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W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
三章 多種多様精霊界巡会記
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四十四話 奪う覚悟の代償

メティニと名乗る赤茶髪のツインテール少女は自分を“金有場(カナリバ)”だと言った。

“金有場”はお金さえ払われれば盗みも、殺しも、平気でする雇われ集団。

その規模は年々広がり、厄介な能力を持つ手練れも増えてると聞く。

あの王都リフィンデルでも“金有場”には手を焼いているそうだ。


「貴女の雇い主は誰かしら?」


「さあ、顔も姿も見た事ない。

そもそもアレは精霊人なのか、精霊なのか、精霊獣なのかも判断できない」


「じゃあ、貴女の狙いは何かしら?」


「私たちの目的は邪魔者の排除なんだけどね。いいモノ見つけちゃったから少しおサボり」


「別に私は高価なモノは持っていないわよ? 食事なんて毎日パンと果実水だし」


「そうなの? じゃあ、可哀想だから

その弓と指輪だけ置いて行ってくれれば、命は取らないであげるけど」


適格に貴重なモノだけを指名してきた。

流石、“金有場”という訳ね。目が肥えている。


「どうしたの? 命は惜しくないの?」


「ごめんなさい。この二つは命と同じくらい大切なモノなの。金の亡者に渡す訳にはいかないわ」


「そ。じゃあ、大切なモノも、命も全部……貰うね」


メティニは両手から合わせて八本のダガーを飛ばす。

おそらく、全部真っ直ぐには飛んでは来ないだろう。

注視するのはダガーの動きではない。

メティニの手の動きだ。

ダガーは彼女の指が動く方向へ従って動く。

先程、私の放った矢も指を向けた方向に進んで行った。

彼女の能力は、指の動きに合わせて物体を動かせる能力だろう。

指とダガーがリンクしているのを見極める。

八本のダガーの軌道を読み、四方八方から襲い掛かるダガーを並外れた動体視力で全てかわしきる。


「あれを全部かわすんだ……。でも、次は外さない」


メティニはダガーの動きをうまく調整。

横一列に並べ指の隙間隙間で全部キャッチする。

私はその隙を見逃さない。


「星槍!」


一線の矢を放つも、メティニは片手のダガーを素早く地面に投げ刺し、指で私の矢を操ろうとする。


「崩し!」


直後、矢を爆発させ、彼女の視界を遮った。


「くっ! 小賢しい!」


彼女は一度後方へ退くと、私を見える位置へと移動する。


「貴女の能力は私が見える位置ではないといけないのかしら?

それとも操る対象を見ていないといけないのかしら?」


私が質問すると彼女は一段声のトーンを落とす。


「ああ、気づいたんだ。私の能力《指定方向(ディズイグネイション)》に」


「あれだけ不可解に指を動かしていたら誰でも怪しいと思うわ」


「そうよね。不便なの、私の能力。

視界に入る等速直線で動くモノを指の動きに合わせて同速度で操る。

意外と地味な能力だけど、殺しには重宝するのよ」


「そう。じゃあ、今日でその力に頼るのは最後にしましょう」


私の言葉に首を傾ける。


「何を言っているの? これからも使い続けるに決まっているじゃない。

こんな金になる能力他にないわ。殺して、殺して、殺して、殺して、お金を稼ぐのよ」


「貴女が他人の命を犠牲にしてまでも、お金を望む理由は、一体何?」


メティニは(うつむ)き、乱暴にダガーを投げ捨てた。

さっきまで殺しを楽しんで来た雰囲気ではない。

静かな怒り、苛立ちを感じる。


「そんなものは決まっているじゃない! 生きるためよ!!」


「生きる……ため……?」


彼女の冷酷な表情は崩れ、悲壮な表情へと変わる。


「貧しい身分で生まれ、同世代の友人たちが貴族に身体を売り

殴られても媚びて金を得る中、この能力が唯一私にあった生きる手段。

それがこの殺しの才能。殺しとは私の生きる手段なの」


「そんなの……」


「間違っているだなんて言わせない! 貴女はあの生活を知らない。

毎日、毎日、村の誰かが飢えで死んでいく。

出稼ぎに身体を売りに行った親友は、死んで冷たい姿で帰ってくる。

一つの水瓶で争い、実の家族が殺し合う。

そんないつ死ぬか、いつ殺されるかも分からない

絶望の生活を毎日、毎日、毎日、毎日送ってみろ!

気が狂い、命の価値が分からなくなる。

私たちが泣いている瞬間にも誰かは笑い、私たちが飢えてる瞬間にも満たされている。

そんなの理不尽だ。不平等だ。

私はもう奪われる側じゃない。奪う側だ!

他人を殺し、貪り、糧とする。それがこの世界の姿だろう。違うか、異形種!!」


確かに今の精霊界は、一度“精霊女王の忘れ形見”や

精霊獣、盗賊に襲われてしまった村は一気に貧困に陥ってしまう。

そこから復興する事は、そこの村の者達だけでは困難なのが現状だ。


「貴女の価値観は間違っていないわ。

精霊女王と精霊王のせいでこの世界のバランスは崩れ、貧困の格差は広がってしまった。

今のこの世界は“奪う者”と“奪われる者”がいる」


「そうだ! だから私は間違っていない! 間違っていないんだ!」


彼女は自分に言い聞かせている。

自分の間違いを間違いでないと。


「私もかつて全てを支配する奪う者に抗い、自由の権利を取り戻した」


「なぁんだ。貴女も同族じゃない」


「でも、私はその代償として一番大事なモノを失ったわ……。

あの時、私がもう少し強ければ。

あの時、私がもう少し立っていれば。

あの時、私が彼を止めていれば……。

そんな後悔を引きずったまま、千二百年の時を過ごしてきた。

これが奪う覚悟の代償よ」


「私にも代償が降りかかるという事かしら?」


「そう。物語には必ず終わりが来る。貴女の終わりはここよ、メティニ」


「あはは! 面白いわっ! どっちが奪われて、どっちが奪うのか、はっきりさせましょうか!」


メティニは五十を越えるダガーをどこからともなく取り出し、周囲に無造作に投げる。

それを視界に捉え能力で操り、全てのダガーが私の心臓を狙う。


「これが代償よ」


一斉に襲い掛かる無数のダガー。

私は焦らず、冷静に精神を研ぎ澄ます。

母天体に一本の矢を番え解き放つ。


星々は世界を渡る(スターゲートワン)


放たれた矢は、この世界を去り、異空間へと消える。

そして、時間、距離をも凌駕し、メティニの胸元に一撃を与えた。

仰向けに倒れたメティニの視界からダガーが消えた事により

運動力は消え、私の眼前で地面へと落ちた。


「その力は人を殺さず、人を助けるために使うという選択肢もあったのよ、メティニ。

荒みのあまり奪うモノへの復讐心に溺れ、それに気がつけなかったのが貴女の敗因よ。

これからの貴女の物語はバットエンドじゃなくハッピーエンドであるといいわね」


倒れたメティニは憑き物が落ちたように安らかに笑ってみえた。

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