8-3
翌日、起きていつものように学院に行く準備をして、朝食を取ろうとキッチンへと向かうと、そこにはヴェルエが立っていた。
「おう、おはようグレイス」
「……何してるの?」
「何、って。飯作ってるに決まってんだろ」
ヴェルエの傍には、アドゥンの料理のレシピ帳。
いつもならグレイスの仕事、というよりグレイスが自らやるのだが、どうやら今朝はヴェルエが朝食を作っている、という見た事のない光景。
「グレイス、おはよう」
一方、ダイニングの椅子に座っているレーヴェに声をかけられる。
「……おはよう、レーヴェ」
至っていつも通りなレーヴェの隣に座るグレイス。
どうしてレーヴェは普段通りにいれるのか、グレイスには不思議でたまらなかった。
「朝早く起きてさ、グレイスの為に朝ご飯作るんだ、って張り切って。ヴェルエ、食べる専門なのに、不思議だよね。見てて面白い」
「……どうして私の為に朝ご飯?」
「さぁ? どうしてだろうね。もしかしたら、昨日グレイスに言ってた事、本当なのかもしれないよ?」
そう言って、レーヴェはグレイスに微笑む。
「……昨日の、あれ? 好きって」
「そう。エルダくんと張り合いたいような様子じゃなかったからね、僕が見る限り」
「……ねぇ、レーヴェ」
「何?」
「……こんなこともわかんないのか、って思われるかもしれないけど、聞いてもいい?」
「うん、いいよ」
「好き、って感情は、どこから生まれて、それに対する答えはどうすればいいの?」
「かなり難しい問いかけだね」
うーん、と少し考えてから、レーヴェはこれは一つの個人的な意見だと前置きしてグレイスに言った。
「好きっていうのはさ、自然に生まれる感情なんだと思うよ。例えば、今まで一緒に何気なく過ごしてきた人が、突然魅力的に見えたり、一緒にいたいって思ったり……。そういうものなんじゃないかな。だけど、それに対する答えは、グレイス自身が考えるべきかな。きっと二人は、グレイスの本当の気持ち、それを望んでるから、例え受け入れなくても、それがグレイスの本当の気持ちなら、納得すると思うよ。……まぁ、僕はそれぐらいのアドバイスしか出来ないかな。後はグレイスが考える事だと思うし、相談ぐらいなら、いつでも聞くよ」
レーヴェの言葉に、好きというものは難しいと思った反面、レーヴェが心強い味方だと感じた。
そんな会話をしているうちに、ヴェルエの朝食が完成したようだ。
「出来た! 多分完璧!」
そう言って出されたのは、オムレツ。
それにパンを添えて出された。
確かにレシピ帳には、オムレツのレシピが記載されていたのはグレイスも知っている。
オムレツの形は少々歪で、焦げ目がついている。
「さ、学院行かなきゃだろ? これ食って元気出せ!」
「……え、あ、うん。いただき、ます」
ヴェルエの勢いにのまれながら、グレイスはそう言って、オムレツを一口食べる。
中にはトマト、玉ねぎ、ズッキーニが細かく刻まれたものが入っている。
ソースはトマトソース、なかなか洒落ている。
ただし。
「……具材の味、濃いよね」
「いや、全体的に味が濃いよね」
「え、うっそマジかよ! 俺、レシピ通り作ったぜ?」
「……合間に味見してみた?」
「……してない」
「お父さんのレシピ帳、分量が適当だから、ちゃんと味見しないと駄目だよ。……うん、でも、ヴェルエが頑張って朝から作ってくれたから、食べる」
「グレイス……!」
グレイスがそう言ったのに対して、ヴェルエは目を輝かせてとても嬉しそうな表情を浮かべた。
それを見ながら、レーヴェは苦笑いを浮かべながら、単純だな、と心の中で呟いていた。
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