8-7
「ヴェルエが料理?」
「うん。昨日から毎日励んでる」
翌日の学院での、グレイスとエルダの会話である。
エルダは驚いたような表情でグレイスを見た。
「お父さんのレシピ帳とにらめっこしながら、毎日作ってる。だから」
これ、とグレイスの目の前にあったのは、お弁当。
学食を食べる、と言ったのに、ヴェルエが朝から弁当を作ったから持って行け、と持たされたものだ。
「だから、今日は一緒に学食行けない」
「……グレイス、中身見た?」
「見てない」
「見てもいい?」
「別に構わないけど……」
減るものではないので、エルダの申し出にあっさり了承するグレイス。
グレイスがお弁当のふたを開けると、白いご飯、その上に盛られたのは、牛肉を甘辛く煮たもの。
「……えっと、牛丼?」
「……野菜とかないのかな」
正直それだけで、サラダなど可愛らしいものは添えられていない。
少しため息をついたグレイス。
「というわけで、ごめんね?」
「や、いいよ。一人で行くのも慣れてるし……」
エルダとしては、グレイスと唯一二人で一緒にいれる時間が学食の時間であって、それがそがれるのは辛いものではあったが、今日は仕方ないと割り切った。
「あとで感想聞かせてよ」
「……期待しないでね」
苦笑しながら、エルダは教室を出て、グレイスは目の前のお弁当とにらめっこ。
「……もう少しバランスというものを考えた方がいいと思うな」
ぽつりと呟いて、食事を始める。
首にかけている〝聖竜の石〟の中には、レーヴェしかいない。
どうやら、ヴェルエは家で料理の特訓をするとかで、今日は留守番をすると自ら志願したので、レーヴェだけが一緒についてきた事になる。
《ヴェルエにはバランスを考えるっていう概念がなさそうだけど》
石の中にいたレーヴェが言う。
その言葉を聞きながら、グレイスは一口、ヴェルエの手作り弁当に手を付けた。
「……これじゃ、毎日お肉になるんじゃないかな。でも、味は改善された、のかな」
そう言いながら、食事を進める。
せっかく作ってくれたのだから、味やバランスの事は置いておいたとして、全部食べようと思ったのだ。
《当分大変だね、グレイス》
「それはレーヴェも一緒だよ」
誰もいない教室で一人で食べるお昼。
なんだか、不思議と寂しかった。
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