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6-3

「グレイスさん」


 魔女がいなくなった、その瞬間、ノインがグレイスに言った。


「助けてくれて、ありがとう。……あと、ごめんなさい」


「どうしてノインくんが謝るの? 謝るのは私のほうだよ。辛い思いをさせたのは、私だから」


 カーマインではなく、グレイス自身が悪い。

 それを聞いて、口を開いたのはレーヴェだった。


「グレイス。どうして自分で全て背負い込むの? 僕たちにだって、何も言わなかったよね。マスターが死んだあの日、涙だって流さなかった。一人が辛いなら共有すればよかった。なのにそれをしなかった。それに、気づいていたからここに来たんでしょ? 魔女がグレイスのお母さんだった、って」


「……」


 グレイスは目を伏せて、黙った。

 レーヴェとヴェルエは、もう竜の姿から人間の姿に戻っていた。

 もう竜の姿でいる必要がなかったからだ。

 黙ったままのグレイスの手を引いたのは、エルダだった。

 そのまま、エルダはグレイスの頬をぱん、と叩いて言った。


「グレイスはずっと何も言わなくて、誰も頼らなくて、何も教えてくれなくて! グレイスの馬鹿!」


「……エルダ……?」


 唐突に頬を叩かれ、そんな事を言われたグレイスは、びっくりしたように瞳を見開いてエルダを見た。

 そのまま、少し間をおいて、グレイスは力なく言った。


「……エルダ、ごめん」


 声音は震え、エルダを見つめる瞳には涙が浮かんでいた。


「心配させたくなかったの。エルダはきっと、私のお母さんが魔女だって言ったら、こんな状況でも引きとめたでしょう? どうして肉親を殺さなきゃいけないんだ、って。私だって、こんな形でお母さんに会うのも、お母さんをこの手で殺めるのも、本当は辛かったし嫌だったよ。だけど、そうしなきゃいけなかった。そうしなきゃ、ノインくんたちを守れなかった。――お父さんが亡くなったあの日から、私は〝お母さんがいた〟っていう事を忘れようとしてた。あんなの〝お母さん〟じゃない、〝魔女〟だって。幼い頃の自分の中の記憶からも、〝お母さん〟の存在を消そうとしてた。だけど、やっぱりそれを消し去るのは無理だった」


 ぽつりぽつりと語られるグレイスの言葉に、エルダはグレイスの頬をぶった後悔と初めて知ったグレイスの気持ちに、胸が押しつぶされそうだった。

 やがて、グレイスは静まり返ったこの場で、言った。


「ルーネスタ王国に戻ったら、私の事は少しそっとしておいて」


 そして、ノインたちを見て、言った。


「約束、守れて本当によかった」


 微笑んだグレイスの表情は、少し悲しさを帯びていて、その場の誰もが黙ったまま、グレイスを見つめた。


 ――傷ついたのは子供たちだけではない、グレイスも同じだ。


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