五十三話 鍛錬完了
一方、朔桜、ノア、シンシア、キリエはヒシメ指導のもと精神集中のため滝行をする事に。
「えと……滝行ってやった事無いんですけど、凍え死んだりしませんか?」
滝に打たれる前、既に朔桜の顔は不安で真っ青だ。
「う~ん。多分、大丈夫だと思うけど……」
「最初は、意識飛んじゃうかも。。。」
シンシアとキリエの表情は芳しくない。
「ノアが先に入って温度調べてきてあげるね!」
ノアが先陣を切り滝に打たれる。
「朔ちゃん! 水温ね、5度!」
「ひいぃぃぃ」
その情報を聞いて寝起き低体温の朔桜は腰が引ける。
「……あの、パスって何回使えますか……?」
手を挙げ発言権を確保し、ダメもとで恐る恐るヒシメに聞く。
「言葉の意味は分かりませんが、拒否権はありません。
一日一回。今日から一週間、毎朝入っていただきます」
涼しい表情で退路を断たれた。
「あ~~なるほど……でもっ……あ~~……よし! 私が戦えるようになるためだっ!」
細かい水の飛沫が舞うマイナスイオン全開の中に
ザバザバと水温5度の水の中へ駆けていく。
叫び声をあげながらもノアの隣で滝に打たれる。
体感温度は0度に近い。
水の衝撃も並のものではない。
「あら、無理だと泣きわめくと思っていましたが、意外と根性があるみたいですね」
「あの子、ああ見えてなかなかに大物よ」
「もし泣いていたら滝行は無しで良かったんですか。。。?」
少し期待した声色でキリエは問う。
「まさか、無理やり滝に投げ込んでいましたわ」
それを聞いてシンシアとキリエは落胆。
渋々、滝に打たれに冷たい水の中に入った。
四人は横一列に並び、滝の下で目を閉じる。
「(では、皆さん。私の言葉は聞こえていますか?
聞こえている場合は、右手を挙げてください)」
全員手を挙げる。
「(これは口からの言語ではありません。
私の能力《思念》の念波で皆さんの脳に直接語り掛けています。
今から私の言う通りにしてください。私が絶対です。いいですね?
ん? 誰かから嫌だという思念が感じますね。いいから従順に従ってください。
いいですね? 絶対ですよ? 全員が従わないと終わりませんからね?
ん? 誰ですか? 今早く始めろと思った人は?
もう一度挙手してください。じゃないと始まりませんよ?
なるほど。全員手を挙げましたね。全員早くしろと思っていますね。結構、結構。
では、そろそろ本当に始めるとしましょうか。ヒシメの精神鍛錬開始です。 )」
かくして一行は各々の底上げを目指すのであった。
――――鍛錬開始から一週間。
月日はあっという間に過ぎ去った。
全員の表情は明るい。各々、手ごたえを感じている様子。
ロード一行は鍛錬場の大門の前に一列に整列。
三人と向き合い、別れの挨拶をする。
「ロード、お主に教える事はもう何も無い」
「ありがとよ。師匠。あんたのおかげで、もうあいつに後れを取る気がしねぇ」
右手を開いては握り開いては握りを繰り返し、不敵な笑みを浮かべる。
その余裕そうな姿を見てポテは満足そうに笑う。
「ほっほっほ! それは良かった。弟子たちを頼んだぞ」
「問題ないですよ、師匠! 俺らも強くなりましたから!」
レオは自分の胸を力強く叩いた。
鍛錬初日よりも明らかに腕に筋肉が付いている。
身も更に引き締まり身軽そうな佇まいだ。
「レオさん、キーフさん本当にお疲れさまでした!」
「イツツもありがとうな!」
「世話になった」
「ここで皆さんのお帰りをお待ちしてますよ」
「貴女たちは本当に成長したわ。私は鼻が高い。そしてスタイルも良いし、顔も良い」
「ヒシメさん本当にありがとうございました!!」
「ノア楽しかった~!」
「私もとても良い鍛錬になったわ」
「お世話になりました。。。」
女性陣は自画自賛するヒシメを気にも留めない
強靭なメンタルを手に入れたみたいだ。
皆、各指導者に感謝と別れの挨拶を済ませ、鍛錬場を後にする。
全員、自分の事で精一杯だった事もあり
互いがどれだけスキルアップしているかはまだ知らない。
「お前ら強くなったのか?」
「もちろん! 私、凄いよ? ロードよりも強くなっちゃったかも!」
朔桜は背中を反らせ、胸を張る。
「ふん、言ってろ。他の奴らも随分と自信あり気な表情だな」
ロードが全員の顔を見渡すと、全員手ごたえを感じた面持ち。
次の戦いは期待できるはず。
そう確信し、馬車を走らせたのだった。
~多種多様精霊界巡会記編 完結~




