表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
W×Ⅱorld gate ~ダブルワールドゲート~  作者: 白鷺
三章 多種多様精霊界巡会記
102/394

三十八話 刺客たち

シンシアとリクーナの二人は、村外れの畑の方へ聞き込みに来た。

農作業をしている人の姿はなく、濃い霧だけが一面に広がっている。


「リクーナ。なにかおかしいわ。一度戻りましょう」


シンシアは違和感をすぐ察し、リクーナの手を引き踵を返す。


「逃がさない」


背後から女の(ささや)く声が聞こえた。

シンシアは自分の首に冷たく鋭い殺意を感じ

咄嗟に首の後ろで手を組み両腕で首を守る。

その瞬間、左の腕に小さなダガーが突き刺さった。


「くっ!」


リクーナを守るように抱え、姿勢低く地面を転がる。


「あはは。必死」


声は霧のから響くように聞こえ、場所が特定できない。

シンシアは背中から『母天体(マザァーム)』を手に取り

左手で握ろうとするが上手く掴めない。


「なに……手が麻痺して……まさか毒!」」


「うふふ。ダガーにガトラの毒を塗っておいたの。直に全身が麻痺して酸欠で死ぬわ」


「ガトラの毒……それならっ!」


シンシアは右手で服の下に忍ばせてあった腰袋から

小指の爪くらいの小さな球体を取り出し、歯で割って呑み込む。

そして『母天体』に弓を番え、天に向かって放つ。

一閃の矢は疾風を巻き起こし、周囲の霧を吹き飛ばす。

すると、畑の上に髪の長い少女がポツンと立っていた。

少女は位置がバレたにも関わらず、表情ひとつ変えずに分析する。


「ふうん。即効性の解毒剤。それに風の精霊術ね」


「ご明察。仕留められなくて残念だったわね」


「ううん、残念だったのは貴女の方」


その言葉の刹那、シンシアの放った弓が

自らの心臓を背後から打ち抜いた―――――――。


一方、ロードと朔桜は村の入り口周辺での聞き込みを続けていた。


「あの、すみません。この辺で“ワザワイ”と呼ばれている黒い影のようなものを見ませんでしたか?」


朔桜が切り株に座った髪と眉と髭が真っ白な老人に声をかける。


「はいぃ?」


老人は耳に手を当て首をすぼめる。


「あのー! この辺で“ワザワイ”と呼ばれている黒い影のようなものを見ませんでしたかー!」


「わさわさの蟹は川におるよぉ」


「いえ! ちがくて! “ワザワイ”と呼ばれてる影です!」


「あぁそれはどうもねぇ」


「どういたしまして……じゃなくてですね!!」


朔桜は必死に老人に話そうとするが耳がかなり遠いようで四苦八苦している。

この村は年配者が多いみたいだ。その辺を歩いている六~七割は年老いた老人。

田舎に好んで住もうとする若者が少ないのはどの世界でも同じみたいだ。


「あぁ~婆さんのご飯はおいしゅうよぉ」


「だからですね……」


「もういい。行くぞ、朔桜」


痺れを切らしたロードは(きびす)を返し、別の道へ入っていく。

朔桜は老人にお辞儀をし、その後を追う。

その後も聞き込みを続けたが、人が少ないうえ老人が多く話にならない。

この村の付近で影を見たという情報が本当にあったのかすら怪しくなってきた。

二人は飲み屋のテラス席に腰を掛ける。


「はぁ~。さっきからちっとも聞き込み進んでないよぉー。みんなも苦戦してるかな?」


「さあな。とりあえず話が通じるような若い奴を探すべきだな……」


「うん、そうだね……。あ! 若い人見つけた! そこで待ってて! 聞いてくる!」


朔桜は民家の横にたくさん並んだ(たる)の上に座っている

暗紅(あんこう)色の短髪青年を見つけて駆け寄っていく。


「あのー! すみません。少しお話いいですか?」


「これはこれは、可愛いお嬢さん。なにか御用かな?」


整った顔で優しく微笑みかける。

雰囲気の柔らかな好青年。


「可愛いだなんて~そんなそんな~~」


照れつつ赤くなった頬に手を当て身体をもじもじくねらせる。


「いやいや、本当に……ん? 君……」


青年は朔桜の顔と胸元をマジマジと見る。


「な…なんですか?」


「君……面白いパズルを二つ持ってるね。悪いけど、少し失礼するよ」


青年の掌から突然真っ黒い揚羽蝶が現れる。

揚羽蝶は手から飛び立つと朔桜の胸元までふわふわと飛ぶ。

そして弾けた。


「あれ? 消えた?」


「なるほど……隠匿の結界か。

凄い力だ。じゃあ、もう一つも」


もう一匹手から揚羽蝶を出す。

蝶は不規則な動きで朔桜の額まで飛び、弾けた。


「えっ……な……に……」


その途端、朔桜の脳は突然の負荷に反応し、意識を遮断。

朔桜は地面にバタりと倒れ込む。


「手慣らしはこれくらいでいいか……ん?

へぇ……まだ難解なパズルがあるね。これは楽しめそうだ」


右の手から現れた大量の蝶が朔桜の姿を覆い尽くす。

しかし、蝶は強力な力で吹き飛ばされ跡形も無く霧散した。


「……僕に解けないって事は……まさか……。

いや、滅多な事は言うもんじゃないか」


一人で思考する青年を突如、蒼い雷が襲う。

しかし、青年は攻撃を見ずして完全にかわしきった。


「危ないなぁ」


ロードの蒼雷は青年の脳天を狙う殺しの一撃だった。

それをいとも容易く避けたのだ。


「あれ?」


先程まで青年の前で倒れていた朔桜の姿がない。

離れたロードの手には朔桜が抱えられていた。


「あれ……? いつの間に……」


ロードは一度距離を取って青年を鋭く(にら)む。

青年から殺気や敵意は全くせず、エナの力も感じない。

なにかの宝具で隠している可能性はあるが

とにかく得体の知れない不気味な存在である事には違いなかった。


「てめえ。こいつに何をした」


ロードからは殺気と敵意が満ち溢れ

身体中から電気が(ほとばし)っている。


「悪いけど、練習台にさせてもらっただけだよ。

そんなにマジにならないで。彼女は無事さ。直に目を覚ますよ」


「何をしたかを聞いてんだよっ!!」


ロードは怒鳴り声を上げた。

青年は深い溜息をついて冷静に語る。


「あぁ、なに簡単な事だよ。解いただけさ。彼女の()()()()()()()()()()()をね」


「宝具の結界と記憶封印だと……?」


「まあ、彼女が起きれば分かる事さ……」


男は不敵に笑みを(こぼ)す。


「お前、何者だ?」


「僕はメサ。メサ・イングレイザ」


「魔人だな?」


「おっ、ご明察。よくわかったね」


「魔界の衣装はこの世界じゃ大分浮くからな」


「なるほど……っと悪いね。お話はここまでだ。もう、お迎えが来たみたいだからね」


その言葉の通り、禍々しい邪気を放ちながら

メサの背後の空間が(ひび)割れ、歪み、闇に呑まれてゆく。


「空間の……侵食!? これはまさか――――」


ロードの予想の通り呑まれた空間の狭間から

アルべリアウォカナスとの戦闘後に現れた黒い影が顕現。


「おまっ!」


「NA+・が居*!。◆」


ロードに気付くやいなや、影が先制で二人の周囲を侵食し、呑み込んでいく。


「早々に攻撃とはせっかちな奴だな!」


ロードは素早く朔桜を抱え遠くに離れる。


「まあまあ落ち着いてよ***。君がここまで彼らを呼んだんでしょ?」


メサはロードと抱えられた朔桜の顔を交互に見る。


「ああ、そうか。なるほどね……。恨む理由も分かるけどさ。

封印の場所も分かったし、今回はここらでお(いとま)しよう」


「ふざけるな。わざわざ自ら出て来た標的をみすみす逃がすと思うか?」


激しく火花を飛び散らせ威嚇する。


「悪いけど、逃がしてもらうよ。じゃあ、カシャ。後はよろしくね。

また会おう、狂雷王の息子くん」


「はっはっは! 任されたゾっ!」


メサが背を向けた瞬間、何かが物凄い速度で何かが迫る。

ロードは危険を感じ、瞬時に朔桜を放り投げた。

それと同時に護身用で張っていた風壁をいとも容易く突き破り

ロードの腹部に重く痛烈な一撃を与える。


「ぐっ……」


その衝撃で一瞬にして近くの木造家屋まで吹き飛ばされ瓦礫の山に埋まる。

影は渋々メサの言う事を聞き入れ、空間に消え去ってしまった。


「くっそっ……逃げやがったか……」


ロードは周囲の瓦礫を風の魔術で吹き飛ばし立ち上がる。


「ほう! あの一撃を受けて生きているとはなかなかやるな!」


突撃してきた男はロードの頑丈さに感心する。

目の前には、両手を腰に当て

高笑いをする筋肉モリモリのペンギン男が立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ