四十五話 思わぬ強敵
仲間たちは無事に“金有場”の刺客たちを退ける。
そんな中、一番に勝ってしまいそうなロードは
未だにカシャと激戦を繰り広げていた。
カシャの能力《泣きの一回》はすでに発動させた。
もう一回殺せば、生き返る事はない。だが、その一回が殺せない。
カシャはロードとの距離を離さないように接近して猛攻を繰り出す。
一度距離を放して魔術を放ちたいロードだが、放つ隙が見当たらない。
「どうした! 疲れが見えるゾ! さては日常的に鍛えていないな?」
「俺はこんな暑苦しい戦い方は好きじゃないんでねっ!」
フラフラになりながらも範囲的に紫雷を放つ。
カシャは一度距離を取り、それをかわすも
すぐさま地面を蹴り、ロードに突っ込む。
「風壁!」
「マカロニタックル!」
カシャは風壁を容易く破り、一直線にロードへ迫る。
それを見越して地の魔術で直線上に尖った岩を配置。
しかし、カシャはそれを見ても勢いを落とさない。
「笑止!」
岩をもろともせず、己の筋肉の鎧で無理やり突破。
ロードは雷光を唱え、電光石火の如く加速して距離を取ろうとするも
動きを読まれ、腕を掴まれる。
そして、勢いよく地面に叩き付けられた。
背中から地面に打ちつけられ、全身に激痛が走る。
強い衝撃で横隔膜が麻痺して呼吸ができない。
その隙をついてカシャは、上から覆いかぶさるような体制で拳を打つ。
「コウテイパンチ!」
岩をも砕く強烈な一撃。
頭に当たれば、頭蓋骨も容易に砕くだろう。
しかし、ロードは守りに徹せず、ウインクするように咄嗟に左目を瞑った。
再び開かれた左目は、紫陽花のように綺麗な紫、水色、ピンク混ざりあった三色の眼へと変化。
同時に拳は振り下ろされる。
拳の衝撃で土埃が舞う中、ロードは健在。
額に手を置き、カシャの拳を握っていた。
「あのタイミングで私の拳を受け止めるなんて」
「その汗ばんだ臭い手を退けろ」
ロードの能力《無常の眼》により
身体能力、魔力、魔力値は通常の二倍。
更に雷狂で肉体を強化してカシャの拳を強く握る。
「ぐっ!!」
常識を逸脱した握力に驚き、カシャは身の危険を感じて
咄嗟に手を振り払い、後方に自ら退いた。
「しまっ―――」
「消え果てろ、筋肉ペンギン」
自分から距離を空けてしまったミスを悟った瞬間
高密度高電力の紅雷がカシャを灼く。
真っ黒に焦げたカシャはその場で炭へと化した。
「なかなか強かったぞ、お前」
ロードは小さな電撃でその炭を破壊。
瞳を閉じて、無常の眼を解除した。
消費した分のエナを吸収しようと
カシャの炭がエナになるのを待つが、一向に炭はエナに変わる気配がない。
「おい、まさかっ……!」
異変に気が付き炭を確認するも、それは生き物の炭ではなかった。
まごう事なきただの木。
人の形を模倣した丸太だ。
「あの筋肉ペンギン……やってくれたな」
ロードはまんまと一杯食わされた。
カシャは紅雷で灼れる前に
何らかの手段でその身を入れ替え死を間逃れたのだ。
周囲にはカシャのエナを感じる事は出来なかった。
どこか遠くに逃げたのだろう。
「はぁ……もう二度と会いたくねえな……」
ロードは切実な愚痴を小声で漏らしたのだった。




