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9-6

 学食に来るのは久しぶりだった。

 だからかもしれない、懐かしい気分に一瞬襲われる。

 それに、隣にはエルダ、ヴェルエのお弁当の日はそんなに長くもなかったはずなのに、どこか不思議と懐かしい。

 今日はハンバーグ定食、ビフチューオム定食、クレア・スペシャルは、味付けされたチキンをカリカリに揚げてご飯の上に乗せて、その上からデミグラスソースがかかった、その名もクレア・スペシャル。

 この料理こそ、クレア・スペシャルが出来た時に初めて登場した料理だ。

 実際、マザークレアの家族たちも大好物なのだとか、という話をよく聞くメニューだ。


「俺、クレア・スペシャルにしよ。グレイス、何する?」


「クレア・スペシャル」


「……え」


 珍しい、と驚いた表情でエルダはグレイスを見る。


「たまには、エルダと同じのでも、いいかなって」


 そう言って、何事もないようにグレイスはカウンターで注文する。

 ぽかんとしていたエルダも、それに続いてカウンターで同じものを注文して、グレイスの背を追う様に、料理を受け取って席まで向かう。

 窓際の奥の席、いつもの席だ。

 着席して、グレイスに問いかける。


「……食べ切れる?」


「食べるよ。……残したら呪われちゃうから」


 アドゥンが生前口酸っぱく言っていた言葉を呟いて、二人でいただきますをして、食事を開始する。

 カリカリの味付きチキンとご飯、デミグラスソースはかなりのボリュームだが、グレイスは淡々と食事を進めて行く。

 そんな珍しいグレイスを見ながら、エルダも同じように食べる。


 ――グレイス、どうしたんだろう。


 いつもならこんなにボリュームたっぷりのクレア・スペシャルを避けるし、そもそもエルダと同じメニューを選ぶというのもいつもと違う。

 何かあったのだろうか、とエルダが考えながら食事を進めていると、不意にグレイスが口を開く。


「私、やっと気づいたんだ」


「……何を?」


「エルダの傍に、いたいんだって」


 瞬間、エルダは持っていたスプーンを落としそうになった。

 恐らくグレイスが言った事は、エルダが告白した、その答えを指すのだろう。

 けれど、唐突なタイミングで、ただただ驚くぐらいの事しか出来ない。


「ちょ、ちょっと待って、グレイス。それ、今、言う……?」


 グレイスは不思議と平然な表情をしているのに、エルダは顔が熱くなるぐらい真っ赤になっていた。

 そもそも、ここは学食で、他の生徒も食事や歓談に興じている場所なのに。


 ――このタイミング……、いや、グレイスらしいといえばらしいけど……。


 エルダはそんな事を心の中で呟きながら、心を落ち着ける。


「……何かおかしいこと、言った?」


 グレイスはエルダに問いかける。


「い、いやいやいや、おかしいことは言ってないと思う、けど……」


 少し動揺した気持ちを落ち着かせて、エルダは改めてグレイスを見る。

 グレイスの纏う空気は至って普段通りだ。


「ええ、と。それって、俺の告白を、受け取ってくれた、っていう解釈でいいのかな?」


「エルダがそういう解釈なら、そうだと思う」


 その言葉に、エルダは少し顔をしかめる。

 確かに、先ほどのグレイスの言葉ははっきりとした答えには聞こえないような気がした。

 どこか、薄ぼんやりとした、そんな感じの返答。

 そんな事を考えていると、目の前のグレイスは、クレア・スペシャルをもう食べきってしまっていた。


「……グレイス、食べきったの?」


「うん。やっぱりボリュームがあるね。食べきるの大変だった」


 ごちそうさまでした、そう言って、再度グレイスはエルダを見る。


「早く食べないと、次の授業、遅れるよ?」


「……う、うん……」


 いつものペースを崩したのはグレイスだろう、そう言い返したかったが、今のエルダにはそんな気力もなく、目の前のクレア・スペシャルを食べきることに意識を集中させるしかなかった。


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