9.その心の答え
「お父さんは、お母さんのどこが好きなの?」
幼いグレイスはアドゥンに問いかける。
その問いに、柔らかい笑みで答える。
「お父さんはね、お母さんのまっすぐで、でも少し不器用なところが好きだよ。甘え下手で、しっかりしてないお父さんをフォローしてくれるところも、全部がね。それに、これからもずっと、お父さんはお母さんを好きでいるだろうね」
「どうして?」
「お父さんが好きだと、ずっと一緒にいたいと思うからだよ。それに、それはいつかグレイスにも訪れるんだ。好きだと思える人がいて、一緒にいたいと思える人が出来る日が、必ず」
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幼い頃に、そんな事を聞いた事が一度だけあったな、とグレイスは夢の中で思い出す。
お互いの思いは、最終的には違えてしまったけれど、その頃はお互いの事を大切だと思っていたはず。
「好きだと思える人がいて、一緒にいたいと思える人、か」
グレイスは夢から覚めて、夢での言葉を呟いた。
それが恐らく、今、という事なのか、グレイスにはよくわからなかったが、その気持ちは自然にわいてくるのだろう、と考えた。
ここのところ、朝から頭をよく使うな、と不意に思い、少しため息をついた。
「巻き込んでるレーヴェにも悪い事してるのかな」
ぽつり、呟く。
だが、レーヴェの事だから、気にしないよ、と言われるのも目に見えた。
「もうちょっとだけ、レーヴェには我慢して貰おう」
やっぱり、今の段階では、心の靄は晴れなかった。
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