六話 再びの決意
シンシアは一度、イシデムまで退く事を選び
再び、鍛錬所を訪れた。
先の戦い。
一行は精霊王アーガハイドに完全敗北した。
ロードは足をへし折られ、
シンシアは一度腕と足を断たれ、
他の者は敵の軍勢に手も足も出せず、
終いには、朔桜は連れ去られてしまった。
ロードをベッドに寝かせ、
リクーナはその世話。
ノアは心配してずっと側に付いている。
シンシア、レオ、キーフ、キリエの四人は
ポテに事情を説明した。
「皆、嘘偽りを言っている顔ではない。あのロードも現にこの有様。
では、本当にあの精霊王が……この世界に復活したのですか……」
神妙な面持ちでポテは顔を突き合わせる。
その場には側近イツツとヒシメ。
二人も居合わせて話を聞いてもらった次第だ。
「言い伝えでは、全ての精霊、精霊獣を使役でき、
この世界を統べた者なんて書いてありましたが……本当なのでしょうか?」
ヒシメはいまいち緊張感がない様子。
それもそうだろう。
伝説の夢物語に近い存在が復活したなんて言われても
すぐに実感なんてできない。
しかし、それとは対照的にイツツは身を震わせ怯えていた。
「本当よ。実際、私たちの前に三千近くの精霊、精霊獣が立ち塞がったわ。
でも彼らも操られているだけ。精霊王さえ倒せば普通の精霊、精霊獣に戻る」
「して、奴をもう一度倒す術はありますのか?」
ポテがシンシアの碧眼を真っ直ぐ見る。
シンシアは嘘偽りなく素直に答えた。
「あるわ」
一同、シンシアに視線を集める。
「街を消し飛ばす程強力だから、都民や朔桜を無事に逃がしてくれさえすれば
気兼ねなく放てるんだけど……」
タイミング良く、襖がガタガタと揺れる。
「あれ? 開かない。出ていくチャンスだったのに、たてつけ悪いなぁこれ!」
襖の反対で独り言を言いながら襖を上手くハメて滑らせる。
「こほん! 朔ちゃんはノアが助けるよ!」
上手く決まっていないが、みんなそれはスルーした。
「朔ちゃんに連絡してみたんだけど応答が無かった……。
ノアの【変身】とか
【最高の親友】とか朔ちゃんを助けるには
うってつけだと思うよ!」
「確かに、ノアの力は必要不可欠。
本当はロードが居ればもっと心強かったけどね……」
「俺も行きます!!」
レオが手を挙げるとシンシアは首を振った。
「気持ちだけ受け取るわ」
「どうしてですか!? 俺だって強く――――」
「あの域で戦えるの?」
その言葉にレオは返す言葉を失う。
「私の本気のエナジード見て、感じたわよね?
あの域の上級精霊術も全くの無傷ときたわ。
そして容易に手足を断たれ、成す術もなく殺されかけた。
貴方はあの怪物相手に何かできる事はあるの?」
「…………」
「ごめんなさい。少し強い物言いだったわね……」
「いいえ、それだけ俺の身を案じてくれているって事ですよね。
伝わってますよ、シンシアさんの優しさ」
両手で自分の前にある背の低い机を叩く。
「でも!! どうしても役に立ちたいんです!!
……仲間を攫われて、何も出来なかった自分が許せないです!!
だからもう一度自分を許すチャンスをください!!」
レオは机に額を叩き付ける。
「…………気持ちと力は必ずしも重なるとは限らない。
命を落とした仲間の言葉よ。これだけは肝に銘じておいて……」
「という事は……?」
「どうか、私に力を貸して。レオ」
シンシアはレオに手を差し伸べレオはそれを快く取った。
「貴方たちは?」
キーフ、キリエに視線を移す。
答えはもちろん分かってはいた。
「聞く必要があるか? 相棒が行くなら」
「もちろん行きます。。。」
みんなの志は一つに固まった。
朔桜を助け、精霊王を倒して精霊界に再びの平和を。
「皆、今日は気疲れしておるであろう。
熱い湯に入ってもう休むといい」
ポテの心遣いでその日、一同は心と身体を休める事ができた。
次の日の朝。
イシデムの外れであるこの鍛錬所まで知らせが届いた。
イツツが大声で長い廊下をドンドンと騒がしく駆ける。
「大変!! 大変です!!」
「何事じゃ、イツツ」
イツツは乱れた息を整える。
「スネピハが……スネピハが……」
イツツの焦りように一同が集まった。
「落ち着いて話すんじゃ、イツツ一体、何があった?」
「水都市スネピハが!! たった一夜にして陥落しました!!」




