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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
四章 輪廻凱旋! 都市奪還作戦
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二話 みんなの平和VS一人の平和

消し飛んだ風景を見て

男は小さく呟いた。


「つまらぬ」


唐突に手を突き出し、精霊術を唱える。


「アースドファン」


大地は突如としてめくれ上がり、巨大な薔薇のように地面が開いていく。


「うわぁぁぁぁ!!」


馬車全体をキリエの地の精霊術で包み、地面の中に潜んでいたが

無理やり地上に引きずり出されてしまった。

馬車にしがみ着いていたレオは落ちそうになっている。


「消えよ」


薔薇の大地で馬車が身動き出来ない最中(さなか)にも

容赦なく先程周囲を消し飛ばした光が男の手から放たれる。


「ロード、馬車とみんなは頼むわね!」


シンシアは馬車から飛び出すと同時に、矢を番えて放つ。


「アルタイル!」


煌びやかに輝いた矢は、光を吸収するかのように捻じ曲げ、一直線に男の胸に突き刺さった。


「おお!! やったか!?」


「いや、まだだ!」


レオの喜びに被せるように、真剣な声色のロードが警戒促す。

シンシアは自慢の運動力で男の前に綺麗に着地。相手の様子を窺う。


「この力……。それにこの矢……。そうか、()()()エルフだなったな……」


深く刺さった矢を何事も無かったかのように引き抜いた男は、笑っていた。


「そうか、そうか。運命とは数奇なものよ。

まさかこのようなところで、我が命を奪いし、愚か者と相まみえようとはな。シンシア」


「……その光の力。間違いないなく……本物の精霊王アーガハイドみたいね……」


男は静かに笑う。


「無論。我は正真正銘、この精霊界を統べた唯一無二の精霊王である」


「ありえない!! 居るはずがない!! 

貴方は私がこの手で倒したはず!! エナになる瞬間もしっかりとこの目で見た!」


シンシアは額に汗を浮かべ、目の前の出来事を必死に否定し叫ぶ。

認めたくない。認める訳にはいけないという強い気迫を感じる。


「そうだ……。我は千二百年前、お前に()()()()()()


「じゃあ何故、貴方は私の前に立っているのよっ!!」


いつもの余裕は無く声を荒らげるシンシア。

対照的に男は冷静だ。


「些細な事よ。この世界は我のモノ。所有物。

故に、死しても我が望む限り、幾度となくこの世界に転生する。居場所に還る。それが答えだ」


その言葉を聞き、膝から崩れ落ちた。


「そんな……能力……? 

じゃあ、何度倒しても貴方は生き返り、この世界の……平和を乱すというの……?」


「平和? その定義は王である我が決める。

我が能力で従わぬ、精霊人という種族はこの世界には不要だ。

この精霊界は、従順に従う精霊と精霊獣がいればよい」


「そんなのは世界の正しい在り方じゃない!!

それはもう貴方一人の身勝手な平和だわ!」


シンシアは今まで見た事のない険しい表情で精霊王を睨みつける。


「そう。我が望むのは、その一人の平和で違いない。

()()()我は少々考えが甘かった。

異物を餌として有効に利用しようなどと、浅い考えだ。

その結果、エルフの少女如きに消し去られる事になったのだ」


語尾に力がなくなり、数秒の間が空き、突如力強い声が響く。


「だが! 王とて、ミスはする。 王を支えるのは、次の王! 我を支えるのは、次の我!

全精霊人と従わぬ精霊、精霊獣という異物を淘汰されたのち、訪れるのが……()()()()だ」


シンシアはその発言に返す言葉を失う。

それは呆れなのか、絶望なのか、はたまた恐怖なのか分からない。

だが、一つの確証があった。

それは、世界で一番大切な少年と交わした“この世界を平和にする”という約束。

その正しい意味での平和のため、シンシアは再び決意を固くした。


「貴方が何回、何百回、何千回と生き返ろうと、私が生きている限り何度だって倒してみせる。

私が死んでもその意志を引き継いだ者が幾度となく貴方を倒す。貴方の中の平和が崩れるまで。

私たちの望む正しい意味での平和のために!」


その言葉に精霊王は静かに笑う。


「片方の視野で正しいなどとよくも口に出せる……。

ならば、どちらの平和が正しいか証明させよう。

この広大な精霊界の精霊王か。薄暗いちっぽけな森のエルフの女王かをな!」


アーガハイドは押さえていた力を解放。

大地を震わせ、空気を揺らす。

隠れていた小動物は一斉に逃げ出す。


「おいっ……なんだ、あのエナの量……。俺もより遥かに……」


「ロード! 早くみんなを連れてここから去りなさい!

今からここは……地図から消える事になるわ」


「地図から消えるって……おい、シンシア……なんだそのエナ」


シンシアからも周囲を脅かす程の膨大なエナが溢れていた。

ロードは驚きを隠しきれない。

シンシアはロードにすら見抜かれない程上手く、自分のエナを抑えて隠していた。


「確かに。俺らが居たら邪魔みたいだな」


ロードは馬車を風壁―球で包み、地の薔薇から脱出。後方に下がっていく。


「シンシア! それは前哨戦(ぜんしょうせん)だ。まだ、本番が残ってる。……死ぬなよ」


ロードの明確な激励。


シンシアは優しく微笑んだ顔で振り返り、全員の顔を一人一人しっかりと見る。


「任せて!」


背を向けたまま、大きく手を振る。


そして、小さく呟いた。


「さようなら、みんな」

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