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 授業には実技もあるが、きちんとした教室での授業がある。

 実技授業よりもこの授業の方が、皆はやはりつまらないのだろう。

 けれど、見習いたるもの、この学びも重要なのだと一応理解はしているのか、欠席をする生徒はいない。

 やがて昼食休憩に差し掛かり、休憩となると色めき立つように教室中が賑やかになる。

 この学院では、基本的に持参したお弁当か、学院内にある学食で食事が決まりになっている。

 グレイスは専ら学食を使う。

 一人で暮らしていると、お弁当も作る事もないし、食べれれば特に何でもいいのだ。

 朝食も夕食も、家だと質素なので、お昼ぐらいはと学食にする。

 学食も授業料に含まれているため、その日のメニューを見て、それを頼めば出してくれる。

 グレイスと同じく、エルダも学食を使う。

 彼の場合、母親が「せっかく授業料に含まれているなら学食にしなさい。その方が私の手間が省ける」と言って、学食を利用するそうだ。

 単独行動の多いグレイスに対して、エルダはそんなグレイスと一緒に行動を共にしようとする。

 昔からそうだった。

 幼馴染、というのもあるが、昔から二人は仲が良く、今現在も決して喧嘩をしているわけではない。

 グレイスがただ距離を置いているだけで、お互いの関係は何も変わってはいないのだ。

 だから、別にエルダが一緒に行動を共にしていても、グレイスには何も気にならない。

 今更もう珍しい光景でもないし、一緒についてこないで、とも言わないグレイスの性格は、昔も今も変わってはいない。

 少なくとも、昔はもう少し交友的であったかもしれないが、家系が家系だけに、人付き合いが苦手だったりもする。

 その点、エルダが少し羨ましかったりもする。

 誰とでも仲良くできて、いつも明るくて、そんな性格が羨ましい。

 けれど、別に疎ましいとは思わないし、一緒にいてグレイスの心の中で安心できる人物だというのは確かだ。

 食堂に辿りつけば、生徒たちでにぎわっていた。

 初等部から高等部まで、全員がここを使うので、食堂内もとても広い。

 学院の中もまるで迷路のように広いので、初めて使う移動教室はいつも迷子が数人出る。

 他の生徒たちに混ざって、グレイスとエルダは注文の列に並ぶ。

 食券で買うものではなく、直接言って受け取ったものを好きな席に座って食べるのだ。


「ねぇ、グレイス。今日は何食べるの?」


 エルダの問いかけに、少し考える。

 この学食には、いつもある定番メニューと、その日のお勧めの日替わり学食セットが三種類ある。

 今日は桃色魚のフライ定食、ビフチューオム定食、クレア・スペシャルの三品。

 桃色魚はルーネスタ王国で獲れるポピュラーな魚で、フライにしてもふわふわな食感が楽しめる魚。

 ビフチューオムは、とろとろ玉子のオムライスにじっくりことこと煮込んでとろとろほろほろの柔らかい牛肉がごろごろと入ったビーフシチューがかけられたもの。

 クレア・スペシャルは、この食堂の女性料理長であるマザークレアが作る料理で、毎日名前は出ているものの、内容は毎日変わっている。

 今日は学食一番人気の学食カレーにチキンカツが乗ったボリュームたっぷりなものらしい。


「……桃色魚のフライ定食にする」


「じゃあ俺、クレア・スペシャルにしようっと」


 お互いに食べるものを決めて、カウンターで注文をしてから、その場で出来上がったものを受け取る。

 そして、トレイを手に窓際の奥の席に歩を進めて、座る。

 大抵、グレイスの食事の定位置はここだったりもする。

 空いていない時は仕方ないけれど、なるべく早めに行って座れるようにと、学食には早めに向かう。

 窓際は開放的なガラス張りになっていて、食堂が学院の階段を上がって四階なので、ちょうど見晴らしよく広がる海の青が綺麗に見える。

 ルーネスタ王国は、海側、山側に分かれており、学院は海側に位置する。

 対して、グレイスの家は山側に位置する。

 座れればどこでもいいグレイスでも、少しは人の目を気にするので、なるべく端っこを選ぶ事が多い。

 グレイスとエルダは対面席に座って、食事を始める。


「いただきます」


 ここでも、グレイスは挨拶を忘れない。

 それにならって、エルダも「いただきます」と言って食事を始める。

 育ち盛りのエルダはボリュームたっぷりなクレア・スペシャルを頬張るように食べる。

 美味しそうに食べるエルダを見ながら、グレイスもマイペースに食事を始める。

 桃色魚はフライにしても美味しいが、ソテーにしても美味しい。

 グレイスはどちらかと言うと肉より魚が好きだ。

 生前、父親は調理当番だった。

 バランスを取りつつも、かつボリュームもある食事を作る父親に、よく「食べ切れない」と抗議したほどだ。

 けれど、「食べ物を残すと呪われる」と冗談めかして幼い頃から言われ続けたグレイスは、出されたものは残さず食べるようにしていた。

 学食も同じく、残した事は一度もない。


「あー、美味しかったー」


 がっつくようにクレア・スペシャルをいつの間にか食べきっていたエルダは満足そうにごちそうさまをしていた。

 グレイスがふと見ると、口の端にご飯粒がついていた。


「……口」


「え?」


「……ご飯粒。午後の授業、それつけて出るの?」


 指摘されたエルダは焦って口の端のご飯粒を取って、言った。


「絶対やだ。だって、午後の授業の担当、レナード先生じゃん。絶対怒られる。つか、あの先生ほんと苦手。堅苦しいっつーか、教育ママみたいでさ」


 エルダの言うレナード先生とは、魔法の基礎、歴史を主に指導している教師。

 そして、学院一厳しい先生と皆が恐れている。

 グレイスも例外ではないが、誰かが知識を教えてくれるというのはあり難い事だし、特には気にしないし、厳しいのは愛故だろうと感じているからだ。

 誰にでも平等、特別扱いは全くない。

 それも当たり前。

 甘くされたら、何のために学院に学びに来ているのかわからなくなる、とグレイスの個人的な意見もある。


「寝てたらチョーク飛んでくる」


「……エルダが寝なければいいだけだよね」


「そんな事言ったって、飯食った後は眠くなるでしょ? 人間の性だよ、性」


 それは確かにそうだ。

 誰だって食事をして、気持ちが緩み切ってしまえば、眠くはなる。


「ねぇ、グレイス」


「……何?」


 真剣な声音で名前を呼ばれ、不思議にエルダを見ると、そんな真剣な声音と裏腹に、呆れた内容の話を切り出された。


「昨日の宿題写させて!」


「……今回もレナード先生の補習受けたら?」


 またか、とグレイスは頭を抱えて、その一言で切り返した。


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