水精霊ティアリオーネ。私の友達にして、大切な親友(ともだち)。ティア。

精霊王の絶対的な能力、≪王の号令≫すら、

私たちの絆に介入する事は出来ない。

ティアはあっという間に、全ての攻撃を防ぎきった。


「遺憾。人に助力する異端霊よ。

王の意に反する異端霊よ。その愚行、その身で思い知れ」


突如、背中から無数の白い手が伸びる。

あれが朔桜ちゃんの言っていた機械の手。

その数、千本。いや、それ以上。どんどん増える。

最初に伸び出た数本の手を容易にかわす。

直線的な単調な攻撃だ。数本なら全く問題はない。

しかし、問題なのは、その威力と数。

かわした場所を見ると、港の岩地は無数の穴が空く。

岩盤を軽々と砕き、荒々しく陥没させるほど。

あの手に掴まれたが最後。果実のように軽々と握り潰されてしまうだろう。

それが数千本ときた。

厳しい戦いになるかもしれない。

覚悟を決め、真っ直ぐ剣先を酉の刻に向けた。


「ティア、私たちの力。あの精霊獣に魅せてあげましょう」


「笑止。人と精霊、共存は不可避。

糧であればよい。声帯であればよい。玩具であればよい。

貴様らに意志は、不要である」


襲い掛かる無数の手。


「お願い、ティア!」


ティアは私を囲い込み、水竜へ変化。

迫り来る手を滑らかに、柔軟に、かわしていく。


「不快。不快。不快。」


酉の刻の攻撃は激しさを増す。

しかし、その攻撃は一度も当たらない。

その中の一本は地盤の緩いところに深く刺さり、抜けなくなっているのを見逃さなかった。


「ティア、その腕に登って! 勝負をかけるわ!」


腕をくるくると螺旋状に回り、攻撃をかわしつつ酉の刻の背中に登る。

手の猛攻をなんとかかわし、後頭部まで辿り着いた。

ティアの中から飛び出し、夢御伽を両手でしっかりと握り込む。

狙うは奴の眉間。

首の後ろまで剣を振り被り、重力に体重を乗せて、一気に振り下ろした。


「消えよ、悪しき霊獣!!」


夢御伽はその刃で酉の刻の頭部を引き裂く。

真っ二つに裂かれた切り口から、おびただしいほどの血が噴き出し、河へと沈む。

私の身体と港の河は、真っ赤な鮮血で染まった。

それは勝者の特権。勝利の深紅。敵の血を浴び、征伐(せいばつ)の実感に浸る。

その瞬間だった。想像を絶する衝撃とともに、後方に吹き飛ばされた。

木箱が緩衝(かんしょう)になりなんとか命はある。脳も辛うじて働く。

だが、身体が全く動かない。感覚もない。

恐る恐る自分の身体を見る。

鎧は砕かれ、全身血に塗れ、左足は変な風に曲がっている。

息苦しい。肋骨も砕け、臓器に刺さっているのだろう。

それを実感したのち、遅れて全身に激痛が襲う。

背中も木片が突き刺さって出血しているのか、生暖かい。

どんどんと目が霞み、視界が闇に呑まれる。


「ああ、日頃弟に油断はするなと言っておいてこのざまとは……」


油断大敵とはまさにこの事だ。

走馬灯というのだろうか。過去の景色が脳内で巡る。

父上母上の反対を押し切って騎士の道を選んだ過去。

騎士になるための厳しい特訓の過去。

そしてやっと一区の衛兵長になれたのに。

突然現れた精霊王に故郷を蹂躙され、

奴を倒すなどと虚勢を張ったが、その配下の一撃でこのざま。

訪れた抗う事も出来ない圧倒的な力の前に屈する。

衛兵としての心が折れる。絶望の禍。

精霊人とは……ここまで非力だったのか。

段々と脳の景色が色褪せる。霞んでゆく。

身が終わりの訪れを悟る。

遠のく意識が深淵に呑まれる間際、一欠片の光が差す。


「まだですよ。まだ負けてないです。二人で、生き残る約束ですよ!」


視界の片隅で桜色の糸が揺れた。


「私は道具に頼るしかできないけど、

貴女には培った力があります。技術があります。

それはあの鳥の片手に屈していいものですか?」


少女の言葉が、私の闘争心を煽った。

身体は何不自由なく、意のままに動く。

死にたくなるほどの痛みも消え去った。

後は、折れた心を再構築した意志で補強する。

重い瞼を開くと、目の前の少女は安心そうに微笑む。


「鳥打ちの準備、出来ましたか?」


「ええ、完璧。今晩は冷えると聞くわ。

たくさん羽毛が手に入りそうだし、

暖かい羽毛布団でぐっすり寝ましょう」


「私も微力ながらお手伝いします!」


「決まりね。じゃあ、まずは大きなチキンを平らげちゃいましょう」


再度闘志を燃やし、剣を向けた先から這い出てきたのは、

もはや大きな鳥ではない()()()()だった。

無数の手を足のように使い、百足(ムカデ)のように壁をよじ登る。

水を弾く羽。乾いた両翼。

二つに裂けた顔からは大きな手が突き出ている異形の存在。


「あの、気味悪いのであれで寝るのは流石にやめときます……。悪夢みそうなので……」


朔桜ちゃんの顔は引きつっていた。


「そうね……」


間違いなく私の顔も引きつっているだろう。


私は、大の虫嫌いなのだ。


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