5.使命と対峙
翌週の休み。
エルダはグレイスの家にいた。
「ご両親に、話はした?」
「してきた。怒られるかと思ったけど、グレイスと一緒だったら大丈夫だろうって。どっから沸いてきた自信かわかんないけど、俺の父さんも母さんもグレイスに訓練してもらってたの、知ってるからさ。だから、多分」
「そっか」
二人は学院の制服を着ていた。
示し合わせたわけではないが、お互いそれを着ることを決めたのだ。
エルダは気合いを入れるため、グレイスは〝聖竜使い〟の学院生という事実で子供たちを安心させるため。
「エルダ、こんなことに巻き込んでごめん」
「なんでグレイスが謝るの。俺が決めたんだ、手伝わせてくれって」
エルダは不安を感じさせないように、笑顔で徹している。
内心不安な部分があるものの、自分が決めたことだとこの日まで言い聞かせて来た。
だから、後悔もなければ、自分が出来る限りの事をしようと思っていた。
「ねぇ、グレイス」
「何?」
「その、無事に終わったら俺……」
不意にグレイスに告げようと思った言葉を、エルダは途中で飲み込んだ。
「やっぱ、なんでもない。気にしないで」
そう言って、エルダは続きの言葉を言わずに、グレイスに微笑んだ。
グレイスは少し怪訝そうな表情をしたが、何もないなら、と短く言った。
「おい、グレイス。そろそろ出発すんぞ」
そう言葉をかけたのは、ヴェルエだ。
今は竜の姿でグレイスの前に姿を現している。
マーレまでは距離があるため、レーヴェとヴェルエには竜の姿になってもらって、その背に乗って向かう事にしていたのだ。
「うん、わかった。ヴェルエ、エルダをお願い」
「了解」
「……俺、振り落とされない?」
「しねーよ。そんなことしたらグレイスに怒られるどころの騒ぎじゃなくなるわ」
そう言って、エルダに背中に乗るように促すヴェルエ。
エルダはヴェルエに乗って、グレイスはレーヴェに乗る。
「――じゃあ、行こうか。マーレへ」
グレイスの言葉が号令のように、レーヴェとヴェルエは羽ばたき、飛び立つ。
竜の背中に乗って飛ぶなんて貴重な経験だと、どこか頭の片隅でそんな事をエルダは思っていた。
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