5-2
マーレは、国と言う名の様相をしてはいなかった。
砂塵が舞い、家屋や商店は朽ち果て、たった一つあったのは、塔の形をしてそこに寂しそうに佇んでいるマーレの城。
庭園があった、と思われる場所は、緑が死んでしまったかのように、色を失っている。
二人は本来のマーレの姿を知らないが、こうなる以前はこんなにも寂れ、暗い空気が漂う国ではなかったのだろうと安易に想像出来た。
「残ってるのは城だけ。あとは全部〝魔女〟が処分したってか。……にしてもひっでえな」
竜の姿だったレーヴェとヴェルエは、二人を降ろしてから人の姿に戻っていた。
マーレに着いて、初めて発言したのがヴェルエだ。
それは三人も同意見だった。
よもやここは国ではない。
砂の荒れ地、という表現もおかしいのかもしれないが、そう言ってもあながち間違いではないだろう。
そして、残された城に、マーレの子供たちが囚われている。
グレイスは城を見つめて、どこか胸騒ぎを覚えていた。
ノインたちは未だ無事なのだろうか。
そして、魔女がこの国を選んだ理由がわからない。
何よりも〝魔女〟の正体がわからない。
不意に何か強い視線のようなものを感じ、グレイスの表情が少し強張る。
「どうしたの? グレイス」
エルダに心配そうに問いかけられて、ふと我に返る。
「……ううん。なんでもない」
視線はグレイスを見ているような感覚だった。
それは恐らく魔女のものなのだろうと感じたが、エルダには言葉を濁すようにそう返した。
――もしかしたら、私の予想は当たっているのかもしれない。
視線の感覚は、グレイスが感じ、知っているような感覚がしていて、気味が悪かった。
何より、その視線がなぜグレイスだけに向けられたのか。
今は何もない国、そこに来訪者が訪れればすぐにわかるだろう。
そもそも竜の姿のレーヴェとヴェルエの背に乗って来たのだから。
けれど、その視線に気づいたのは、グレイスただ一人だった。
――今はそんな事気にしてはいけない。
グレイスは眼前の城を見据えて、言った。
「行こうか。ノインくんたちを、助けに」
その言葉に全員が黙って頷いて、城に向けて歩を進める。
緊張感だけが張り詰めていた。
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