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何が起こっていたのか。
家が炎に包まれていた。
なのに、その後、どうなったのかはわからない。
ノインが意識を取り戻し、うっすら瞳を開けると、見覚えのある少年少女たちが自分と同じように意識を取り戻していたようだった。
先ほどの魔女は、この部屋には今は不在だった。
「ノイン」
小さな声で、ノインを呼ぶ声を聞いて、そちらへ顔を向けると、同じ年の頃の少年がいた。
「ノーヴェ……」
彼の名はノーヴェ。
青い瞳で、同じ年齢のノインより少し大人びた雰囲気のある彼は、いつもの快活な彼ではなかった。
ノインの名は他の子供たちも知っている。
何より、魔法を使える子供で、マーレの代表的な人間と言えばノインだったからだ。
「……お前、なんで逃げなかったんだよ……? お前の魔法なら逃げられただろ……?」
「やめなよ、ノーヴェ。ノインが困ってるよ」
そう仲介に入った少女は、ドリーと言う。
彼女はしっかり者で、マーレでもしっかり者のドリーと言う名で有名だ。
マーレにいる少年少女たちは、そんなに多くはなく、ここにいるのも十五名程度である。
彼ら全てが顔見知りで、名前もわかる。
「そんな事言ったら、ノーヴェだって一緒だろ。……ノーヴェだって、それなりに魔法使えるんだし……」
そう発言したのは、カトル。
彼はノーヴェの隣の家に住む少年で、おとなしく、魔法使いでもない平凡な家庭の子供である。
ここにいる何人かは魔法使いの家系で生まれ育った子供もいる。
ノーヴェもその一人で、彼は水を操る魔法を使う事が出来る。
「そんな、咄嗟に出来るかよ……! だって、魔女だぞ? 勝ち目ねえじゃんか……」
「ノインだってそうだったんだよ。急にこんなことになって、咄嗟に魔法使えるわけないじゃない」
ドリーがノインを擁護する。
ノインはただ、俯いたままだ。
どうして自分はこんなことに巻き込まれてしまったのか。
自分だけ逃げたとしても、皆は助からなかったかもしれないのに。
どうしてノーヴェが自分に「魔法で逃げればよかった」なんて言ったのか、わからなかったのだ。
「……僕だけ逃げたって、どこに逃げてどうすればいいのか、わかんないよ……」
震える声で、ノインは言った。
泣いていたのだ。
まだ現状が受け入れられず、自然に泣いていたのだ。
その背をドリーが優しく撫でる。
ノインは臆病だ。
それは誰もが承知だったが、その性格を誰も責める人間はいなかった。
「ノイン。俺は、お前に逃げて欲しかったんだよ。お前が足手まといなんじゃないけど、お前なら何か外に伝えられるだろ? マーレに何かあった、って。俺らはそれが出来ない。お前まで巻き込んだら、俺らはどうする事も出来ないだろ」
「……でも、ノーヴェたちが……」
「俺らを構うな、ノイン。お前がどうやってここに連れて来られたのかわかんないけど、少なくともお前だけでも逃げて欲しかった。――二回も、辛い思いしてまで、俺らを庇わなくていいんだよ」
皆、ノインの心の傷を知っている。
それは、ノインの辛い話だ。
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