五十話 戦闘訓練
俺は目隠しをして山奥の平地に立つ。
「…………」
正面から一直線で迫り来るのは、足数の多い小幅な足音。
これは最大威力で当たるように、俺との間合いを図っているのだろう。
拳技が得意なレオの足音だな。
「うぉらぁ!」
レオの拳の風の流れを読み取り、片手で軽く弾く。
「うわっ!」
そして、足数少なく背後から一気迫って来たのは、キーフだな。
音で気取られないよう空中に飛んで蹴りを繰り出すつもりか。だが甘い。
「殺気が駄々洩れだ」
背後のキーフの勢いある蹴りを片手で掴み、そのまま放り投げた。
「くっ!」
その後も続けたが、二人はまるで俺の訓練の相手にはならないな。
目隠しを取ると、二人はへばって地面に座り込んでいた。
あまりの情けなさに溜息が漏れる。
「ダメだ。お前たちじゃ全く体術の練習にならん!」
あまりの不甲斐なさに一喝する。
そして、個々の弱点を指摘した。
「レオ、お前は攻める前の動きに芯が無い。
迷いながら攻めるな。地形や周囲の物を利用して最適解を一瞬で見抜きそれに突き進んで動け。
それがダメな時は一度体制を立て直し柔軟に別の方法を考え直せ」
「はい!」
「次にキーフ、お前は逆に芯がありすぎる。
明らかに無理な手もゴリ押そうとする気合がある。
同格相手ならそれもいいが、格上相手じゃそれは一切通用しない。
いいか? お前の蹴りは一撃必殺じゃないんだ。
攻撃を受けず、何回蹴りを当てられるかを考えろ」
「分かった」
「この程度でこのザマとは……この先が思いやられる……」
「あはは~逆に俺らの修行になっちゃってますね」
「全くだ。どこかに体術が強い相手はいないもんか……」
俺が不満を漏らすとキーフは突然
何かを思い出したかのように視線をこっちに向ける。
「そうだ。なら、俺らの師匠と手合わせするか?」
「師匠?」
「俺やレオの戦いの師匠だ。拳も蹴りもどちらも俺らより上だ」
「確かに! 師匠ならロードさんのいい手合わせ相手になるかもしれないっすよ!」
二人の師匠か。こいつらよりはある程度いい練習相手になるかもしれない。
だが問題は場所だ。ここから遠いならば、寄っている時間は無いが。
「ここからは近いのか?」
「今滞在しているキジュ村と次に寄る都市スネピハの手前の町。イシデムにおられる」
目的の“戻りの森”に向う進路の途中にある町か。
それなら進行に支障はないだろう。
「なら、明日にでもお前らの師匠とやらに手合わせしてもらおうか」
「師匠は強いぞ。体術なら……おそらく、あんたより」
その言葉に心揺さぶられる。
「面白い。それぐらいの相手じゃないと鍛錬の意味がない」
カシャとかいう変態ペンギンの体術はかなり強かった。
あのレベル相手に苦戦しない程の実力を最低限付けておきたい。
「よしっ! じゃあ、今日は終わりでいいっすか!?」
前のめりになるレオを俺は甘やかす気はない。
「さあ、立て。続きをやるぞ」
「そんなぁ!」
レオを無理やり立ち上がらせ、俺たちは鍛錬を丸一日続けたのだった。




