四十一話 ノアVSオーヌ
迫り来る大きな口。
ノアは瞬時にキリエを『雨の羽衣』で掴み
間一髪のところで一噛みをかわす。
「あっぶな!」
「ニク! ニクニクニク!!!」
大柄の男は食べれなかったのが不満なのか声を荒らげる。
「ありがとう、ノアちゃん。。。」
「どういたしまして。それにしてもこの霧、なんか嫌だな。身体が重ったるいよ……」
「視界も悪いもんね。。。一定以上彼らから離れない方が良さそう。。。
目を離したらこの霧に乗じて奇襲されるかもしれない。。。」
「あいつら見た感じ……かなりヤバそうだけどどうする? 逃げる?」
二人が相談していると黒いローブの男が話に割り込む。
「逃げる? それは無理だ。君たちはもう僕の手の中なのさ」
「どういう事。。。」
「この《視電奪霧》は霧の結界。
僕を倒さない限り、僕から逃げる事はできないよ」
「ふうん、そんな事教えちゃっていいの?
ノアは真っ先にお前の首を飛ばしに行くよ?」
「問題ない。君たちじゃ僕らは倒せないからね……。
僕は“金有場”のヌエ。特技は嬲り殺し。
そして彼は同じく“金有場”のオーヌ。特技は……残さず食べる事。かな」
「ノアはノア。それにこっちはキリちゃん」
「キリエです。。。」
「そうか。じゃあ、ノアとキリちゃん。
楽しく……殺し合おうじゃないか!」
「キリエです。。。!」
「ニクニクニクニク!! ニクニクニク!!!」
長い話に我慢しきれず、早々に飛び出したのは、大柄の男オーヌ。
頭を前に突き出し、弾丸のように一直線で二人に迫る。
「そのまま真っ二つにしてあげるよ!」
『雨の羽衣』を長く伸ばし硬化。
「壱頭両断!」
巨大な鰐オーダーゲーターすら断ち切った重い一太刀。
振り翳される一撃をオーヌは避ける事はせず
仰向けになり、丸々と太った腹で軽々と受け止めた。
「お~やるね~」
「ニク! ニクニクニクニク!!」
何事もなかったかのように回転し、オーヌは涎を垂らしながらノア目掛けて進撃。
迫り来る巨体を前にノアは焦る様子もなく冷静だ。
「そんなに食べたきゃ、食べてもいいよ」
ノアは小さい貝に変身。
そのままオーヌに丸呑みにされた。
「ノアちゃん。。。!」
食べ応えがなかったのかオーヌは不満そうな表情を浮かべてる。
「アースウォール。。。!」
キリエは喰われたノアを吐き出させようと
地の精霊術でオーヌの腹に土柱をぶつけるも微動だにしない。
そしてオーヌはキリエに目を付けた。
「ニク! ニクニクニク!!!」
大きな叫び声を上げ、キリエに飛び掛かる。
「っ。。。! これでも食らえっ。。。!」
回転した土柱がオーヌの顔面に直撃。
勢いは止まるも、オーヌの剛腕は土柱をへし折り、砕く。
ドスドスと地を踏み鳴らし、キリエの元へ迫るオーヌ。
その圧倒的な迫力にキリエは震え、怯え、動けなくなってしまった。
怯えた彼女の姿を見て、オーヌは嘲笑うかのように笑みと涎を垂らす。
大きな手が少女を掴もうとした刹那、
オーヌは自身の異変を感じ、動きをピタリと止めた。
腹部が不自然に動き、どんどん膨張していく。
「ヴッ……」
膨張したオーヌの腹部は
もとの三倍近くに膨れ上がった。
「ニ……ク……」
限界まで膨らんだ上半身は限界を迎えた風船のように一気に破裂。
血飛沫と肉塊を舞い散らせ、バラバラに吹き飛んだ。
「えっ。。。」
残った下半身から生え出るように現れた大きなシルエット。
以前、シネト村で見た三つ首の精霊獣が雄叫びを上げる。
バルスピーチの作り出したネオパンサーの結合体。
ノアが決めた個体名称ケルベロスだった。
ケルベロスは段々と縮み、少女の姿へと戻る。
残されたオーヌの下半身の上に立つのは、食べられたはずのノアの姿。
血に塗れた蒼髪が風に靡く。
「あちゃ~。服、派手に汚れちゃった。キリちゃん無事?」
悪魔のような見た目の少女は
あっけらかんとした表情でキリエに満面の笑顔を向けた。
キリエはこの時オーヌに追い詰められた恐怖を
遥かに凌駕する恐怖を感じたという。




