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二人がそんな事を思い返していると、がちゃりと扉が開く音が聞こえた。
グレイスの部屋ではなく、玄関だ。
「もう! 二人とも、いるんだったらいるって言ってよ。俺、何回もドア叩いてたのに全然気づいてくれないし!」
そう言って入ってきたのは、エルダだった。
「ごめんごめん、エルダくん。ちょっと昔の事を思い出してたから」
「全然気づかなかった。悪いな。……ん?」
二人がエルダに謝罪して、ふとヴェルエがエルダの右手に持たれていた袋に入った箱に見覚えを感じた。
「あ、これ?」
ヴェルエの視線に気づいたエルダは、袋を掲げて言う。
「母さんの新作。母さんもグレイスの事心配してるからさ。持って行って食べてもらえって」
そう言って、袋を手渡されて、ヴェルエが言った。
「これだ!」
「え? 何、ヴェルエ」
「レーヴェ、これだよこれ! エルダの母さんのお菓子! グレイスの好きなもん!」
「……え、まさかこれで部屋から出すのに釣るってこと?」
「そ。おい、エルダ。これ、中身何?」
「え? 中身? ……確か、タルトだったと思う。二つあるって言ってたかな。林檎のタルトと、苺のタルト、だったと思うけど」
それを聞いて、ヴェルエの口角が悪戯っぽく上がる。
「グレイス喜びそうなラインナップじゃんか! これでグレイスを釣れ――」
「……うるさいな。何の騒ぎ?」
ヴェルエの言葉を遮って聞こえたのは、部屋から出て来たグレイスのものだった。
「誰を釣るって? ヴェルエ」
「グ、グレイス、誤解だ! その、そろそろ部屋から出てきてほしくてだな……」
ヴェルエが必死に弁解するのを、呆れた瞳で見つめるグレイス。
久しぶりに顔を出したグレイスに、三人は内心驚いた。
「あ、グレイス……、お邪魔、してる」
「うん。……久しぶり、エルダ。座って。お茶、出すね」
簡潔に挨拶を交わしてから、グレイスがキッチンに立つ。
エルダはおとなしく、すとんとダイニングの椅子に座る。
急に静かになる一同に、グレイスはお茶を差し出す。
「……怒ってるか? グレイス」
恐る恐るヴェルエが問いかける。
「怒ってるわけじゃないよ。……うるさかっただけ」
呆れた口調でグレイスがそう言って、ふとテーブルの上にある箱に目をやる。
「お母さん?」
「あ、うん。新作。味見、って」
「エルダも食べよう。分けてくる」
そう言って、新作のタルトを切り分けるために再びキッチンに立つグレイス。
エルダはどこかグレイスと会話するのを緊張していた。
ぎこちない返答に気にも留めなかったグレイス。
もしかしたら、もう元気なのだろうか。
そんな事を考え巡らせながら、キッチンに立つグレイスを見つめていた。
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