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3-11

 ノインと出会った翌日。

 グレイスは、放課後に学院内にある大図書館にいた。

 ここには、学院所有の本がたくさん置いてあり、珍しいものや、国外からの本も置いてある。

 過去新聞のスクラップも同じように保管されている。

 ジャンル順に並べられた本棚を一つ一つ見ながら、過去新聞のスクラップ本を探す。

 グレイスは本が好きだ。

 だから、たまに放課後にここに来ては、本を読み、知識を植え付けていく。

 アドゥンの書斎にも本はあるが、大図書館の方が圧倒的に数が多い。


≪グレイス、どうしたの?≫


 石の中から、レーヴェの問いかけがある。

 それを、口頭ではなく心の中で、応答する。


『マーレの事が知りたいから、新聞をね。あとは、マーレにどうやって行くか、ルートを考えないと。私はあの子みたいに〝転移魔法〟なんて使えないから』


 びっしりと本棚に詰められた本を一つ一つ目で追いながら、いくつか手に取っていく。

 しっかりと関係があるものではないかもしれないものも含め、本を手に取って行けばグレイスは止まらない。

 六冊ほど手にして、それを抱えて館内の長机にそれを置いて、椅子に座る。


≪借りればいいのに≫


 ヴェルエが言う。


『閉館時間までに読み切れなかったら借りて帰る』


 放課後が午後四時。

 帰宅する生徒や補習や自習など、生徒によって様々だ。

 大図書館が閉館する時間は午後六時。

 およそ二時間の間に六冊は難しいかもしれないのも、グレイスは想定内だ。

 一冊目を手にして、本を開く。

 本を読み始めると、グレイスは時間を忘れるぐらいにその世界に没頭する癖がある。

 それを知っているレーヴェとヴェルエは、時間を見て、グレイスに声をかけることにする。

 グレイスが本の世界に没頭し始めてから、レーヴェとヴェルエは石の中で会話を始める。


≪マスターが人助けをよくしてたの思い出す≫


 まずそう口を開いたのはヴェルエだ。


≪そうだったね。どんな些細な事でも、マスターはいつも真剣だった≫


 レーヴェもそう思うと、口を開く。

 アドゥンがお人よしだったというのもあるが、それも〝聖竜使い〟である自分の仕事なのだと言っていたのを、二匹は覚えている。

 グレイスが昨日ノインに言っていた、〝聖竜使い〟の家系は、救いを求める人には応じるのは代々の言い伝え、というのは、本当の事だ。

 なので、アドゥンが些細な事でも人助けをする事もよくある話だった。

 だから、今グレイスが行っている事も、当たり前の行動なのだ。


≪やっぱ、グレイスはマスターの背中をずっと見てたから、こうする事が当たり前だと思ってるんだろうな。ただ、これまでの人助けとは違うな。今回の件は≫


≪そうだね。人助けというか、何か事件に巻き込まれている状態、って言ったほうが正解なのかもしれない≫


 些細な人助けは、いなくなった猫をさがしてほしいというものから、人生相談など、それの種類は様々で、実際二匹を使役するまでもないもののほうが多かった。

 二匹は当たり前のようにそれも知っているが、今回のケースは二匹でも未だ当たった事のない事案だった。


≪グレイス、子供たちの事、心配なんだろうな≫


≪ヴェルエがそんな事言うの、珍しいね≫


≪べ、別に……。つーか、思った事口にしただけだし。……その、多分自分と同じだと、思ってんのかな、って≫


≪きっと、そうだろうね。親が亡くなる、グレイスも体験しているわけだから、ノインくんたちの辛さもわかるだろうね。グレイスは、優しくて、傷つきやすいから≫


 昨日、ノインの話を淡々と聞いていたが、グレイスは自身の体験と投影していた。

 親を失った子供の辛さ、グレイスには住む家があるが、マーレの子供たちは魔女に囚われている。

 ということは、彼らには住む家さえ失われたのだ。

 それは、二匹にも安易に想像出来た。


≪それに、今子供たちが危険にさらされてる。その事実もあるから、なんとかしてあげたいっていう気持ちがあるんだろうね、グレイスには≫


≪だろうな。出来る限り、俺たちも力になってやりたいな≫


  ヴェルエがそう言って、ふと時間を見ると、閉館時間の十五分前だった。


≪グレイス。時間だよ≫


 それを察知したレーヴェが本の世界にいるグレイスを呼び戻すように言った。

 すると、すぐに戻ってくる。


『……借りて帰る』


 そう言って、グレイスは席を立つ。

 手に持っていたのは、六冊。

 じっくりと読んでいたグレイスには、やはり時間が足りなかったようだ。

 司書に本を借りる旨を告げ、ノートに記入し、図書館を出る。

 外は、夕暮れから夜に切り替わる空をしていた。


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