四十八話 八人の輪
ノアが泣き止んだ頃には、シンシアの熱も冷め
みんな冷静になった時を見計らい、ロードはこれからの目的を告げる。
「まず俺たちの今後の目的は精霊神が封印させている
“戻りの森”に行って
一か月後の日食より前にあの影とメサ・イングレイザを倒す事だ」
一同は深く頷く。
「だが、それには奴らを絶対に倒せるほどに強くなる必要がある」
「そんなに強いんすか?」
「今の俺らでは正直勝てるかどうか怪しいレベルだ。
それに戦力を増員してきたら先程よりも厳しい戦いになるだろう。
そして、長引けば最悪封印を解かれ、精霊神とやらと戦う羽目になる」
「それだけは絶対に避けなければいけないわ」
「そのためにも、一人一人の戦力増強を提案する。
旅の途中で忘れ形見とやらを狩り尽くし、エナ値を増強。
そうすれば民も平穏に過ごす事もできよう」
「確かに。一石二鳥だな」
キーフもいい案だと頷く。
「レオとキーフは俺と体術の強化にも付き合ってもらう」
「了解っす」
「任せろ」
二人は張り切っている様子だ。
「シンシアは経路の計算だ。
毎晩、進捗状況を確認して日食までの日数を合わせろ。
修行していて間に合わなかった、じゃあ話にならんからな。
それと並行してキリエの精霊術の強化だ。
地属性は足止めや範囲攻撃に適している。
上手く扱えばかなり優秀なサポートになるはずだ」
「分かったわ。頑張りましょ、キリエ」
「はいっ。。。!」
「リクーナは雑務を一通り覚えておけ。
買い出しや馬車周り、野営の仕事をメインにやってもらう」
「かしこまりました。ご主人様」
「ノア、お前は戦闘において相手を軽視しすぎだ。
雑魚を瞬殺するのは結構だが、エナの量を測れない分
想定以上の力、能力を持つ場合を考えて力を配分を考えろ。
永久の電力が無いお前は、以前ほど強くないんだ」
「はぁーい」
「最後に、お前たちも気になっているだろう朔桜のこの宝具の話をしよう」
「宝具って言っちゃった!? 前に言うなって怒ったくせにっ!」
「こんな膨大な量のエナが詰まった代物、ただのペンダントなんて誤魔化せる訳ないだろ。
結界が解かれた今、このバカでかい量のエナが周囲に筒抜けだ。
それを求め、群がる輩も現れる事だろう」
「ロードが結界を張ってよ!」
「すでに気休め程度には張ってある。
それでも俺の結界は不完全なモノだ。張ったところで気づく奴は気づく。
そこで、だ。幸いこいつらには恩を売ってある。ここで恩を返してもらうとしよう」
「俺らっすか?」
レオは自分を指差し、間の抜けた顔を晒す。
「ああ、こいつに何度も治癒されたよな? その見返りに朔桜を守れ。
これを奪おうなんて、浅い考えはやめておけよ」
一応、念のために釘を刺しておくロード。
だが、返答はあっけないものだった。
「え? 守るなんて当然じゃないっすか。仲間だし」
「奪う? 浅い考えなのは、お前だ。あまり俺らを見くびるな」
「朔桜ちゃんも宝具も守ってみせます。。。」
迷いも偽りも一切無い心強い言葉。
シンシアはロードの警戒しすぎな態度と三人の返事の温度差に笑い出す。
「どうやら杞憂だったようね」
「どうだかな。欺くための可能性だってある」
「……貴方はどうしてそこまでひねくれているの?」
溜息をつき、呆れたジト目でロードを見る。
シンシアとロードの考えや行動は真反対に等しい。
「さあな、育ちの問題だろ。
魔界では裏切りなんて日常茶飯事だからな。
王族なんて毎日気を張らねばならん。
拉致に暗殺、使用人に化けて寝首を搔こうとする奴もゴロゴロいた。
気を抜けば死ぬ世界だ。バカ程に慎重にもなるさ」
ロードの言葉に珍しくシンシアも同意した。
「あぁ……それは私も分かる気がするわ。
王室は居心地悪いし、息苦しい。嫌な視線に殺意、そんなのが渦巻いていた。
そんな時、カウルが私を外の世界に連れ出してくれた。広い世界を教えてくれたの」
「そういう相手は大切だな。見分を大きく広めるために一度城を出る体験は自分の大きな糧になる。
俺も風国に留学した時――――――」
王族談話に意気投合し、ロードとシンシアは二人だけで話始めてしまった。
熱中して本題から完全に脱線している。
「えっと……で、なんの話だっけ?」
レオが話を戻す。
「あぁ、私のこのペンダントはお母さんの形見なの。
宝具【雷電池】ってモノで
エナを吸収して貯蔵しておく事ができるらしいです。
私の意志以外で他の人は触れる事ができないけど、
これでエナを回復させたり、傷を治療したりできるの」
三人はその力におぉ~と声を出す。
「なるほどね。。。だから怪我も一瞬で治せちゃったんだ。。。」
キリエは目を見開き、胸元の宝具をマジマジと見る。
「黙っていてごめんなさい」
「いや、黙っているのが当然だ。他の奴に知られれば、狙う奴もいるだろうしな」
「それを教えてくれたって事は、ロードさんは俺らを信用してくれたって事っすよね?」
「た、たぶんっ!」
「じゃあ、誠意で返させてもらいます!」
王族談話を終えたロードが会話に加わる。
「話したからには当然だ。この際だ、俺たちの事も共有しておく」
全員は円になり話を聞く。
・ロード、朔桜、ノアの三人が人間界から門を通り影を追って来た事。
・ロードが魔人という事。
・ノアが人工宝具という事。
全て包み隠さず話した。
一同は世界の広さに驚きつつも、ロードたちの強さの理由に納得する。
一晩で皆の信頼関係は、強固なモノへと変わっていった。




