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食事をして、少し休憩をはさんでから、家の外に出た。
グレイスの家の庭は広い。
理由は、レーヴェとヴェルエとの実技で使うため、アドゥンが庭を広くしたのだ。
これなら魔法実技も簡単に出来るし、庭に関しても定期的に手入れをしているので、雑草があまり生えていない。
「グレイスの家の庭って初めて見るけど、広いんだな」
「まーな。俺らがグレイスと一緒に実技しなきゃなんねえからな。さすがに人間の姿で実技はしないから広いってわけ。ただでさえ俺らは竜の姿だとでかいのに、狭かったら動きようがないからな」
エルダの呟きにヴェルエが答える。
そんな話をしていると、グレイスが家から出て来た。
服装はなぜか学院の制服姿だった。
「グレイス。……制服じゃないと駄目だった?」
一応、と思ってエルダが問いかける。
「いや、別に。学院の制服着てたら、ちゃんとその気になれるかな、って。……正直、お父さんみたいに真っ黒なスーツ姿で練習するのも嫌だし。そもそもエルダと魔法の実技するんだから、この格好でいいかな、って」
一方のエルダは、グレイスから事前に「動きやすい格好で」という話を受けていたので、制服でもなければかなりラフなジャージ姿だ。
なので、一瞬いいのか、と感じたが、別にグレイスが何も言わないところを見ると別に構わないのだろう。
「グレイス。僕らはどうすればいいかな? エルダくんの特訓」
「今はいいよ。二人はそのまま見てて」
レーヴェの問いかけにグレイスがそう返答する。
どうやら今日は一対一で実技をするのだとエルダは理解する。
レーヴェとヴェルエは庭に備え付けられたベンチに座って、静観する。
「じゃあ、始めようか」
グレイスがそう言うと、一瞬にして空気が張り詰める。
エルダにすれば、学院の実技授業の時よりもはるかに重圧的な緊張感。
瞬間的に身構えてしまう。
「エルダが学院で学んだ中で今のところ得意な魔法は?」
「……えーと、あれ。〝風魔法〟。得意というより、使いやすいというか」
「じゃあ、その魔法の強化してみようかな。使いやすい魔法って、自分に合った魔法なんだって、お父さんが言ってたから」
なるほど、とエルダは納得する。
授業で習った講義内容を思い出すと、〝風魔法〟は攻撃と守護のバランスが一番いいのだとレナード先生が言っていた。
「俺、エルダは〝炎魔法〟が得意かなと思ったんだけどな」
「あれは無理。使いこなすのに時間かかりそうだもん。嫌いじゃないけど、難しい」
「人はみかけによらないんだよ、ヴェルエ。完全にエルダ君のイメージで言ったよね、今」
「確かに、実技授業でもエルダは〝炎魔法〟は使いこなせてなかったよね」
「……グレイスさ、今凄いストレートに俺に毒吐いた?」
「え? そんなつもりはなかったんだけど。……気に障ったならごめん」
「いや、いいけど……。確かに使いこなせないよ、今は。もう少し頑張らないと。それはちゃんと自覚してるから、大丈夫」
「グレイス、マスターに似てきたな、本格的に」
「うるさいよ、ヴェルエ」
グレイスとエルダのやりとりを聞いて、苦笑しながら言ったヴェルエにぴしゃりとグレイスが切り返した。
グレイス自身が気づいていなくても、周囲から見ればそう見える。
特にレーヴェとヴェルエは、グレイスは間違いなくアドゥンに似てきていると思っている。
「じゃあ、まずは〝風〟を自分で操れるようになろう」
〝風〟を自由に操れるようになれば、少しずつスキルアップが期待できる。
まるで本当に学院の授業だ、頭の片隅でエルダはそう思った。
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