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9-4

 ヴェルエがキッチンに立つ、のももう見慣れたもので、最初は悪戦苦闘していた料理も、今では少し慣れたようだった。

 味の方はまだまだ、と言ったところだろう。

 今朝は桃色魚を焼いたもの、お味噌汁にご飯だ。


「今日はシンプルだね」


「ん。まぁな。……やっぱ、料理の基本ってシンプルなんじゃないかってレーヴェが」


 そう言うヴェルエは、今日はどこか歯切れが悪い。

 少し違和感を感じながら、グレイスは二人と一緒に食事を始める。


「ヴェルエ、料理上手になったね」


「……え?」


 グレイスが食事をしながらそう言うと、目を丸くしてぽかんとした表情で、ヴェルエがグレイスを見やる。

 一瞬手に持っていた箸を落としそうになったのは、ひやりとしたが。


「……何か変な事言ったかな?」


 ヴェルエの視線に気づいたグレイスが問いかける。


「い、いや! 全然! むしろ嬉しいぐらい!」


 慌てたような口調でヴェルエが言うものだから、グレイスの隣に座っていたレーヴェが苦笑していた。


「お父さんの事、思い出すから」


「……マスターの?」


「うん。お父さんも最初はこうだったんだろうな、って。……小さい頃の記憶だからあんまり覚えてないけど。お母さんがフォローしてたっていうのも頷けるな、って。なんか、ちょっとずつだけど思い出してきたんだよね。……お母さんと一緒にいた頃の事」


 目の前で起きた惨劇、あの日以来記憶に蓋をしていたのかもしれない。

 けれど、区切りがついた今、もうその蓋は開けてもいいのではないか。

 グレイスは最近よくそれを感じるようになったのだ。


「だから、ヴェルエがご飯を作り始めた頃はさすがに驚いたけど、……やっぱりちょっと嬉しかったな。――家族、みたい、な」


 不意に二人ははっとした。

 そういえば、グレイスは家族らしい暮らしをしていなかった、という事を思い出したからだ。

 元々あった家族。

 確かに、普通の家庭ではなかったかもしれないし、それが壊れてしまった日から、グレイスは家族というものにどこか憧れがあった。

 マーレの子供たちの件でも、グレイスは親を失った彼らに心を痛めたぐらいだ。

 それほどグレイスには家族と言うものに、どこか憧れと懐かしさを感じていたのかもしれない。


「俺らはグレイスの傍にずっといるよ」


 不意に、ヴェルエが言った。


「だって、家族じゃん? ずっと一緒にいるんだから」


 そう言って、グレイスににか、と笑んだ。

 グレイスは少し驚いた表情をしたが、すぐに少し嬉しそうな表情になった。


「……そうだね。二人がいるもんね」


 グレイスは、そう言って、食事を再開する。

 自分は決して一人ではなかった、二人はずっと一緒にいる。

 形は違う、だけど、三人は家族。

 グレイスの心は、少し温かくなった気がした。


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