四十三話 キーフ&レオVSヌエ
ノアとキリエのピンチに正義のヒーローのように
駆けつけたのはキリエの自慢の兄キーフ。
「ばかな!《視電奪霧》の中に入って来ただと!?」
「俺の相棒が根性でこじ開けてくれたんだ」
「それって。。。」
視界の悪い霧の中から人影が現れ、キリエの前に立って手を差し伸べる。
「よく頑張ったな。もう大丈夫だ、キリエ」
「レオ。。。」
手を取ろうとするも、その手は寸前のところで地面に落ちる。
《視電奪霧》の中に長時間居た事で
身体の電気が奪われていたうえ
黒い槍が腹部に刺さった傷からの出血で
とっくにキリエの身体は限界だった。
「キリエ! おい! しっかりしろ!
腹、怪我してんのか!? キーフ手当を!」
「お前が手当してやってくれ!
俺はこいつに落とし前付けてもらわなきゃならねぇ!」
キーフはヌエから目を離さずに対峙している。
レオたちの方まで伝わる熱気。
キーフは妹を傷つけられ、相当キレている様子だ。
「分かった! そいつは任せたぞ、相棒!」
レオが叫ぶとキーフは背を向けたまま親指を立てた。
「悪いなキリエ、腹……見るぞ?」
血に染まった水色のベールを破り、スカートをずらして傷を看る。
「貫通してないな。とにかくこれ引き抜くぞ。くそ痛いだろうから先に気絶しとくか?」
レオは拳を掲げるが、キリエはそれを断った。
「私より先にノアちゃんを看てあげて。。。」
キリエはノアの倒れている方を霞んだ目で見る。
「ダメだ。個人的な私情で悪いが、まずはお前の方を先に看させてくれ。
ノアちゃんには後でちゃんと謝るから」
キリエを会話に集中させている最中に黒い槍を一気に引き抜く。
投げ捨てた黒い小槍は砂鉄の塊。
腹部から抜くと崩れるように砂と化す。
「レオ……。。。っ。。。!
痛たたたたたた。。。。!!!
抜くなら抜くって言って。。。!!!」
「悪い! でも全部引き抜けたし、包帯巻いとくから安静にしてろ。
ノアちゃんも拾って手当するから」
レオはキリエを手当した後、こっそりとノアを回収して頭部の怪我を手当する。
その間、キーフはヌエと激しい激闘を繰り広げていた。
ヌエは距離を保ち、空中を水平に移動しながら
ローブ越に電気の塊を大量に撃つ。
「加足!!!!!!」
キーフは能力《加足》で素早さを増し、ヌエの攻撃をかわし、
かわしきれないものは精霊脚で蹴り飛ばしていく。
どんどんと距離は詰まるが、後一歩のところで
ヌエは深い霧に呑まれ姿を消す。
「何処に行った!」
キーフの問いかけには誰も答えない。
気が付けば、レオやキリエの声もしなくなっていた。
遠くに離されたのか、音が遮断さえているのかすらも分からない。
霧は中心部、つまり霧を放っているヌエに近い程に濃くなっている。
「めんどくせぇ! 回転脚!」
片足を伸ばし、もう片方の足を軸にして回転。
コマのように回転して風を巻き起こし、霧を晴らしていく。
そうして、一時的に霧が晴れた時
濃い霧が流れてきた方向にヌエはいるという作戦だ。
「バカめ!! 隙だらけだ!」
霧の中からヌエが放った電気の衝撃波がキーフを襲う。
「どこに隙があるんだァオイ!?」
回転脚で衝撃波をかき消し、攻撃された場所に的を絞る。
「そこかっ!」
攻撃が放たれた場所に渾身の蹴りを繰り出すも
それは同等の攻撃によって打ち消された。
キーフの脚にぶつかったのは、見慣れた黒いガントレットを付けた真っ直ぐ伸びた拳。
「レオ!」
「キーフ! 居なくなったから心配したぜ……。あの野郎はもう倒したのか?」
双方とも脚と拳を収める。
「いいや、まだだ。何処かに消えた。
だが、近くに居るはずだ。そう……俺の目の前とかにな!」
再び放たれたキーフの蹴りはレオの首に直撃。
レオは吹き飛びそのまま地面を擦り滑る。
「いてえなぁ!! 何すんだよ!!」
「本物か。すまん。タイミング的に奴が化けているのかと思った」
「とりあえず蹴ってみれば分かるみたいな考えやめろ!? 死んじまうだろ!?」
「生きてたんだからいいだろ。それよりもキリエとノアが危険じゃないか?」
「たく……でも、確かに心配だ。
とにかくこの霧をどうにか晴らさなきゃ。
次は行き当たりでたまたま助けるなんて事出来ないぞ」
「それは問題ない」
キーフは先程と同じく回転脚で周囲の霧を吹き飛ばしていく。
霧が晴れたと同時に濃い霧がレオの後方の方から漂う。
「レオ! 後ろだ!!」
「もう、遅い!!」
ヌエはレオの不意を衝こうと後ろに忍び寄っていた。
「死ねぇぃ!!!」
レオの裏拳が顔面に直撃。
「うがっ……」
「不意打ちするなら静かにした方がいいぜ」
飛びかけた意識を自身の電気の力で繋ぎ合わせ
なんとか意識を保つも、時既に遅し。
「攻撃ってのはこうやって叫ぶんだ!」
レオの拳が燃える。
キーフの足が電光を迸らせる。
「精霊拳!!」
「精霊脚!!」
火の拳と雷の蹴りがヌエの顔面と背中に同時に炸裂。
ヌエは雷炎に焼かれてそのまま意識を失ったのだった。




