四十二話 キリエVSヌエ
ヌエは一瞬の出来事に驚き、声を上げる。
「オーヌ!!」
未だに何が起きたのか理解出来ていない様子。
「あはは、お仲間さん死んじゃったね。一瞬で」
「貴様! オーヌに喰われたはず! 一体何をした!?」
ノアは顎に指を添え、一生懸命言葉で説明しようと考える。
しかし、考えがなかなか纏まらない。
人工宝具のノアは完璧に説明する事は可能なのだが。
「んーと、わざと食べてもらってお腹の中でバーンって感じ」
考えたわりには、見た目相応の語彙力の低い説明。
そんな適当な説明でもヌエはその意味を読み取った。
「オーヌの内側から膨張し、《肉厚壁》を突き破ったという事か……」
「そそ、おっきいのに変身してバーンって破裂させたの。
思ったより肉が硬くて苦労したよ……って……あれ……?」
ノアはフラフラとしたまま
受け身も取らず、地面に正面から倒れた。
「ノアちゃん。。。!」
キリエが駆け寄ると同時に
オーヌの残骸はエナとなり大気に舞う。
ヌエはその瞬間を待っていたかのように、躊躇なくそのエナを吸収。
キリエが対抗して吸収し始めた頃には、もう九割は奪われた後だった。
「ふふふふふ……。あはははは!! 残念! オーヌのエナは僕が貰った!!
ああ、凄いエナジードの量だ! 流石、“金有場”の一線で活躍し続けた男だけはある」
ヌエはオーヌのエナを吸収し、エナ値を増強。
「ありがとう。ノアと言ったかな?
君のおかげで強くなれたよ。ま、もう聞こえてないか」
「聞こえているよ……。なんでだろ……身体に力が入らない……」
キリエがノアを見るとノアの意識は途切れかけていた。
「君の動力の残量でも見てみるといい」
「っ! ……どう……して? 電気がない……」
「そういう事さ。君はエナジードで動く僕らとは違うんだろう?
原理は分からないが、君の動力源は電気のようだ」
「なん……で……それを……」
「ふふ、教えてもらったのさ。とある方にね。
僕の能力《視電奪霧》はただの霧じゃない。電気を奪うのさ。
全生命は微弱な電気信号で動いている。
それを奪われると、じわじわと身体が動かなくなる。思考が回らなくなる。
身体を動かすのも、息をするのもどんどんどんどん辛くなっていくんだ。
そんな相手をこれでもかってぐらい時間をかけて嬲り殺す。それが僕の趣味さ」
「悪趣味。。。」
「生物なんてもんは千差万別。どんな趣味をしてようが間違いじゃない。
たとえ悪趣味と言われようが、僕はこの趣味に胸を張って生きていける」
男は二人との距離を一瞬で詰め、キリエの顔狙い蹴りを放つ。
「っ。。。!!」
キリエは吹き飛ばされたものの
蹴りを両腕で防ぎ、受け身を取っていた。
ヌエは高く飛び上がると倒れたノアの真上に急速落下。
鈍い音が鳴り響く。
「うぐっ……!」
ノアの苦しそうな声が漏れる。
「むふ、下半身の脊髄を折ったつもりなのに。意外と丈夫だね、君」
「ノアちゃんから離れて。。。!!」
キリエは土の小段を連続して飛ばす。
しかし、ヌエは気にも留めず、ノアを何度も何度も強く踏みつける。
「どうだい? 痛いかい? 苦しいかい?」
ノアは身体中の電気を奪われ、停止寸前。
目の光は消え、声すらまともに出ない。
オーヌの返り血に砂が張り付き砂人みたいになっている。
「もう虫の息か。つまらないなぁ」
ノアの長い髪の毛を根元から掴み、顔の前に持ち上げる。
「エナジードじゃなく、電気で動くなんて珍しいからね。頭剥がしてみてもいいかい?」
その言葉にキリエは戦慄する。
ヌエは本当にやるだろう。
なんとしても止めなければと一心不乱に精霊術を放つ。
しかし、キリエを見る素振りすら見せない。
「うわああああああぁぁぁぁぁぁぁ。。。。。!!!!!!」
全エナを使い全力の攻撃を放つ。
だが、残酷なまでに無力。
ヌエに一切のダメージは無い。
「はぁ。ちゃんと大人しくしていてくれ。
この子の次は君を嬲り殺してあげるから、さ」
その言葉の後、キリエの腹部に激痛が走る。
腹部を見るといつの間にか小さい黒い槍のようなものが数本腹部に刺さっていた。
キリエは吐血し、腹を押さえてその場に倒れ込む。
「さて、解剖を始めようか」
ヌエはノアの髪の付け根に深く鋭く尖った黒い爪を突き立てた。
めり込んだ皮膚から大量の血が流れ出す。
「御開帳」
手を引き下ろす間際
渾身の蹴りがヌエの横腹を打った。
吹き飛んで噴水に直撃。
破損した噴水から噴き出た水の中で
ヌエはぐったりと項垂れる。
「おい、てめぇ。俺の妹とその達を苛めんな」




