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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
四章 輪廻凱旋! 都市奪還作戦
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八話 碧眼の先

馬車を走らせ四時間。

イシデムとスネピハのちょうど境に差し掛かると

武装した多くの男達が待ち構えていた。敵意は感じられない。


「止まれーーーー!!」


ツルツルのスキンヘッドに吊り上がった目。

重厚な鎧に身を包んだ大柄の男が大の字になって馬車道を塞ぐ。

シンシアは目深に被ったフードを更に深く被り直した。


「この先は危険だ! 悪い事は言わない! すぐに引き返せ!」


スネピハの今の絶望的状況を知らない人が、戦いに巻き込まれないよう、ここで促しているんだろう。

馬車を止め、男の腕を見ると装備にはスネピハの象徴である二つの塔に挟まれた城の紋章が刻まれている。


「貴方、スネピハの衛兵かしら?」


「そうだが、あんたは何者だ? 荷運びではないな? そのフードを取れ!」


フードに警戒してか男の周りに腕の立ちそうな兵が集まる。

男が大声を上げたと同時に、馬車の中からポテが姿を現す。


「安心してよい。この者は儂の連れじゃ」


一同は途端に顔色を変え、地面に跪く。


「私はスネピハ衛兵総長ギザバ! 七天衆(しちてんしゅう)のポテ様っ! お待ちしておりました!」


「ほう、君があの斧の腕で名高いザギバか。

では、後ろの者たちは?」


「二区、三区、四区の衛兵長 三名!!

そして、今もスネピハ百水門と四区を守っているその部下たち 二万三千名!!

有志で力を貸してくれた自警団 五千名!!

隣国からの加勢予想人数 二万名!!

占めて全四万八千名がこちらの戦力であります!!」


「対する精霊王の軍勢は?」


「集計した情報によれば、

ダントツで多いのが、オーガ種 五万体。

多種多様な精霊、精霊獣 一万体。

我々では手も足も出ないほど、頭抜けて強い未知の身体の精霊獣 四体。

占めて全六万体はいると思われます」


「戦力差があるのぉ……」


「つい先ほどの話では、蠢く肉の塊が水中から多数現れたという始末で

情報も混乱してきています」


その話を聞いて険しい表情でシンシアは口を挟んだ。


「今すぐ、全員に告げて。“精霊女王の忘れ形見”にして“喰者”の一角。

複製結合バルスピーチも潜んでいるってね」 


「バルスッピーチッ!? で、出鱈目を言うなっ!」


名前を聞いて黒い鎧を着た衛兵長が大声を荒立てる。


「出鱈目? いいえ、残念だけど真実よ。大量のオーガ、水中から現れた肉塊……間違いないわ。

それに精霊王がいるのなら、バルスピーチが現れたって不思議じゃない」


「何を根拠に……」


シンシアはフードを取る。


「私が以前、精霊王と戦った者だからよ」


一同は敵意を剥き出しにする。

その容姿は精霊王アーガハイドと同じエルフ。

七天衆のポテの顔は表の活躍で民衆に広く知られていても、

カウルたちと共に旅をしていたシンシアの名は、勇者カウルの名に隠れ、言い伝えられておらず、

その名を知る者も千年の年月に命を費やしてしまった。

覚えているのは同じエルフの同胞くらいだろう。


「皆、聞いてほしい! ここにいらっしゃるお方は、エルフの女王にして

千二百年前、勇者カウルと共に肩を並べ、精霊王をこの世界から一度葬ったお方!

シンシア・クリスティリア様じゃ」


ポテはその場、全員の視線を集めて熱弁する。

知り得る情報。そしてシンシアがどういう存在なのかを。

一同は静かに話を聞き終えたが、表情はいまいち芳しくない。

見知らぬエルフを快く受け入れるのは、やはり難しいのだろう。

重苦しい雰囲気の中、一人の男は大声で笑った。


「生きる伝説じゃねぇか! こりゃ頼もしい!

俺もガキの頃、勇者カウルに憧れて棒きれを振り回したもんだ! お前らもそうだろ!」


衛兵総長ギザバが、振り返るも、兵たちは俯いたまま。

そんな情けない姿を見てギザバは表情を歪め、喝を入れる。


「平和を望む気持ちに、種族なんて関係ねえ!!

こいつはお前らに下を向かせるために来たんじゃねえ!!

命張って、お前らに上を向かせるために来てくれたんだぞ!!

この人の眼を見ろ! この真っ直ぐな碧眼は何を視ている!」


その言葉に兵たちは顔を上げ、シンシアの眼を見る。


「明日だ! 明日を見ている眼だ!!

俺はこの人にこの命託す! 故郷スネピハを奪還するため!

再びの平和のため! そして、俺達の未来のためだぁぁ!!」


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」


地鳴りの如く、男達の声が響く。


「よろしく頼むぜ、シンシアさん」


「シンシアでいいわ」


「じゃあ、遠慮なく。よろしく頼む、シンシア」


二人は硬い握手を交わす。


一同の心は一つとなり


都市奪還作戦に向けての一歩を踏み出した。

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