3-9
「なぁ、グレイス」
「何? ヴェルエ」
夕食後、二人は未だ人間の姿のまま、ダイニングテーブルで課題に取り組んでいるグレイスに話しかけた。
「マーレを根城にした〝魔女〟に引っかかりを覚えてるって言ってたけど。どういう意味?」
「……見てないから何とも言えないけど。よくわからないんだよ、自分でも、正直。どうして引っかかってるのか」
隣に置いてあったはちみつ入りのホットミルクを一口飲んで、グレイスは言った。
「おかしいと思う点は、あの子が言ってた〝食事とお風呂を用意してくれる〟事。あとは、どうして子供たちだけを生かしたのかな、って。その引っかかりが大きな二点かな」
「確かに。子供だけが囚われる意味がわからないよね」
会話にレーヴェも参加する。
「どうして大人だけが殺されて、子供だけが生かされたのか。……これだけ考えても妙な事だよ。そもそも、僕らはマーレっていう国がこういう事態になっている事すら知らなかった。ノインくんが来て、僕らに助けを求めるアクションをしない限りは」
確かに、ノインがここへ来て、救いを求めなければ、彼らがどうなっていたのか、想像がつかない。
むしろ、想像したくはなかったのかもしれない。
「しかも食事と風呂も用意してくれる魔女ってなると、ますます怪しいよな。大人は殺して子供は生かして食事まで与えて。何考えてるかわかんねぇ」
ヴェルエが言いながら、手持無沙汰なのか、指先でペンをくるくるとまわしながら言う。
その討論の間も課題をこなしながらその討論を聞くグレイス。
やがて課題を終わらせたグレイスはノートと教科書を閉じて、一息ため息をついた。
「考えれば考えるほど、答えが見つからない気がする。……明日も早いし寝よう」
学院生である以上、睡眠も勉学も必要なのだ。
グレイスは椅子から立ち上がって、いつものように眠ることにした。
頭の中ではノインが話していた事が残っていたが、それを振り払う様に眠る。
マーレにいる〝魔女〟が、何を考えているのか。
ノインはばれずにマーレに辿りつけただろうか。
そんな思考も、眠る間だけは少し消して。
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