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夕食後に食べた、エルダの母親のミルクレープも三人で美味しく頂いた。
エルダの店の人気商品でもあるし、何より何度か頂いた経歴もある。
味は保証済みだし、グレイスも好きだったので、表情にはあまり出さなかったものの、内心嬉しかった。
やがてグレイスは寝室に入って、そろそろ寝ようかと思った時。
扉をノックする音が聞こえる。
「入るよ」
そう言って入ってきたのは、レーヴェだった。
「何かあった?」
「グレイスと少し、話がしたくて」
そう言って、二人で並んで、グレイスのベッドの縁に座る。
床で座るのもどうかと思ったし、椅子はグレイスの勉強机の一脚しかない。
ならば、と何も言わずにそうした。
こうすることも、慣れている。
「話って、何?」
明日は学院に登校する日だ。
早めに話を終わらせよう、そう思ってすぐにグレイスが切りだした。
「うん。グレイスの事」
レーヴェは問いかけた。
「本当はもう、決まってるんじゃないかって。グレイスの中で」
その言葉が指す意味は、二人の告白の件だ。
「別にね、ヴェルエが今やってる事が早く終わらないかなとか、そういうのは考えてないよ。だけどね、もし決まっているんだとしたら、早く答えは出してあげた方がいいと僕は思うよ」
「……ねぇ、レーヴェ」
「うん?」
「今朝、お父さんの夢を見た」
「マスターの?」
「うん」
グレイスは言葉を続ける。
「幼い私がいて、お父さんとお母さんのどこが好きなの? って聞いてた。そしたら、お父さんはお母さんの好きなところを自然に私に教えてくれた。まっすぐで、不器用で、甘え下手で、でもお父さん自身のフォローをするところ。そんなところが好きなんだって。これからもずっとお父さんはお母さんの事が好きだって。その話を聞いた私がどうして、って聞いたら、お父さんはずっと一緒にいたいから、だって」
そして、グレイスにもそれがいつか訪れる、と。
その話を聞いて、レーヴェはふと笑んで、グレイスに言った。
「グレイスが選ぶ事だけど、僕が見ていて、グレイスはもう既にその答えを見つけていると思うよ」
「え?」
「一緒にいたいから、って思える人が。それは、その人も同じ気持ちなんじゃないかな」
そう言って、レーヴェは立ち上がる。
「寝る前に邪魔しちゃったね。おやすみ、グレイス」
「ううん。……なんだか、はっきりした気がする。今までもやもやしてたのが、晴れるみたいに」
「ならよかった。後はちゃんと、グレイスが気持ちを伝えてあげてね」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ」
そう言って、レーヴェは部屋を出た。
グレイスはその背を見送ってから、ベッドに入る。
自分の答えは、知らない間に決まっていたのだと、そう感じて。
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