9-5
学院に着いて、いつものように自分の席に着く。
「おはよ、グレイス」
「おはよう、エルダ」
いつも通り、エルダと挨拶を交わす。
不意に、エルダはいつもと違うグレイスの荷物に気付く。
「あれ? お弁当は?」
「あぁ……。なんか、今日は夕食に力を入れたいとかで、学食で、って。なんか、ヴェルエが気を使ったみたいだよ? 最近、ずっとエルダが一人で学食行ってるの、レーヴェが教えたから」
「……あぁ……。そういや、いるんだっけ」
グレイスの首元にかけられた〝聖竜の石〟には、レーヴェが毎日いる。
当然ながら、今日もいる。
「そりゃ言うよね……。別に気にしてなかったのに」
「でも、やっぱり私もたまには学食で食べたいな、って。でも、ヴェルエも料理上手くなったよ? まだ味もバランスも安定はしない食事だけど」
グレイスが言う。
「なんかヴェルエらしいね」
苦笑気味にエルダは返答する。
そして、はっとしたような表情でエルダはグレイスを見た。
「……グレイス、あの、今日の、課題の……ノートを……」
「また?」
「昨日、店が忙しくて疲れたまま寝て、朝起きたら課題あったと思って……」
「レナード先生の補習、受ける?」
「絶対やだ」
グレイスが言うと、エルダは即答した。
確かに、エルダの店が忙しいのは重々承知だし、過去もこんなやりとりをした。
「……仕方ないから、どうぞ。この前のエルダのお母さんのミルクレープのお礼ね」
そう言って、グレイスは課題のノートをエルダに差し出して渡す。
「ありがと! 助かった……」
そう言って席に戻って、課題を写しにかかる。
やっぱりエルダはこうでなければ、グレイスは心の中でそんな事を思った。
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