三十九話 ロードVSカシャ
鳥のようなシンメトリーの金製仮面で顔を隠し、深緑の髪先が揺れる。
肩から黒くて長い肩当てが真っ直ぐに伸び、手首足首には白いリング。
背には内側が真っ赤な艶のある黒いマントを付けている。
灰色と茶色のぴっちりした布で肌を隠し、鎖骨と六つに割れた腹筋を
これ見よがしに見せつけている。
「なんだこの変態は」
「はっはっは! 変態とは失礼だな! 私はカシャ! よろしくだゾ!」
暑苦しい熱血男という感じの
俺の苦手なタイプだ。
「そうか。消え果てろ、カシャ」
瞬時に放った爆雷がカシャを直撃。
防ぐ暇もなく爆散したと思われた。
しかし、カシャは無傷でその場に佇んでる。
「その程度じゃ、私は倒せないゾっ!」
足場を蹴り、猛スピードで迫って来る。
「っ! ツリーダーラ!」
周囲に散らばった木が無数の木の根となり
タコのようにカシャを身体を捕らえる。
「無駄だゾっ!」
重機すら軽々と止める根の包囲を一瞬で引きちぎり、右腕を伸ばした。
「コウテイパンチ!」
間一髪でかわしたが、拳がぶつかった地面が炸裂。
大地が吹き飛び、風穴が空く。
その一撃はもはや発破に匹敵するレベルだ。
「フンボルトキック!」
「風壁! 雷狂! 雷盾!」
続けざまの蹴りはかわすのを諦め、防御に徹底する。
風の壁と肉体強化おまけ適度に雷盾をも展開したがそれを全て貫き、軽々と吹き飛ばされる。
溜めて放たれた蹴りは圧倒的な威力。
最初に受けた攻撃はおそらくこれだろう。
「飛翔!」
中級魔術ではまるで歯が立たない。
一度空中に退き作戦を考える。
「イワトビジャンプ!」
あろう事かカシャは一足で俺と同じ高さに飛び上がり、勢いと同時に強烈な蹴りを繰り出してきた。
「油断したな?」
だが、俺はカシャの足を左肘と左膝で上手く挟んで受け止める。
右手を左腕に当て固定し、超近距離で上級魔術を放つ。
「この距離ならどうだ? 爆雷―鬼灯!!」
オレンジ色の電気の塊がカシャの身体の中心、心臓部で炸裂。
腹の筋肉を消し飛ばし、肋骨が砕け散り吹き飛ぶ。
カシャは体内の臓器をぶちまけながら落下。
おびただしい量の血が地に降り注ぎ、鈍い音をたててぐしゃりと落ちた。
それと同時に俺はこみ上げてきたものを吐く。吐血だ。
「ちっ……肋骨が二三本逝ってどっかに刺さってんなこりゃ……」
最初に食らった不意打ちで貰った一撃はかなり重かったみたいだ。
急ぎ朔桜の元に降りると気を失っている朔桜の胸元から宝具を取り出して
損傷した肋骨と魔力を勝手に回復する。
みるみる傷は治り、臓器に刺さった肋骨も元の位置に収まる。
「ふぅ……一瞬で完治しちまうなんて便利なもんだな」
「まったくだ! 便利な身体だゾ!」
あろうことか、爆散させたはずのカシャも健在だった。
「おい、嘘だろ? あの臓器をぶちまけた状況から復活したのか?」
「いや、一度死んだ!! だが、生き返った!!」
「なるほど。不死身の能力って訳か。厄介だな……」
独り言のつもりで呟いた。
「いいや、私の《泣きの一回》は厳密に言いうと一日一回死ねるだけだ!
次はほんとに死ぬゾ!」
「……それをバラしていいのか?」
「いいや、良くない!! やらかしたゾ!」
分かった。こいつバカだ。
「これで幕引きだ」
もう一度、鬼灯を放つ。
「ジェンツーチョップ!」
しかし、カシャは電撃の塊である鬼灯を手刀で両断。
そのままこちらに迫り手刀を携え、迫る。
こっちの足元で朔桜が寝ている。ここで暴れられては厄介だ。
「風爆!」
両手を後方に伸ばし、風を爆発させジェットのように
カシャに向かって飛び出す。
その勢いに乗せて蹴りを放ち、カシャの手刀とぶつかり合う。
エナの量では遥かに俺が勝っていても、肉体の強さはあっちが上。
雷狂で強化していてやっと互角というところ。
力は拮抗し、互いに一ミリも動かない。
痺れを切らし、俺が空中で旋回。
一度後方へ下がって体制を立て直す。
「多芸な少年だ。私と肉弾戦で張り合えるとは驚いた」
「お前もなかなかやる。あの影の仲間か?」
「いいや、私たちは“金有場”。言わば金で雇われた傭兵だゾ!」
「私たち……?」
「ああ、気づいていないのか。
今頃、“金有場”の同志たちが君の仲間と拳を交えているところだろう」
「ばかなそんな気配……」
周囲の気配を探る。
だが、なんらかの影響で気配を探しづらい。
奴らの仲間の能力だろう。
「こっちに集中してほしいゾ!」
不意に迫ったカシャの拳は俺が立っていた足場を砕く。
なんとかかわせたが、ほいほい食らっていいような攻撃じゃない。
負傷ならまだいい。だが、即死も十分ありえる。そんな威力だ。
「ちっ! お前の目的はなんだ?」
「雇い主の障害になる者の排除だゾ!」
「奴らはこの世界で何を企んでいる?」
「さあ? そんな事は私も聞かされていない。とにかく仕事は遂行させてもらうゾ!」
「こんの……役立たずがっ!」
俺とカシャの拳が激しくぶつかり合った。




