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アドゥンの死後、グレイスは変わってしまった。
眼前で見た凄惨な光景は未だ焼きついている。
あの日のグレイスは、泣かなかったし、今も泣いてはいない。
エルダも、レーヴェもヴェルエも、そんなグレイスを知っている。
けれど、変わらずに接する事しか、エルダには出来なかったし、それはレーヴェもヴェルエも同じだった。
「母さんに感想は報告しとく」
「うん」
「また近々新作の試作あるって言ってたから、また持って来るよ」
「ありがとう」
ふと、グレイスはエルダに問いかけた。
「今日の課題は?」
先日、レナード先生から出された課題、を指している。
「……やりました。だって次はないんでしょ? しかもあれ、テストに出るとか言ってるし」
「……そうだね、テストだね」
「あー、グレイスが羨ましい! って言っても、俺には無理だな」
「え?」
「グレイスみたいに、強くなるなんて」
憂いを帯びた表情で、エルダが言う。
「家系云々じゃなくてさ。昔からグレイスは勉強熱心でさ、俺とは大違い。あの頃に戻って、俺もグレイスみたいに真面目に勉強しとくんだったーとか、学院入ってほんとに痛感してるんだからね」
「……エルダは、きっと私より、強いよ。私はただ、意思が弱いだけ。たったそれだけ。逆にエルダはどんな逆境でも負けない気がするんだ。だから、立派な魔法使いになれると、思うよ」
グレイスの言葉は真剣で、本心だった。
それを受け止めて、エルダは言った。
「ありがと、グレイス。いつか俺、グレイスの力になれたらって、思うよ。非力かもしんないけどさ」
エルダの表情は優しく微笑んで、いつかのアドゥンの影さえ思い出させていた。
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