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7-3

 それはある日、グレイスがアドゥンと魔法の訓練をしていた時の話だ。

 当初のグレイスは、当たり前だが失敗ばかりの子供で、学院に入って、学院制服を着るのに憧れていたが、魔法の訓練は苦手だったのだ。

 その日も失敗をして、その弾みで庭で飛んでいた鳥を撃ち落としてしまったのだ。

 それを見て、「とんでもないことをしてしまった」とグレイスは感じて、絶句した。

 訓練では厳しいアドゥンはそれを見て、グレイスに言った。


「グレイス! 駄目だろう、生き物を殺してしまったら。苦手なのはわかるが、こんなことをしてしまったら、魔法使いはおろか、聖竜使いとしても失格だぞ」


「……ごめんなさい」


「私に謝っても駄目だ。……グレイス、ちゃんとお墓を作って弔ってあげなさい」


 そう言ってから、アドゥンは家へと戻り、グレイスは泣きながら鳥の墓を作って、泣きながら「ごめんなさい」と何度も何度も謝罪をしていた。

 家に戻っても、グレイスとアドゥンとの会話はなく、重い雰囲気のままだった。

 アドゥンが自室にこもってから、レーヴェとヴェルエは彼に言った。


「マスター、いくらなんでも言い過ぎでしょう?」


「グレイスが一人前になるためだ、仕方ないだろう」


「でも、突き放し方が乱暴っつーか」


「……二人とも。グレイスは仮にも私の後継ぎだ。それはお前たちもわかっているはずだ。それに、甘やかしては立派な人間にはならない。一人前にもなれない」


 ぴしゃりと正論を並べ立てたアドゥンの気迫に押され、二人は押し黙る。


「グレイスは失敗を恐れるから、魔法を上手く扱えない。確かに、後継ぎという言葉はグレイスにとっては重圧でしかないだろう。失敗してはいけない、完璧でなければならない。決してそうではないのに、グレイスの悪い癖だ。そしてそれを自分一人で抱えて一人で解決しようとする。……誰にも頼らないのも、グレイスの悪い癖だ」


 はぁ、とため息をついてアドゥンがそう言った。

 自分の娘の性格は、自分が一番知っている。

 恐らく、今日の失敗と鳥を撃ち殺した罪悪感を持って、明日は泣きはらした目で起きてくるのだろう、安易に想像出来た。


「失敗を恐れなくなったら、グレイスはきっと一人前の人間になれると思うんだがね」


 不意にそう呟いて、二人を見てからアドゥンは言った。


「グレイスがもし、主になるその日が来ても、お前たちはグレイスをちゃんと守ってやってくれ」


 その瞳は、どこか憂いを帯びた、そんな瞳をしていた。


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